49.初めての給料はどうすればいいのでしょうか?
姉のロゼラムと再会してから1週間後。
ラムネは従業員の制服姿に身を包み、店内の清掃に時間を費やしていた。
しかし集中力が欠け気味のようで、少女は商品を眺めながらぼやく。
「あーあ、お姉ちゃん行っちゃった……。連絡はできるようにしたってセブンスさんは言っていたけど、今度はいつ会えるのかな~」
あれからロゼラムは村に2日間だけ泊まった後、世界各所を巡るために軽い挨拶を済ませて行ってしまった。
それだけラムネ達のことを心から信頼し、安心したのだろう。
ラムネ自身も別れに名残惜しさは感じたが、後悔するほど残念だとは思っていない。
むしろ寂しいという気持ちを含めて、これが人生なんだと割り切ることにした。
「お姉ちゃんみたく頑張りたいな。みんなを見習って、わたちきも目標に向かって一直線!ただ……、その目標がまだ思いつかなくて悩みどころですよ」
いつの間にかラムネは商品の造花に向かって話しかけていた。
要は独り言で、自分なりに気持ちの整理をつけている最中だ。
そんな中、店長のセブンスが彼女の隣へ歩いてきた。
「ラムネちゃん~。モチベーション……じゃなくて、やる気は大丈夫かな~?」
「セブンスさんのおかげで、やる気はいつも満々ですよ!毎日が新鮮で楽しいです!」
「そっか、それは良かった。ちなみに悩みはある?」
「悩みですか?今のところは、またお姉ちゃんと遊びたいなぁくらしかありません。これは悩みというより、願望ですね」
「うんうん、つまり調子良好なわけね。そんな元気満点なラムネちゃんに朗報です」
「なんですか?」
「実は今日、給料日なんだよ。なので初任給をどうぞ!」
そう言ってセブンスは、その場で明細書が入った封筒をラムネに手渡した。
するとラムネは受け取った直後に封筒を開け、明細書の記載に目を通す。
だが、初めて見る情報ばかりで理解が難しいらしく、首を傾げてしまうのだった。
「お給料って、お金ですよね?この紙はなんですか?」
「あぁ、そこの説明からね。その紙は給料明細書って言って、ラムネちゃんが今月貰える金額とか収支が書いてあるんだよ」
「なるほど……?イマイチよく分からないですけど、わちき分かりました!つまり大事なことなんですね!」
「あははっ、ラムネちゃんらしいね。ところで給料は何で渡して欲しい?現金か、または専用のクレジットカード……えっと、お金を使えるマジックアイテムを用意してあげようか?」
「いきなり言われると難しいですね……。そういうことは一度も考えたことが無かったので」
「まぁそうだよね。それ以前に物価とか、何が便利なのかラムネちゃんは知らないわけだしさ。それなら、ひとまず私に話を通してくれたら使えるようにしておくよ」
「ありがとうございます」
とりあえずラムネは礼を述べつつ、じっと明細書を眺め続けた。
金銭的な面はデリケートな部分なので、さすがに店長のセブンスと言えど根掘り葉掘りするようなことは喋れない。
そう判断して静かに去ろうとしたとき、ラムネは1つの質問を投げかけた。
「そういえば給料前に買ってしまった下着の代金などは、この給料から出ているのですか?」
「あぁ、天引きのことね。それは特別手当て扱いにしたから、基本給には影響ないよ。つまり今月だけで大豪邸を新しく建てられるくらいの給料額はあるから」
「へぇ、そうなんですね。うん、あれ……?このお店、もしかしてお給料って多いのですか?」
「そりゃあ神々や惑星規模で売買するくらいだし。一ヵ月の純売上高は国家予算の10倍を超えるよ。私の店舗って、見た目に合わず世界経済を回しているからね~」
「わちき何も知らないのに、なんだか凄いことは分かります……」
「あと、もしお金の有効的な使い方が分からないなら、世界の情勢を知るって意味でもフーランちゃん達に相談すると良いよ。少なくとも参考にはなるはずだから」
「分かりました」
ラムネはセブンスのアドバイスを聞き入れて頷く。
きっと彼女達なら真剣に相談に乗って、適切な答えを出してくれることだろう。
それから勤務を終えた夕方。
さっそく彼女は控え室で談笑に興じるフーランとリビィ、そしてハイピスの3人に話を切り出すのだった。
「あの皆さん、折り入って相談があるんですけど……」
ラムネが改まった態度で話すので、全員が彼女の方へ耳を傾けた。
それによって真剣な眼差しも受けることになったラムネだが、慌てて茶化すのだった。
「あっ、別に人生相談……みたいなものですけど、重い話じゃないですよ?ただ給料をどう使えばいいのか、わちきサッパリ分からなくてですね。それで、どうしようかなぁと思いまして!」
ラムネらしい悩み事であることを知り、3人揃ってリラックス態度へ移り変わる。
おそらく姉に関する事だと思い、彼女らは丁寧に気を遣おうとした。
そして彼女の相談内容を聞き、最初にリビィがテーブルへ乗り出すくらいの勢いで答えるのだった。
「結婚式と結婚生活のために貯金をオススメするんだ!あと産まれてくる子どもの教育費も確保するべきなんだ!」
「ず、ずいぶんと気が早い話ですね……。わちき、ちゃんと赤ちゃんを産めるのかなぁ?」
「大丈夫!水子になってもリビィが死神として連れて帰って来る……あぶっ!?」
リビィが喜々とした声で不穏なことを喋るので、それをフーランがビンタで遮った。
同時に彼女は話題を戻し、先輩らしく頼れる雰囲気で冷静に話した。
「ワタクシは自由に使えば良いと思いますのよ。またはネットで欲しい物を探すのも一つの手段ですの」
「うぅ~ん。わちき、ねっとを使ったことが無いんですよね。前に仕事で必要だからとセブンスさんに教わったのですが、なぜか最初の登録操作で端末が爆発しましたので」
「……あぁ、そうですの。普段なら答えられる相談ですのに、急に難解な問題に思えてきましたの」
予想外の形で選択肢の幅を狭められてしまい、フーランは考え込んでしまう。
すると次にハイピスが妥当な案を口にした。
「それならば、前の世界に住んでいた時に欲しいと思った物を買うのはいかがですか?無垢なラムネ様と言えど、きっと願い乞うほどの物があったでしょう?」
「前の世界で欲しかったのは……、お友達かなぁ」
「唐突に重い話になりましたね」
「でも、今は大好きな皆さんが居ますし、ペットも愛馬のバビブベボ1号が居ます。あと他に欲しかったのは、全部お姉ちゃんが用意してくれていました」
「あぁ、今度はロゼラム様が有能すぎましたか」
こうなると、彼女ら4人が集まって知恵を出しても解決できない難問へ化す。
しかし柔軟な思考を持っているため、すぐさまリビィが良い提案を出した。
「ラムネお姉ちゃんは何も知らないから、思い切って色々と体験するために使うと良いんだ。オシャレや美容関係、観光、エンターテインメント系のライブ、あとアミューズメントパーク。それで次の給料から計画的に使うのはありなんだ」
この意見は、無知のラムネにこそ通じるものだろう。
だからフーランとハイピスが本人より先に賛同した。
「とても素晴らしい考えですの。世界を知るため、そして趣味や好きな事を見つけるためにお金を使う。これならば浪費が多くなってしまっても、一銭も無駄ではありませんのよ」
「私もリビィ先輩の案を推します。私達も存分に協力できますからね。お金を使わせてしまう以上、次の休日には責任を持って質が高いモノを紹介しますよ」
これからの生活に関わる上、3人ともラムネのことを大好きな親友だと認識しているから親身に言ってくれていた。
もはや、この関係性だけでお金以上の価値を感じられる。
そのためラムネは何も躊躇なく、彼女らに全て預けるくらいの想いで喜んだ。
「では、不躾で申し訳ありませんけど頼みました!えっへへ~、次のお休みが楽しみだなぁ~」
キラキラとした笑顔を見せてくれるだけで心が温まる。
そんな和やかな時間を過ごして帰宅した後、すぐにフーラン達3人は別々に相談し合った。
この秘密裏の相談はお互いの紹介内容が被らないようにするためでもあるが、お金はあっても時間が有限だから選択を絞るためだ。
そうして3人は特に優れた案、更にラムネが気に入ってくれるであろうオススメを選び抜き、次の休日を迎えるのだった。




