48.幸せな姉との時間を ※後書きにオチ
薄々と予感はしていたが、それでも再び鍋から出てくる指令書にネコは驚愕した。
「にゃんで!?一体何枚あるのにゃあ!連続なのはおかしいにゃ!」
「良いから読んでみな。多分、ネコちゃんにちょうどいい内容だから」
「んにゃ?『セブンスの私服を着て、マタタビを咥えながらダンス』!?おかしいにゃん!どう読んでもネコをピンポイントに狙って来ているにゃあよ!」
「偶然って怖いねー。でも、まぁこんな事も一回くらいはあるよねー」
「うぅ~!絶対に魔法を使ったのにゃん!遊びで不正するなんて卑怯すぎるにゃあ~……!」
「とりあえず始めようか。偶然にも、ここに女児服一式とランドセルがあるからさ!そう、実はこれが私の私服なの!」
「度を越えてキモいにゃ!」
ネコは怒声をあげるほど嫌がるものの、セブンスが本領発揮すれば使い魔は逆らいきれない。
むしろセブンスは悪魔少女の威嚇すら心地良さそうにしており、いくら顔に爪傷を付けられても笑顔を崩さなかった。
その一連の流れは誰が見ても恐ろしく、妹を店に残すことについてロゼラムが考え直してしまうほど。
それから格闘の末、ネコは女児服を着た上でランドセルまで背負い、ちょうど獣耳が出る通学帽子を被せられていた。
当然、そんな恰好をさせられた本人は気が滅入っており、うんざりとした態度のままだ。
「最悪にゃ。痛すぎる恰好で、黒歴史になるにゃー……。一生の笑いものにゃ……」
「そうかな?私は似合うと思うよ」
「ペットを遊び道具にする質の悪い飼い主タイプにゃ」
「せっかく褒めているのに辛辣だなぁ。でも、ネコちゃんの可愛さが出ているからオッケー!それよりもダンスだよ!そしてマタタビを咥えて可愛さアピール!おまけにショート動画をネットへアップロード!全世界へ公開だぁああ!」
「うんにゃぁ……、もう生き地獄にゃあ」
逃れられない状況だと理解しているため、悪魔ネコは嫌々ながらも踊る。
見るからに、やる気が削がれきったダンス。
その割にはアピールが上手く、ランドセルや尻尾の強調など細かな所作は異様に優れていた。
これが彼女の才能なのか。
そんな光景を眺めつつ、またロゼラムは酒を飲んでいた。
「ネコちゃん、普段から同じような事をやらされているのかな?なんというか、迷いが無い動きだよ。あと恰好に目を瞑れば、ちょっと魅力的かも」
「わちきには理解し難い余興です……」
「こういうのは良し悪し関係無く、面白いと思って楽しむことが大事だからね。さてさて、次はアオの番だよ~」
「あう~……。お姉ちゃん、やっぱりわちきもしないとダメなのぉ?」
「降参もありだけど、さすがに1回くらいは挑戦しないと。まぁ大丈夫だって。変なのが出たらお姉ちゃんが代わりに食べてあげるからさ」
「うぅん?今のお姉ちゃんは信用にならない気もするけど……、とにかく取ってみます!楽しむことが大事ですから!」
ラムネは口車に乗せられていると感じているようだが、姉に言われた通り楽しむことを優先した。
そもそも遊びだから気を張る必要が無い。
そう思って湯気立つ鍋の中から掬い上げた物は、同じくしてカードだった。
これにはロゼラムも予想外であって、身を仰け反らせるほど馬鹿笑いする。
「あっはっはっはひぃ~!なにこれ~!もう闇鍋じゃなくてお題箱じゃん!ふふ、あははは~!」
「あう~、これまでの内容を考えると嫌な予感しかしませんよ~」
「まぁまぁまぁ、とりあえず見てみよ?案外、呆気ない内容かもしれないでしょ」
「そんなこと、ありえるかなぁ……。えっと、わちきの短冊に書かれている命令は『好きな人に告白する』です」
「へぇ。命令の内容も相まって、増々お題箱って感じがするね。ところでアオの好きな人って?お姉ちゃんは是非とも知りたいなぁ。あたしのことが一番好きだって自負はしているけどね~」
ロゼラムは浅く考えて、適当な反応で適当に喋る。
それに対してラムネは真剣な眼差しでカードを見つめながら考えた後、ぽつりとつぶやいた。
「わちき、みんなが大好きです」
「そっか~!さすが我が妹!よっ、博愛主義者!」
「でも、これってわちきが普段から言っている事なんですよね。だから特に改めて告白するというのは違うような……?」
「いやいや、待ってアオ。お姉ちゃんは閃いたよ。この告白は違う意味かもしれない。厳密には、秘密を打ち明けることを告白って言うから」
「えっ……?それならわちき、皆さんに秘密を教えて回らないといけなくなるのですか?」
「うん、そうなるね。ということで、まずはお姉ちゃんに告白してみな?なんなら悪事を白状しても良いよ。一つくらいあるでしょ~?」
お題の曲解は意図的であり、ロゼラムは面白がって言っているだけだ。
ただ隠し事を告白してと催促されても、あまりにも突然だから思い当たる内容が出てこない。
よってラムネは悩み、最初は落ち着きなく頭を揺らして唸った。
「うーん、いきなり言われても……。あっ、そうだ!ありました!末っ子のモモから届いた高級甘味、隠れて全部食べました!モモが住んでいる街で一番凄いお菓子屋さんらしくて、すっごいおいしかったです!」
「えぇえええぇ!?それって、いつのこと!?前の世界のことだから、多分そこそこ昔のことだよね!?」
「モモが入学して間もなくなので……えへへ、何年前かな?」
「うぐぐ、いくらアオと言えど許せないべさ!かわいく笑って誤魔化すなぁ~!このこの~、あたしでもお菓子ぐらいは食べたくなるんだべ!」
「最初はちゃんとお姉ちゃんの分も残そうとしていましたよ?ただ、あの……おいしすぎて消えちゃったんですよね」
「胃の中へ消えただけでしょ!もう、アオは意外に食いしん坊なんだから!」
「えっへへへ~」
ラムネは和やかに、そして甘えるように愛想笑いをする。
それは子が親に見せる甘え方であって、きっとアオという少女の本性。
前の世界ではずっと姉に甘えたがりで、ほんの少しだけ意地悪で、少し自分勝手にしてしまう幼い子どもだったのだろう。
懐かしい感覚のやり取り。
そして同時に心が安らぐ。
今も充分すぎるほど幸せだが、姉妹で暮らしていた時も確実に幸せだったから。
だから、こうして姉と気楽に話せるのがラムネは嬉しかった。
トンデモ闇鍋は続き、二巡目に入った頃に事件は起きた。
それは順番が回ってセブンスの手番になったとき、彼女が鍋から取り出した物が史上最悪レベルに極悪だったからだ。
「おっと、また指令カードか。内容は『鍋の中身を全部食べる+全部片づける』ね。………は?えっ?なにこれ?私、こんなの用意した覚えないけど?本当に誰が書いたの?」
セブンスはラムネ達3人を見回す。
するとネコだけが真顔で見返しており、それとなく毛が逆立っているように見えた。
悪魔少女の敵意ある気配から分かるほど、激しく怒っている。
これによりセブンスは書いた犯人を知るわけだが、念のため確認を取った。
「あのネコちゃん?これって……」
「ネコが書いたにゃん」
「あっ、はい」
「ネコは嫌々言いながらも、創造神様の指令を遂行したにゃん」
「うん、そうだね」
「文句は垂らしたけど、きっちりと最後まで従ったにゃあ」
「はい、すみません」
「それじゃあ頑張ってにゃ」
それだけ言い残し、ネコは女児服のまま席を立つ。
このままではマズイ。
そう思ったセブンスはラムネに声をかけようとするも、その寸前にロゼラムが妹の腕を引いて立ち上がった。
「さて、アオ。あたし達も寝ようか。いつも早く寝ているから辛かったでしょ?」
「うん。わちき、もう目がぼやけて………お姉ちゃん、おんぶして?」
「良いよ。また離れ離れになるから、今の内にいっぱい甘えてね。ということでセブンスさん、あとは任せました。失礼します」
ようやく再会できた姉妹の時間を邪魔するわけにはいかない。
そんな雰囲気を醸し出されてしまい、セブンスは「お休みなさい……」としか声をかけれなかった。
気が付けば、煮立つ闇鍋の前に1人残された店長という構図。
こうなると律義にルールを守ると必要は無いのだが、一応セブンスは箸で鍋から具材を取り出した。
「うわっ、またカードだ。私がカードを入れすぎたのが裏目に出ちゃったなぁ……」
それからセブンスは深い溜め息を吐き、闇鍋を加熱する火をそっと静かに切るのだった。




