53.立派な美術館で芸術鑑賞します
ラムネが行きたいと言い出した美術館は思っていたより遠い場所であって、距離的に駅を経由しなければならなかった。
そのため駅を利用したのだが、魑魅魍魎が集う電車から降りた頃にはラムネは花束を抱えていた。
「なぜか電車内で花束を貰いました」
「花の歌劇団だか何だか知らないけど、ミュージカルを始められてびっくりしたんだ。撮影していたし、あとで企画動画としてネットに上げられていそう」
「あれを色んな人に見られるって事ですか?花束を受け取る時に、パニックになり過ぎて握りつぶしちゃったんですけど……。相手もビックリして目を見開いてましたし、恥ずかしいです」
「すぐ人見知りしちゃうラムネお姉ちゃんも、ラムネお姉ちゃんの長所だとリビィは思うんだ。リビィからしたらカワイイもん」
そんな他愛ない話をしながら人混みを抜け、更に駅から出て間もなくリビィは指をさした。
「っと、ほらラムネお姉ちゃん。あの建物が目的地の美術館なんだ」
教えれらた方向へ視線を向けると、そこには『無限彩色の芸術異世界』という文字が入った建物があった。
その美術館は少し独特な外観しているものの、先ほどのコンビニよりは日常に寄り添った雰囲気が感じられる建造物だ。
少なくとも兵器の類は見当たらず、禍々しい異質さを放ってない。
「おぉー立派です。でも、見た目が普通な気がしますね。もっと独特な形をしているのかなぁ、っと想像していました」
「さすがに鑑賞の場でお客さんを威圧するわけにはいかないからね。それに……うーん。ここを見ていると、忍び込んだ先で美術品が襲い掛かって来たことを思い出すなぁ」
「もしかして盗みですか?いくらイタズラ好きでも、他人様に迷惑をかけたらダメですよ!」
「あははっ、違うんだ。とある宇宙要塞へ行って、輸送中に盗まれた商品の取り返す仕事だったんだ。リビィは絶対に悪事は働かないから安心して欲しいんだ」
「そうですよね!あぁ、よかったです。勝手に勘違いして、びっくりしちゃいました~」
2人は天然を炸裂させながらも大真面目に話して歩く。
それから彼女らが入館したとき、まず美術館に相応しい荘厳な内装に圧倒された。
建物の美しい色合い、照明の加減と配置、先進的で目新しいデザインながらも不快感と不便を感じさせない構造。
まさしく落ち着く温かさと斬新な雰囲気の両立が成されており、もはや一種の芸術でラムネは興奮を覚えた。
「ここ、とても高い次元で調和が編み出されていますよ!隅から隅まで気品が溢れていて、わちきの美的感覚がビンビン疼きます!ウズウズです!」
「へぇ。ラムネお姉ちゃんって、美術というコンテンツ全般が大好きなんだ?」
「はい!存在しない幻想世界、そして夢でしか見られないような空想の光景を体験できますからね。特に自分では思いつかないような世界を観測できるのは、最高の経験だと思いませんか?」
「感受性の話になった途端、IQが爆上がりした末に早口オタクと化しているんだ」
「あと表現力や技術という面で作品を鑑賞するのも、かなりワクワクさせられますね。ただわちきの場合、心で感じるがままに楽しむ方が性に合っていて好きです!」
「そ、そうなんだ。とりあえず入館料を払って見に行くんだ。………ふぅ、まさかラムネお姉ちゃんが芸術大好きっ娘なんて知らなかったんだ」
まだ一作品も鑑賞しない内から舞い上がるラムネ。
その浮かれながらも熱心に語る彼女の様子を見て、リビィはちょっとした愉悦を感じた。
ラムネが芸術が好きなことは、おそらくロゼラムしか知らないこと。
そうとなれば知り合いの中では、リビィだけがラムネの意外な一面を知っていることになる。
そう思うと誰よりも親密になれた気がして、一段と嬉しかった。
そして、これほどお互いを想い合った仲良し組であれば、作品を見て回るだけの芸術鑑賞は最高のデートスポットとなる。
ラムネは1つの作品を熱心に観賞することで思いを馳せ、リビィは楽しむ彼女を見て満足感を得る。
そんな夢中になれる時間が続く中、ふとラムネは大きな墨絵に注目する。
その墨絵は一面の壁を埋め尽くすほど巨大な大作として描かれており、ラムネのみならず通りかかった全員が足を止めることだろう。
「あっ、この水墨画……」
「ラムネお姉ちゃん?その絵が気になるんだ?」
「お姉ちゃんと暮らしていた頃、いつも本で眺めていた作品です。そして、わちきが美術作品を見る事が好きになったきっかけです」
どうやらラムネが美術品を好むようになったのは、本に掲載されていた作品の影響のようだ。
言われてみれば、山奥暮らしの彼女からすれば本で得られる情報は貴重であるし、未知の世界を冒険できる入り口だったのかもしれない。
だから芸術が好きなのも相応の理由があるのだとリビィは思いつつ、その墨絵に目を通した。
「これは……うん。圧巻なんだ」
リビィの口からこぼれた感想は、それ以外に無かった。
むしろ、それ以外に言い表しようが無い墨絵であって、興味の有無に限らず言葉が出てこない。
この作品に使われている色は墨一色のみだ。
しかし惜しげもなく無数の色を使っている作品より、よほど多彩な光景が生み出されていた。
自然に囲まれた城と町、竹林の山と川、人々の営みと野生動物たちの生き様が大胆に描かれている。
更に大作というだけあって、年月と季節毎の美しさのみならず、病と災害の要素まで取り入れられていた。
まさしく世界の縮図そのもの。
並外れたリアリティある躍動感を目撃し、まるで墨絵の世界へ入り込んだかのような没入感があった。
それは何度も見ているラムネも同じらしく、静かに墨絵を眺めている。
しばらくして彼女は口を開く。
だが、まだ感慨に耽っている最中であることが落ち着いた声から伝わってきた。
「この水墨画は見る度に新しい発見があります。喜怒哀楽、暑さと寒さ、匂いと味、様々な心模様も感じられます。他にも栄枯盛衰の文明や歳月の流れ、成長と老い、生死など……自然と人の活力もあって、数えきれない変化と美しさが詰まっているんです」
「リビィは素人知識しか持って無いけど、それでも惹き付けられる魅力を感じられずにはいられないんだ。何も描かれてない空白の部分すら、これ以上ない表現の一種なんだと伝わってきたんだ」
「あははっ、リビィさんにも鑑賞する才能があるみたいですね。さすが芸術鑑賞が好きなだけあります」
「リビィの好きな芸術は派手なパフォーマンス系統なんだ。……だけど、うん。こういう作品を見たら美術品も好きになれるんだ。自分が実際に体験するより、深くて濃い経験が詰め込まれている」
「えへへっ。実はわちきのお母さんの作品の1つなので、色々と感想を言って貰えると嬉しいです」
このタイミングで彼女の母親の話が出てくると思っていなかったので、リビィの興味はそちらの話題へ惹き付けられた。




