6.わちき頑張ります!わちき頑張ります!はい、頑張ります!
大爆発が起きて間もなく、ラムネとフーランの二人は床に正座せられていた。
見たところ顔などに汚れはついているが、目立った外傷は一つも負って無いようだ。
ただ彼女らの前には店長である大魔女セブンスが苛立った表情で仁王立ちしており、傍から見ても分かる典型的な説教風景ができあがっている。
実際、セブンスは未だに丸い生物を抱えながらも、苛立ちと呆れた気配が入り混じった声色で喋り始めた。
「あのさぁ。ここへ来て早々、仕事場を吹き飛ばすのは常識的に考えて駄目でしょ。あと教育係のフーランも浮かれる気持ちは分かるけど、新人さんの命に関わることなのに油断し過ぎじゃない?」
「あ、あらま……。まさかセブンス店長から常識と言う言葉が出てくるなんて驚きですの」
「なに、私の魔法で精神支配されたいの?それともボーナスカットがお望み?」
「いえいえ、滅相もありません。今のはほんの冗談ですのよー……」
フーランは茶化そうとしたが、やはり今は下手な発言は危険だと察したようで意気消沈した態度を示した。
また、同じく説教を受けているラムネはスカウターを爆発させた自分に責任があると思い、慌てて彼女を庇った。
「あの、その、私がダメなんです。質問もしないで、勝手に自分でなんとかしようとしたから……。お姉ちゃんにも、一人で解決しようとするのはやめなさいって教えられていたのに……あぅ~……」
自分が悪い。
そして姉の言いつけを守れない自分が愚鈍で嫌いだ。
そんな自己嫌悪と呼べる悲観的な感情が湧き立ち、ラムネは今にも泣き出しそうな表情を浮かべてしまう。
その反応を見かねてというわけではないが、セブンスは優しい声色に切り換えた。
「私は店を破壊したことに怒っているわけじゃないの。ただ、せっかくの人材を迂闊な失敗で失いたくないだけ。一部の商品や店内は時間遡行で元通りになるけど、貴女達もそうとは限らない」
この言葉はどちらかと言えばラムネに向けたものだが、当人が返事できない精神状態なのでフーランが代わりに頷く。
「はいですの……」
「とにかく以後、また店を吹き飛ばしたりしないよう気を付けるように。あとミスを取り返そうと思ってくれるのなら、勤務における誠意で示してね」
「つまり頑張れという事ですのね。それでは改めて仕事に励みましょう、ラムネさん!」
フーランはラムネが過度に落ち込まないよう、一緒に頑張るという形で応援を送った。
しかし、ラムネは簡単に気持ちを切り換えられるほど精神面はタフでは無い。
むしろ弱いくらいで、声どころか全身から気迫が失っていた。
「はい、わちき頑張ります……」
どんな事にも言えることだが、何か行動を起こすとなれば最初が肝心だ。
それが自信に繋がる上、積極的な姿勢を生む。
また日々のモチベーションにも関わるため、すぐにセブンスは新しい仕事を言い渡した。
「よし。それじゃあ一応ミスした罰を与えるとして、この村を回って特売の宣伝しようか」
「特売ですの?そんな予定ありましたの?」
「ついさっき、ちょうど特売に出せる訳あり商品が出来たからね」
要するに、彼女らが爆発で吹き飛ばした商品のことだろう。
確かに言葉通り訳あり商品だ。
ただ、その話を聞いたら結局は不利益を与えてしまったように感じられて、ラムネは更に萎縮して身を縮こまらせてしまう。
だが、セブンスはこの状況が不利益なものだと僅かほども思っていない。
「いいかな、ラムネちゃん。商売に大事なのは機転を利かせること。それは失敗を成功に繋げるチャンスに変えるという意味なの。だから私は突発的な特売というイベントを開催し、効果的な宣伝をしようとしている」
「は、はい」
「そして、今まさにラムネちゃんは自分が失敗したと思っている。それなら成功に繋げるチャンスが訪れたとも考えられるわけ。ここまで言えば、私が伝えたいことは理解できるかな?」
簡単に言ってしまえば、損失を出した以上に客を呼び込んで利益を出せば、この問題は成功体験になると伝えたいのだ。
だいぶ丁寧な説明であり、親切にお膳立てした流れをセブンスは作ってくれた。
何よりも彼女の好意で名誉挽回するチャンスを与えてくれた以上、ここで臆するわけにはいかない。
これから姉を探すためでもあるし、それ以上に自分のために行動してくれる彼女達の優しさに応えたい。
それによってラムネの中で熱意が芽生え、ようやく真っ直ぐな目で顔をあげた。
そして同じ返事でありながらも、まったく印象が異なる意気込みを発してみせた。
「はい、分かりました!わちき頑張ります!」
「うむうむ、良い返事だね。まぁ村の案内とラムネちゃんの紹介って意味合いもあるから、散歩するくらいの気持ちで良いよ。愛想を売りにした方が良いし、緊張した顔を見せるわけにもいかないから」
「はい!わちき頑張ります!」
「なんか……薄々思ってはいたけど、ちょっとだけ語彙力に問題があるなぁ。その素直さは評価できるんだけどね」
「わちき頑張ります!わちき、頑張ります!!」
「あぁ、やっぱり若干不安かも……。ねぇフーランちゃん。私も付いて行くけど、彼女の頑張りが空回りしないよう注意深く見守ってね」
セブンスが保護者気分でフーランに向けて喋っている間も、ラムネは必死に連呼することで自分自身を景気付けしていた。
言葉にすることで勇気を奮い立たせるのは素晴らしい方法だが、どうも彼女の場合だと不安が増す一方だ。
また気持ちばかりが先行して、うまく喋れない彼女の姿がまだ知り合って間もない二人でも容易に想像できるのだった。




