47.定番の闇鍋……に見せかけた罰ゲーム大会
鍋料理パーティーが開催されてから数時間、ラムネ達は酒を飲み交わすなど楽しい一時を過ごした。
また商品を使ってボードゲームしたり使い魔は賭け事を始めたりと、一通り騒いだ頃には深夜を迎える。
朝からドタバタするほど忙しく、それでいて遅い時間帯まで遊んだとなれば、その場で眠り落ちた者も少なくない。
他にも各自の判断で解散や帰宅しているため、気が付けば雰囲気は落ち着いて閑散としていた。
その中でもリビィとフーランはホールの隅で熟睡しており、激辛料理を食べたハイピスはトイレを往復した後に控え室のベッドで休憩中。
セブンスとロゼラムの2人は酔いが強く回り、長年の友と語らい合うに愉快そうだった。
その談笑の場にはラムネも同席しているが、彼女は半寝ぼけ状態であって眠そうな顔つきでぼんやりとしている。
だから長らく口数は少ないままなのだが、酔っぱらいの2人からすれば相手の眠気など関係無い話で平然と絡んでしまう。
「ほらほら、アオ~。その可愛い顔をお姉ちゃんに見せてぇ。ご褒美にベロベロのチュウ~をしてあげるからぁ」
ロゼラムはラムネの肩に腕をかけ、おぼつかない動作で頬を舐める。
もはやキスというより、犬が示す愛情表現みたいだ。
そんな様子が繰り広げられる一方、少女姿の悪魔ネコが酒瓶を手にやってきた。
どうやらネコは従順に使い魔としての役割を務めているらしく、ずっと彼女らの飲酒に付き合っているようだった。
「創造神様~。もうこれが最後のお酒にゃあ」
「んん、ありがとうねネコちゃん。あとでオヤツをあげるよ。チュウチュールで良い?」
「それも嬉しいですけど、できればキラキラな宝石が良いにゃん」
「食べ物より金銭を優先的に要求なんて、さっすが悪魔だね。創造者として鼻が高いよぉ」
「私だけ無ゃく、悪魔の大半は創造神様の影響を受けているだけみゃあよ。それよりも創造神様。ロゼラムお姉様とは、まだ本題を話してないままにゃいの?」
「はぁん?本題ってぇ、なんだったっけれなぁ~?」
「ラムネお嬢様をお店に残して欲しいというお願いにゃん」
やんわりとロゼラムに伝っているだろうが、その頼み事については未だに話し合って無いままだ。
そのためネコに相談を促されたセブンスは、理性を働かせて真面目に喋ろうとする。
しかし、やはり今は酔いのせいで頭が回らず、結局は世間話みたく切り出してしまっていた。
「あー……そういえばロゼラムお姉様。このままラムネちゃんをお店で働かせたいんだけど、それでも良いかな?良いよね~?」
「うん、良いよ良いよー。むしろ、あたしからお願いしちゃう。あたしは転移した機に世界を漫遊したいし、アオには保護者が必要だからねぇ。あとアオ自身もぉ~、こごを楽しんでるだっぺ?」
つい訛りが出てしまうほど酔いの影響を受けているのか、ロゼラムはあっさりと了承する。
ただ弁えた配慮を忘れず、さりげなくラムネ本人の意思確認も取っていた。
とは言え、あまり意味の無い質問でラムネからの返答内容が分かりきっている。
事実、鬼娘は眠そうにしながらも賛成の意で頷いた。
「うん。わちき、ここが凄く楽しい」
「そっかぁ、それなら良がったぁ。お姉ちゃんは嬉しいし、安心だよ。助けてくれる友達はいるし、親切にしてくれる上司も居る。これで思い残すことは……えぇっと、闇鍋でもするべ~」
「はい?」
姉からの脈絡ない提案にラムネの目が少し覚める。
ロゼラムは再会で気が緩んだ事に加え、酔い過ぎて思考が支離滅裂になっているのかもしれない。
ただ彼女は、この状態に及んでも姉らしく振る舞おうとしていた。
「思い出作りだよ。思い出作り。あたしとアオだけじゃなく、あたしとセブンスとの思い出もあった方が良いかなぁって。思ったり思わなかったり」
「でも、お姉ちゃん。もうみんなお腹がいっぱいだよ?」
「大丈夫、闇鍋ってのは遊びが主体だからね。ということでルール説明しまぁ~す。これから適当な具材を鍋へ投入して、順番に具材を取る。それで一回でも食べられなかった人は脱落ね。で、最後に残った人が勝ちぃ」
ルールは単純明快である上、別に厳格なゲームのつもりで決めたわけでは無い。
言わば酔っぱらいの戯れに過ぎず、やりたいから始めるだけの話だ。
当然、これを面白そうな提案だと思ったセブンスは乗り気で応えた。
「良いね良いねぇ!すぐにやろうかぁ!参加者は私とネコとラムネちゃんとロゼラムお姉様の計4人ね!」
「にゃにゃ!?創造神様、私も参加なのにゃあ!?」
「当たり前でしょ~?こういうのは人が多いほど盛り上がるし……ほら、たくさんの順位が合った方が1位になったとき嬉しいでしょ?」
「そ、それなら張り合いがある悪魔を呼んだ方がいいにゃん。ネコは小食だし、猫舌だし、チョコや玉ねぎとか食べられないモノが多くて……」
「そっかぁ。それじゃあ参加ね」
「にゃんで!!?」
酔い関係無く、セブンスの誘いを断る術など世界に存在しない。
よってネコは強制参加させられた後、僅か1分足らずで闇鍋の準備は整った。
大人が入れそうなほど巨大な鍋に数多の具材を流し込み、あとは力任せに混ぜるだけの恐ろしい煮込み料理。
そのせいでネコとラムネの2人は不安いっぱいの表情であり、楽しそうにしているのはロゼラムとセブンスだけだ。
また店長である彼女は、箸を勢いよく鍋の中へ突っ込んだ。
「まず私からね!鍋の大海原へ一番乗り!ちなみに最初に触ったモノを取る事ね!そして晴れある一番手の私が取ったものは~これだぁあああああぁ!!」
彼女は奇声にも似た大声をあげて、鍋の汁を周りに跳ねさせながら具材を引きずり上げた。
そして箸の先が掴んだものは、一枚の紙きれだ。
早くも食材では無い物が出て来てしまったが、それとは別のことでセブンスは驚愕していた。
「こ、これは……ラムネちゃんの写真!?そんな!こんなの食べられないよ!いや、食べられるし食べたいくらいだけど!でも、もったいない!ってか、この写真を入れたのロゼラムお姉様でしょ!?」
「うん、そうだよ~。言っておくけど、安心して食べていいよ~。観賞用と保存用は別にあるからさ」
「じゃあ遠慮なくご賞味します!はぐっ!あぁ、ラムネちゃんの記憶の味がするよ!これで私の体の一部になって……。あぁ本当おいし……、ぐひぃ…えぐっ……!!」
「あっはっはっは!本当に食べるってヤバすぎでしょ~。ねぇアオ~?」
ロゼラムは大笑いしながらラムネの肩へ寄りかかり、更には大げさに拍手する。
そうして完全なウザ絡みをされる中、ラムネは酔いが酷い姉の行動に少し困っていた。
「うーん、お姉ちゃん………」
「ほらほら、そんな顔をしないの!それに見てごらん。セブンスさんは涙を流しながらも呑み込んだよ!この素晴らしい度胸を讃えなきゃ!そして、二番手はあたしがいきま~す!」
ロゼラムは威勢よく宣言しつつ、なぜか先に酒を呷る。
すると陽気だった彼女は更に気分を高揚させた後、鍋の具材を箸で掴み取るのだった。
「あたしが取ったのは~……え~っと、紙というかカードかな?」
またもや食材ですら無い。
そんなことが2度続けて起きている事態にネコが辟易している傍ら、ずっと咽込んでいるセブンスが喋り出した。
「ごほっごほっ!そ、それは私が入れた指令書だよ。つまり食べる必要は無くて、そのカードに書かれた指令を遂行するの!」
「なるほど、そうきたか~。ゲームらしくて良いねぇ。で、カードの内容は……っと。んと、『今履いているパンツの色を教える』かぁ。これはアオを狙った内容だったのが分かるねぇ」
「くっ、さすがロゼラムお姉様!この私の目論見を看破するなんて!」
「もはや単調なくらいだよ。ちなみにあたしのパンツは赤ね。とは言っても、かわいくない鬼のパンツですけどぉ~。それとアオも鬼のパンツだよね~?」
そう言いながらロゼラムは問答無用にラムネを押し倒し、堂々と少女の股下から覗き込む。
その間、実に1秒。
あまりの突然の出来事にラムネは成されるがままだったが、さすがに姉相手でも全ての行動を許すわけでは無く、あっさりと押しのけた。
「ちょっとお姉ちゃん!もう、もうもう~!馬鹿ぁ~!」
「あははは~、ごめんねアオ~。ってか、鬼のパンツじゃなかったね~」
「それは……だ、だって転移してから何日も経ってますし、このお店で好きなのを買えますし……。可愛いモノがあったから……」
「うんうん。アオがオシャレに目覚めているようで、お姉ちゃんはとっても嬉しいなぁ。……さぁて、次いこうか!キリが悪そうな三番手はぁ、ネコちゃんで!」
ロゼラムに指名された瞬間、ネコは露骨に怯えた上で嫌そうな顔をする。
まだ2人にしか手番が回って無いが、現状まともな食材が1度も出てないから当然の反応だ。
それ以前に理解不能な物が入り混じった汁すら食道に通したくない。
その一心で引きつらせた顔のままネコが固まっていると、セブンスは彼女の背中を何度も叩いた。
「ネコちゃん。特に他意は無いけど、私はおいしく食べたからね?まぁ本当に他意が無い話だけどね?」
「酷すぎるにゃん……。これこそがパワハラにゃあ」
「ん?なんだって?」
何気ない素振りでセブンスは杖を取り出す。
それは魔法を使うぞという意思表示。
まさしく脅迫同然のメッセージをネコは瞬時に理解し、涙目ながらも媚を売った。
「冗談にゃあ!創造神様は最高にゃん!えへへへ、何が取れるか楽しみにゃあね~!チュウチュールかにゃ~!えいっ!」
ネコは幸運を祈り、具材を取る。
あまり前向きな期待はできないが、それでも安全に食べられる物であれば嬉しい。
だが、彼女が取ったのは1枚のカード……つまりセブンスからの指令書だった。




