59.スタート直後に初心者狩りはやめて下さいね!
成り行きで、バーチャルリアリティーシミュレーター……通称ⅤRSのシューティングゲーム大会に出ることになったラムネ。
彼女は今、荒れ果てた廃墟の町へ放り出されていた。
ここは既にゲーム世界の中だ。
そしてラムネは外出用のオシャレなレディースファッションから、兵士らしい武装姿に変わっている。
同時に視界はゲーム特有のメニュー画面とステータス表示に覆われていた。
「おぉ……。書いてあることの意味が分からないですし、何も読めません。詰みました。わちきの輝かしいげーむでびゅーは終わりを迎えます」
何も分からないが、ゲームは遊びの一種とだけ分かる。
そのためラムネは普段の反応とは異なっていた。
失敗が許される世界だからと考えて、今みたいに独り言で冗談を言えるくらいに冷静ではあった。
そんなとき、どこからともなく明るい笑い声が聞こえてきた。
『にゃっはっはっは~!やぁやぁ、こんにちは!そして初めまして!私はミファ……じゃなくて、ソラ様ぞ!どうぞ、よろしくレモネードさん!』
「えっ?あれ?どこから声が?姿が見えないですけど……?」
女性の声が聞こえる。
しかし、どこから聞こえてきた声なのかラムネは把握できなかった。
すると相手はラムネの状態を察し、親切に説明するのだった。
『おやおや~、もしかしてビギナーさんかなぁ?これは通信機能の1つ、トークで話しかけているんだよ!ゲームだし、おしゃべり楽しもーぜぇ!』
「通信……あぁ、お店で皆さんが使っているやつですね。ところでレモネードさんって誰ですか?」
『えっ、君のハンドルネームだけど?ありゃりゃ?もしかしてでもしかすると、たまたま遊びに来た子どもかな~。事前にルールブックは読んだ?』
「ごめんなさい、多分読んでないです……」
『あちゃ~。だとすると、もう1人の仲間に勝利がかかっているね。とりあえず簡単に言うと、この私ソラ様とレモネードさん。あと更にもう1人いて、合計3人組チームなの』
「はい。わちきとソラ様さん、そしてあと1人いるのですね」
『うん!で、最初は3人ともバラバラの場所でスタートしちゃうから、まずは合流することが先決!これで大丈夫でしょ?』
ソラ様は元気づけるような調子で話してくれる。
おそらく小さな子どもに対する接し方だが、そのおかげで不思議と安心感があった。
ただ問題は解決されておらず、今の説明だけではラムネに分からないことばかりだ。
「あ、あのすみません。わちき、この遊びのことを1つも知らないのですけど……」
『えぇっ、なんで!?もしかしてでもしかすると、勝利条件とか何も理解していないの!?うっひゃ~!?』
「はい……ソラ様さん、本当にごめんなさい」
『ちょっと待って、驚いたけど謝る必要は無いよ!このソラ様が許す!そして今からザックリ説明!これは武器を使って相手を倒すゲーム!ただ何回も復活できる仕様で、チーム内のフラッグ所持者が2回倒されたら負け!以上!』
「なんとなく分かりました。倒され過ぎず、相手を倒すわけですね」
『よしよし、物分かりは良いね!戦術とかは、このソラ様にお任せあれ!なにせソラ様には必勝法があるからね。とにかくレモネードさんの位置はマップで分かっているから、そこで隠密して待ってて!』
実は既にゲームスタートしているため、ソラ様は早口で言いきってから行動を開始した。
そのせいで質問を返す前に、通信もすぐに途絶えてしまう。
「正直、何も分かってないですけど、わちきは隠れていればいいわけですね。それならできます」
ラムネは指示通りに身を隠そうと、まずは近くの廃墟へ駆け込もうと方向転換して踏み出す。
もちろん、これくらいの動作については何も言うことはないはず。
だが、ラムネの思った通りに体が動かず、足がもつれて転倒してしまうのだった。
「あへ?わっひゃ!?」
受け身も全く取れず、そのまま豪快に顔面が地面へ突撃してしまう。
これによりラムネのゲーム内HPが減るものの、痛みは皆無だ。
しかし彼女は唸った。
「体がいつもと違う感覚ですよ~。それに力も出ないし……、視界には文字がいっぱい浮き出てます」
今、彼女の身体能力などはゲーム内キャラクターと同一になっている。
つまり並外れた力を発揮できない上、何度も窮地を力技で押しのけた無敵体質も備わって無い。
ただ全員が同じだと考えれば不利な話では無く、ゲームとしては当然の設定だろう。
とは言え、ラムネの場合は慣れるのに時間が必要だった。
しかも転倒する際にメニュー画面の詳細を開くミスタッチもしているので、より困惑する。
「色々と道具を持っていますね。それに……あれ?これはソラ様さんが言っていたやつですよね。なんで?」
自分のステータス画面に『フラッグ所持者』と表示されている。
要はラムネがチームの心臓部だ。
その事実を知った直後、鉄製の小さな球体が顔の横を転がって来るのだった。
「えっと、なぜか危ないような気がします」
呑気に呟いたとき、その鉄製の球体は爆発する。
同時にラムネは致命的な負傷によりHPを全て消失し、訳も分からない間に1度目の死亡を迎えてしまっていた。




