52.治安が良い空間で市販スイーツを堪能です
強制的に連行される様は初めて目撃するラムネにとって衝撃的なものだ。
そのせいで驚き戸惑う中、リビィは説明口調で喋りかけてくれた。
「あれはコンビニに在中している警備員なんだ。高位存在の神話生物だから、仮にリビィが束になっても太刀打ちできない猛者なんだ」
「わちき何も分かってないのに、尽く規格外だという事は分かりました」
「あれを見たら怖くなるけど、この世界では下手な悪知恵を働かせたり、本能のまま行動しなければ大丈夫なんだ。だからラムネお姉ちゃんの場合、普段通りにしていれば平気なんだ」
「大丈夫かな。わちき、なにかと意図せず壊しちゃいますから……」
「それは弁償すれば大丈夫。それに悪気があったかどうか、高位スキルで確認されるから心配無用なんだ。さっきの人も、それで嘘だとバレているんだ」
そうリビィは話しながら清潔感ある店内の奥へ足を運ぶ。
先程の光景を全く気にして無いあたり、日常茶飯事の出来事と捉えているようだ。
ただラムネの方は気が散ってしまい、陳列された商品を流し見しているだけの状態になる。
そもそも商品より店内の設備が気になり、彼女は頭上を見上げながらリビィに質問を投げかけた。
「リビィさん。このお店はどうして天井一面が鏡張りになっているのですか?」
「天井の特殊ガラスの奥には、視認できないレーザー砲がついているからね。要はガラスにダメージを与えないレーザーが射出されて、対象のみを鎮圧する仕組みになっているんだ」
「えぇ……」
ラムネは今の説明だけで一から十まで理解できたわけでは無いが、恐ろしく危険度が高い防犯対策が成されていることは知る。
そのため余計な緊張感を覚える一方、リビィは冷蔵コーナーから小さなカップケーキを手に取った。
「そんな事より、このコンビニ限定スイーツを見て欲しいんだ!料理の化身と呼ばれている人が考案した、一口で一発昇天する最強スイーツなんだ!SNSで話題になっていて、すぐ売り切れになるらしいんだ!」
ワクワク顔で彼女が紹介したカップケーキは、見た目こそはムースにクリームが乗せられているスイーツだった。
更に果物で飾り付けされて彩りも華やかだが、リビィが力説するほど特別さは感じられない。
何よりスーパーマーケットでもスイーツ類は取り扱っているので、最初のラムネの反応は少し淡白なものだった。
「おいしいんですか?」
「当然!美味し過ぎて、もう他のスイーツは食べられなくなる中毒性があるって噂になっているんだ!まだリビィも食べて無いから、買っちゃうんだ!ちなみにこれは食を楽しむためにお金を使う、という考え方なんだ!」
「あははっ、取ってつけたようなお金の使い道ですね。でも、良いと思います。世間で話題になっていることを友達と一緒に体験して、思い出を共有する……。うん、とってもステキな事です」
「ついでに他の限定スイーツも買っておくんだ。知恵のリンゴ味ワッフル、楽園の黄金バラ味パイ、地獄の血池風ゼリー、夢想ブドウケーキ、宝石マカロン、とろけないスライムチョコ……っと」
リビィは商品名を言いながら、いつの間にか持ってきた買い物カゴへ次々とスイーツを入れていく。
その数は多く、どう見ても2人では食べきれない量だ。
だからラムネは慌て気味に喋りかけた。
「えっ、リビィさん!さすがに買い過ぎじゃないですか?きっと食べきれませんよ!」
「大丈夫。あとでみんなとシェア……分けて食べるんだ」
「だとしても、こんな早くから大量に買ったら手荷物に困りませんか?」
「その時はリビィの鞄を使うんだ。このショルダーバッグはマジックアイテムで、小物くらいなら指定した場所へ転送できるんだ。ひとまず食べるのは、さっき言った話題のカップケーキだけなんだ!」
食べるのが待ちきれないのか、リビィは笑顔満点で言いきった。
それから死神少女は自分のお金で会計を済ませ、まだ他に利用客が居ないイートインの方へ移動する。
そして2人で肩を並べながら椅子に座った後、リビィはテーブルにスイーツを置き始めた。
「むふふふ~。こうしてスイーツを並べると、ちょっとしたパーティーみたいでワクワクするんだ!」
「言われてみれば、お誕生日の催しみたいですね。ところでお会計を任せてしまいましたが、本当にわちきは一銭も出さなくて良かったんですか?」
「大した金額じゃないし、大好きなお姉ちゃんのためと思ったら喜んで貢ぐんだ。そもそもリビィが食べたくて買っただけなんだ」
「そこまで言うなら……。リビィさん、ありがとうございます」
「どうも致しましてなんだ。とりあえず堅苦しい事は抜きにして、今は噂のスイーツ堪能に専念するんだ。それでは、いっただきま~す!」
リビィは笑顔でカップケーキのフタを開けるなり、すぐにデザートスプーンで掬って口へ含む。
同じくしてラムネも食べたとき、2人は一斉に目を見開くのだった。
「リビィさん!こ、これは……!?」
「脳が炸裂する!目がパチパチして、五感が冴えわたる!ワインを連想させる芳醇な香り。ワインを連想させる歴史を感じさせる複雑な味わい。ワインを連想させる濃厚な舌触り。そしてワインを連想させる緩やかな刺激と満足感!」
「例え方が全部ワインなんですね」
「とにかく、あらゆる面において一級品ワインに匹敵するカップケーキなんだ!この王道のおいしさにリビィもビックリ!前みたいに食べたら爆発するとか、そっちのネタ系だと思って芸人魂を燃やしていたから!」
「あははっ、リビィさんはいつも面白い冗談を言いますね。わちきでも、食べたら爆発する物なんて売るわけないって分かりますよ~」
凡人の感性であれば、ラムネの発言は至極真っ当なものだ。
何も疑う余地が無いほど正常だろう。
だが、この異世界なりの常識があるのでリビィは当然のように答えた。
「種族によって好みが異なるから、需要に応えるため爆発する食べ物は本当にあるんだ。それに昨日フーラン先輩が作った晩御飯も、平凡な人間が食べたらエネルギー暴走して体が爆散する料理だったんだ」
「あれ?わちき、気づかない間に生死を彷徨う日常を送っています……?」
「セブンス店長に試されている時点で今更の疑問なんだ。あぁ、それにしても話題のスイーツはおいしいんだ。おいしすぎて、買い占めたい衝動に駆られるんだ」
そう言いながら一口食べては唸り、2人揃って夢心地を楽しむ。
ただ手が止まらない美味しさとなれば、あっという間に無くなるのは必然。
何より手の平サイズのカップケーキなので、彼女らは会話を楽しむ間もなく完食した。
「本当においしかったですね。ムニュムニュのプルプルで、わちきも好きになりました。ごちそうさまでした」
「ラムネお姉ちゃんの例え方も、リビィに勝るも劣らないセンスなんだ。それじゃあ、次はどうするかなぁ~」
リビィは考える雰囲気をアピールしながらも、なぜか他のスイーツまで食べだしていた。
対してラムネは街の景観や道行く人々に興味を持っており、何度も窓を覗き込んで外を見渡していた。
そんな折、田舎の鬼娘は電子蛍光板に流れる情報に注目した。
「ねぇリビィさん。この近くに美術館があるのですか?」
「探せばあると思うけど、どうかしたんだ?」
「今、美術館で芸術展覧会が開催されているってピカピカ光る看板に書かれていたので……。わちき、とっても興味があります」
「美術作品の鑑賞か~。最近は身を削るハードな仕事ばかりだったし、そういう過ごし方も良いかもね。それなら次は美術館に行くんだ」
次の目的を決めて立ち上がった直後、店内から慌ただしい声が聞こえてきた。
その内容は「どうしてカップケーキが売り切れているんだ!」から始まり、「暴れると警備員が出動します」へ続き、「うるせぇ!……ひっ、ぎゃああああぁ!!?」で終わる言い合いだった。
そんな騒ぎを尻目に2人はコンビニ要塞から出て、美術館へ向かうのだった。




