50.いざ初めての都会へ!そのはずが早速ハプニングです
休日の朝。
ラムネ、リビィ、フーラン、ハイピスの仲良しパーティー4人組はスーパーマーケット前に集合した。
今回の目的はラムネの給料の使い道の模索で、まずは街へ出かけることになっている。
だから普段の身なりとは異なり、それぞれ4人とも外出する格好と準備を済ませて来ていた。
言わばオシャレ重視で、シンプルながらも自分らしさをアピールした服装と髪型。
つまり街で見かける一般的なレディースファッションに過ぎないのだが、いつもファンタジーじみた彼女らが相応しいオシャレをしているだけで新鮮味が出ていた。
特にラムネはあまり髪を弄ることが無かったので、軽くウェーブをかけるだけで大人っぽい雰囲気が演出されている。
その僅かな変化に特別感を見出して喜ぶのは、やはりリビィだ。
「今日のラムネお姉ちゃんは、ザ・お姉ちゃんって感じが出ていて最高なんだ!これなら街で流行の服を買うのも有りだと思うんだ!」
「えへへっ、ありがとうございます。リビィさんも、可愛い恰好ですね。いつもより活発な雰囲気が出ていて、とっても良いと思います」
「今日のリビィは、無地のストリート系にしてみたんだ。それでいてゆるふわツインテールにすることで、キュートとクールさを主張!更に端麗な生足を披露して、魅惑的なセクシーアピールなんだ!」
「すとりーと……せくしぃ……?えっと、なるほど!そういう考え方もあるのですね!どれも目を引く可愛さで、欲張りなところがリビィさんに似合っていますよ!その小さな鞄もステキです!」
きめ細かで白い肌と小物を魅せつけるリビィに対し、ラムネは率直な褒め言葉と笑顔で返した。
当然、ラムネは一般的なファッション知識に疎いため、相手の説明を熱心に聞いていたとしても理解できないだろう。
それでも可愛いと思ったのは本音であり、今日のリビィは一段とキラキラ輝いているように映っていた。
その一方で、フーランとハイピスは出発の準備を進めていた。
2人がかりで地面に魔法陣を描いており、街まで転移するつもりだ。
だが、早くもハイピスだけが疲れ気味にうなだれてしまう。
「つ、疲れましたぁ……。はぁ~、まさか朝一から魔法陣をお作りするとは。可能であればセブンス店長にお願いしたいくらいです」
「それは無理な話ですのよ。休日は、店長にとって欠かせない大事な日ですもの」
「えぇ、それは重々承知しております。……あぁ、それにしてもクタクタです。描いている途中、腕と腰の震えが止まりませんでしたよ。集中力も、すっかり尽き果てました」
「お年寄り並の足腰ですの。そんな調子ですと、描き間違いが出てしまいますのよ」
「それは大丈夫です。もし間違えてしまったら、各々の転移先がズレて苦労することになりますからね。朝に弱い私と言えど、初歩的な失敗は犯しませんよ。ふふっ」
ハイピスは自信たっぷりの声色で言いきり、失敗はありえないというニュアンスでウインクした。
今回は仕事とは無関係ではあるものの、成功を確信した即答は好ましい。
だが、それは同時に油断の表れでもあるとフーランは知っている。
そのため彼女は小さく溜め息を吐き、それとなく魔法陣を一瞥した。
「軽く見たところ、間違いは無さそうですの」
「ふふん、当然です。いくら私が見習いであっても、女神からの祝福は確実に幸福を与えるもので無ければいけません」
「その矜持が慢心では無いと信じていますのよ。それより今日の主役はラムネさんですから、準備ができたのなら早速いきますの」
「そうですね。今日は休日と思えないほどハードスケジュールですから。リビィ先輩、ラムネ様。そろそろ行きますよ~!」
ハイピスが呼びかければ、2人の少女は元気よく返事をして駆け寄って来る。
それから彼女ら4人が魔法陣の上に立った後、フーランが転移術を起動させるのだった。
「もし忘れ物があっても取りには戻れませんのよ。それでは、転移先は大都市の駅前へ!」
魔法陣から輝かしい光りが放たれ、全員の視界は真っ白となった。
その直後、ラムネが目にしていた光景は劇的な変化を遂げる。
それは見慣れた店前から一変し、大勢にして多様な種族たちがアスファルトの地面を行き交う街並みだ。
更に大小様々な建造物が密集して建っており、騒々しい生活音とカラフルなネオンが至るところで光っていた。
「あ、あれ?あの皆さん、わちきを置いてどこへ行ってしまったのですか……?えぇっと……、あのあのあのぉ~?」
ラムネは賑やかな雑踏の中で困惑し、慌てて辺りを見渡した。
そして数秒も経たない内に呆然とする。
なぜかフーラン達の姿は見当たらず、明らかに孤立していた。
そんな迷子同然の彼女の隣を老若男女が絶え間なく通る。
その度、ラムネは誰にも注目されてないと分かっていても緊張が増す一方だ。
「うぅ……。臭いも、空気も……何もかもが体質に合いません……」
見知らない場所に見知らない人たち。
環境と目に映るもの、感じる情報全てが未知そのもの。
それによって膨れ上がる不安と戸惑い。
やがて混乱したラムネは棒立ちするのみならず、不自然に俯いてしまった。
「わ、わちき……ここから動かない方がいいのでしょうか。何も知らない土地ですから……。でも、みんなを探しに行った方がいいのかも?それなら周りに呼びかけたいですけど、こんな所で目立ちたくないですし……」
相変わらずラムネは考えていること全てを声に出す。
ひたすら棒立ち状態で足元の地面を見下ろし、独り言をこぼし続ける姿は異様なものだ。
また、容姿だけならオシャレした若い女性であるため、無意識に周りの目を引いてしまう。
その結果、ふと金髪の男性が声をかけてきた。
「おいおい、そこの鬼のお嬢ちゃんYO。こんな朝から暗い顔して、どうしたんだYO?」
「へっ、わっ……!?わちき、わちきのこと!?もしかして?」
声をかけられた事に驚いたラムネは一瞬だけ顔を上げるが、やはり恐怖心が勝って視線どころか顔を露骨に逸らした。
それでも相手が、単純に若いだけではなく逞しい体格の男性だと分かった。
長身で陽気で、喋り方に癖はあったが、ほんの少しだけラムネの調子に寄せた語気だ。
おそらく気遣われているのだろうが、ラムネはもじもじと恥じらう。
「本当に大丈夫かYO?ちなみに俺は、こう見えても海の神ポセイドンだYeah。だから安心して話してみなYO。神の力で解決してやるZE~!」
「は、話す……」
「おっと、こんな所で立ち話するわけにはいかないよな。それなら喫茶店にでも行こうZE?お金なら出してあげるからYO」
「で、でも。あの、わわわちき……友達が待っていて、多分わちきを探していて……」
「もしかして待ち合わせ?こんなスクランブル交差点のド真ん中でかYO?」
「えっと、すくらんぶる……?すくすく、らんらん、ぶるぶる……という事ですか?」
ラムネは緊張のあまり何を喋っているのか、自分自身でも分かっていない。
ただ思ったことを口に出しているだけ。
同じく相手も彼女の発言を理解できなかったが、とりあえず明るく笑ってくれた。
「あっはははは!君は面白い事を言うなぁ!まっ、とりあえず行こうZE。どんな理由であれ、ここに居たら危険だからYO」
「は、はい」
ポセイドンと名乗る男性が手を差し出してきたので、ラムネは照れながらも握り返そうとした。
しかし手が触れる直前のこと。
突如、大気が震えるほどの怒声が響いてきた。
「ラムネお姉ちゃん!!!」
この叫び声が相手の耳に届くよりも早く、漆黒の大鎌が回転しながら飛んできた。
それはポセイドンの毛先を切り落とすので、狙ってきた襲撃としか思えない事態に男性は眉を潜める。
「はぁ?」
「この不埒者!ラムネお姉ちゃんの純潔を奪おうとしないで!」
全力で叫んだ人物はリビィだ。
死神少女は足元の地面を砕くほどの勢いで走って来ている。
更に街中という状況を無視して、周囲の植物が枯れるほど尋常ではない殺気を放っていた。
そして怒り狂う状態のまま接近したリビィは、すかさずポセイドンの頭部に飛び蹴りを打ち込む。
「このぉ!」
「ひげぇっ!!?」
この不意打ちに相手は成す術はなく、そのまま直撃を受けた男性は地面へ叩きつけられた。
続けてリビィは複数の大鎌を出現させ、相手の四肢胴体を鎌で挟むことで地面へ磔にしてしまう。
これによって相手は身動きが取れない拘束状態へ変わり果てるのだが、そもそも飛び蹴りを受けた時点で意識が飛んでいる。
すぐさまリビィは我へ返ったように焦燥しきった表情を浮かべるものの、彼女の心配の矢先はラムネだ。
「ラムネお姉ちゃん、大丈夫なんだ!?この浮かれた変態男に酷い事はされてないんだ!?」
事件同然の事態に周りが騒然とする中、リビィはラムネの全身を何度も見回した。
安否確認のつもりらしい。
いきなり相手を打ち倒すことを含めて彼女らしい極端な行動だが、やはりラムネとしては突然の出来事に困惑していた。
「わちきは大丈夫です。でも、相手が倒れて……」
「変態野郎の事は気にしなくても大丈夫なんだ。リビィのキックを防御していたから無傷なんだ。だから何も気にせず、ここからすぐに離れるんだ」
「は、はい。分かりました」
一刻も早く相手から引き離したいリビィは、問答無用にラムネの手を引きながら早足で立ち去った。
ちなみに相手が防御したと言ったのは、ラムネを納得させるための嘘だ。
だから直撃を受けた男性は、目を回して地面に倒れたままだ。
そんな意識が混濁している彼に黒髪男性が歩み寄って来て、介護しつつも溜め息を吐いた。
「あぁポセイドン様。私がちょっと目を離した隙に、またナンパとは情けない。もう今月だけで何度目の返り討ちだと思っているのです。お米大好き女神様の件と言い、貴方様も懲りない上にしぶといですね」
「よ、YO……」
ほぼ途切れかけている返事を口にした後、ラムネに話しかけただけの神は気絶するのだった。




