58.ゲーム大会に出ますけど、何も知りませ……はぇ~?
ただリビィはラムネに変な認識を持たれていると分かった上で、訂正しないで会話を流した。
「うん、そういう事で別に良いんだ。だけど、握手会ライブは午後だから今はラムネお姉ちゃんに任せるんだ。何か面白そうなこと書いてあるんだ?」
「うーん……。読めない文字があったり、意味が理解できない単語が多いですね。絵や写真による説明もありますけど、ちょっと分からない事が多いです」
「そっかー。それならリビィが選んであげるんだ。……とは言え、やっぱりリビィが好きな物ばかり目についちゃうんだ。ラムネお姉ちゃんが好きなのは本と美術で、その他には何か無いんだ?」
「遊ぶことが好きですよ。あとキラキラした事とシュワシュワな感じとか、ワチャワチャやワイワイでジュクジュクも好きです。なので……このオモチャ屋さんに行きましょう!上の階なので、わちきに付いて来て下さい!」
「おぉ、急にお姉ちゃんらしく思いきったんだ」
ラムネが頼もしい態度を示してくれたので、リビィは明るい表情で浮かれた。
だが、頼もしいと思えたのは僅か数秒間のみ。
ラムネは転移装置のみならず、エレベーターやエスカレーターの利用方法も理解できない。
そのせいで不用意な行動で何度も破壊しかけてしまい、同行者である死神少女は最大限に気を張る必要があった。
また、それら他にも問題が多く起こる始末だ。
よってオモチャ屋に着いた頃には、リビィが彼女の手を引いて歩いている有り様になっていた。
「さすがラムネお姉ちゃんなんだ。まさか通行止めの結界を歩くだけで破壊するなんて」
「うぅ~……。あそこが関係者以外の立ち入り禁止だったなんて気づかなったです~。わちき、ちょっと近道しようとしただけなのに~」
「ラムネお姉ちゃんは遠回りすることが苦手なんだ。それに駆けつけてきた従業員に至っては、むしろリビィ達を心配する様子だったんだ」
「怒られずに済んで幸いでした……」
「最悪の場合、こっちが消し炭にされるセキュリティ結界だったから心配されるのも無理は無いんだ。後ろを歩いていたリビィですら、ちょっと毛先が焼けたし」
「あぅ~……。ご、ごめんなさいリビィさん」
迷惑をかけてしまったという自責の念に囚われ、ラムネは落ち込んでしまう。
確かに安直な考えで余計な迷惑をかけられたら、少しは苛立ちを覚えるところかもしれない。
ただ日頃からのセブンス達の問題行動や普段の仕事と比べたら、あまりにも些細な出来事だ。
それにリビィの場合は、こうしたハプニングが起きるほど2人だけの思い出となって嬉しいくらい。
何よりも死神少女はラムネのことが大好きだから、常に楽しい気持ちで居て欲しいという想いが勝った。
「ラムネお姉ちゃんは何も気にしなくていいんだ。リビィの方が迷惑をかけているからね。例えば不意に角を触ったり、こっそり惚れ薬を飲ませたり、隠れて私物を物色したり、脱ぎたてパンツを観賞したりしているから」
「はい?最初の角のこと以外、身に覚えが無いことばかり告白された気がするのですが……?多分、いつもの冗談ですよね?」
「ラムネお姉ちゃんは何も気にしなくていいんだ。他にも色々とやっているから」
気にしなくていいと同じ言葉を言われたのに、2度目の方は励ます意味が失われていてラムネは混乱する。
比べてリビィは平常時と変わらない様子でオモチャ屋のテナントを覗き込み、とある告知に目をつけるのだった。
「ラムネお姉ちゃん!ちょうど今、ゲーム大会を開催しているみたいなんだ!これは参加しないと損なんだ!」
「力技で話題を変えましたね……。えっと、げーむ大会ということは、某さんが言っていた武道大会みたいな催しですか?」
「うん!しかも今は『ⅤRS』って言って、バーチャルリアリティーシミュレーターゲームを主役に開催しているらしいんだ!」
「よく分からないですけど、大会ですから熟練した人達が参加する競技ってことですよね?そういう遊び自体、わちきは触った経験が無い素人ですよ」
「腕に自信がある人が参加しているかもしれないけど、プロ大会じゃないから勝つことを目的にしなくて良いんだ。こういうのはプレイヤー同士の交流を深めたり、ラムネお姉ちゃんみたいな新規ファン獲得が目的だから!」
「うーん……。そこまで推してくれるなら、少しだけ参加してみます。色々と不安要素がありますけど、何事も経験ですよね!」
「うん、その意気なんだ!」
珍しく怖気づかない姿勢にリビィは感心し、すぐに持て囃した。
ただしラムネの心配事とは、機材を壊してしまったり相手に迷惑をかけたりしないかだ。
だが、そんな彼女の心配をよそにリビィは早足で手を引いて行った。
そして店舗の奥へ向かうと、2人が辿り着いた先は巨大なドーム会場だ。
地平線が見えるほど奥行が遠く、果てしないほど天井が高い。
おそらく店舗の広さは街1つ分に匹敵しており、もはや独自の文明が発達していても不思議では無い規模だ。
そうとなれば大型筐体は数えきれないほど設置されている上、ⅤRS体験のためのスペースや設備も充分に用意されている。
しかし、ここはあくまでオモチャ屋だ。
だからゲーム以外のオモチャ関係も充実しているわけだが、やはりゲームセンターとしての部分が目立っていた。
多くの人たちで賑わっており、中には投影されたホログラムの巨大ロボット同士で戦っている様子も見受けられた。
「凄い熱気です……」
オモチャ屋と言えば、気楽に賑わう場所という認識だった。
だが、今この場はプロスポーツ試合並に大勢の人々が集まり、尋常では無い熱量が滾っている。
更にオモチャやゲーム企業による出店もあるので、ゲームの祭典と呼ぶべき盛り上がり具合だ。
「あの、オモチャ屋ってこういう雰囲気が普通なんですか?思っていた以上に熱心な方々が多いですよ」
「このお店では、新作発表や未発売作品の試遊が行われることもあるからねー。更に、もうここでしか遊べないレトロ作品もあるとか。あとリビィ達のお店でも取り扱えないような限定の超レア品まで売られるくらいだし」
「はぇ~」
「それよりも締め切る前に早く参加申請するんだ!ちなみにリビィはホラーⅤR体験で疑似里帰りするから!ラムネお姉ちゃんは……FPSのⅤRS体験をすると良いんだ!」
「はぇ~?」
変哲もない日常会話感覚でゲーム界隈の専門用語を多用されてしまい、ラムネは間抜けな表情で呆然とする。
それからアヒルの子どもみたいに付いて行っている間に、まともな説明が無いままリビィが全ての手続きを済ませてしまった。
気が付いた頃にはラムネはヘッドギアを装着させられ、更にはⅤRS系統のゲームをプレイするための空間へ入れられる。
「はぇ~」
よく分からないままラムネは似た反応で感心する。
そして他のプレイヤーも同じく準備が整う中、このとき彼女は重大な問題に晒されていた。
それは操作方法どころか、遊び方やルールを何一つ知らないことだ。
何よりゲーム経験が皆無。
つまりチュートリアルどうこう以前に、ゲームという遊びについて0から教える必要があるほどだ。
しかしラムネは完全なる無知ゆえに、その問題にすら自覚できないままゲームスタートを迎えてしまうのだった。




