45.朗報!セブンス店長は無償で許す思慮深い聖人だった(ステマ作戦担当の使い魔が記載)
これで控え室に残ったのはロゼラムとセブンスのみ。
合わせて緊迫した気配が発生するとき、まずセブンスが大人びた表情で喋り出した。
「ロゼラムさん。貴女はリップサービスが上手だね」
「あたしなんて八方美人なだけですよ」
「やっぱり上手。私の感性に合わせて、自身を卑下する言い方に変えたでしょ」
「あー……、どうでしょう。別に意識しているつもりは無かったんだけど、あたしって案外そうなのかも?もし鼻についたなら謝ります。ごめんなさい」
「その柔軟な態度を非難しているわけじゃないよ。むしろ感心している。ラムネを守る姉としては、きっとこの上なく正しい。謝りながらも、大事なことは譲らない所もね」
相手の発言を聞き、このタイミングでロゼラムは目を丸くする。
その反応は間抜けなものであって、この場面で見せる表情に相応しく無いからセブンスは追求した。
「そんな驚いた顔して、どうかした?」
「えっと……まぁ、セブンスさんが唐突にまともな事を言うから……ちょっとビックリしました。正気に戻ってくれました?」
「違うよ、ちょっと本気になっているだけ。これから私は念願が叶うかどうかの勝負に挑むんだもの。それなら冷静になるのは当然でしょ」
「あれ?私の質問を否定したあたり、正気じゃない自覚はあるんですね。それでも最後まで全力で駆け抜けようとするのは、なにかと凄い店長さんで圧倒されますよ」
あえて踏みとどまることを考慮せず、ここまで頑固に我を貫く性格である事にロゼラムは感心した。
きっとセブンスは力を持って生まれたから、本当に叶えたい目的があると意地でも通す悪癖があるのだろう。
だから余計に周りの言葉を聞かず、ひたすら突撃するように暴走する。
そんな彼女だが、今だけは冷静に話を進めた。
「それはさておき、勝負前に自己紹介しておこうかな。私の名はセブンス・セレファイア。全知全能の神と魔女の間に産まれ、悪魔の概念を生み出した創造神であり大魔女。13人兄妹にて、7番目の子となる者」
「では倣って、あたしの名前はロゼラム。またの名を紅華童子。由緒正しき純血の鬼であり、家族の契りを交わした3姉妹の長女。特技は自作絵本の読み聞かせ」
「特技って……。あのさ、最後の口上いる?」
「自己紹介ですからね。なので、長所を教えるのは良い事です。お互いを知るのに良い機会ですし、是非ともセブンスさんの特技も聞かせて欲しいです」
「これは言わなきゃダメみたいな流れかな。それなら特技は……うん、店舗経営だね」
「個性的な特技で素晴らしいと思います。ちなみにあたしの趣味は家庭菜園で、マイブームはバランスボールです」
世間話みたいに緊張が抜ける話し方をされてしまい、今度はセブンス側が相手のペースに呑まれる。
しかも中身が伴わない会話であるはずなのに、妙な安心感と心地良さを覚えるから余計に困惑した。
それこそラムネと話しているようで、セブンスが一方的に抱いていた敵意が削がれる。
だが、始める前から挫ける真似はせず、彼女は勢いに任せて声を張り上げた。
「もう!談笑はやめて勝負するよ!何ごとも早期決着が大事!神スキル・宇宙創成の支配領域!」
セブンスがスキルを発現した直後、2人が置かれていた環境は一変する。
気が付けば、見渡す限りの宇宙空間。
遥か遠方で輝く星々を観測できるが、なぜか彼女らの周囲には何も存在しない世界だった。
おそらく凡人には解明できない、そして理解する必要が無い高次元の領域なのだろう。
そのことをロゼラムは一瞬で悟り、下手な刺激を与えないよう無の空間を静かに漂う。
「呼吸はできるみたいですね。というより、むしろ快適?でも、景観が物寂しい気がします」
「ここは私セブンスが途中まで創造した空間。順応という概念が無く、あらゆる万物が環境に左右されず存在できるよう創った世界。いわば自由と安寧を理念にした楽園だよ」
「へぇ、良い場所ですね。それなのに途中で創るのをやめてしまったのですか」
「うん。思い描いていたモノが得られないと気づいたから」
「得られない?あらゆる創造が可能なのにですか?」
ロゼラムの疑問は尤もなもの。
対してセブンスは本心で話しているらしく、彼女の目を真っすぐに見据えながら答えた。
「そうだよ。フーランちゃん、リビィちゃん、ハイピスちゃん。あとラムネちゃんにお客さんたち。そのどれもが、私が望んでいた理想なの」
「なるほど、欲しかったのは自分の予想や期待を上回る存在って事ですね。あと偶然から生まれる特別な関係性……かな?」
「ふふっ、凄いね。凡庸なる鬼なのに、気まぐれな神の思考を瞬時に理解できるなんて驚き。その共感性の高さは称賛に値するよ」
「一応、神様と話すのは初めての経験では無いですから。それよりも、既に勝負は始まっているのですか?」
「うん、そちらからどうぞ。私が手を出すと始まる前に終わっちゃうから」
「そっか、譲ってくれてありがとう。そして……、こほん。セブンスさんの趣向を理解した今、最初の一手で終わりにします!今ここに、最強のお姉ちゃんパワーを魅せてあげましょう!」
ロゼラムは勇ましい身振り手振りで堂々と宣言し、攻勢に出る動きをみせた。
合わせてセブンスは念のため警戒の姿勢を示したが、彼女が出す一手は完全に予想外のものだ。
まず小さな紙切れの束を懐から取り出し、それをセブンスへ向けてばら撒くように投げつけた。
「さぁセブンスさん、その眼で見て下さい!これはあたしのお守りで、長年かけて溜めたラムネの生写真!その総数は1万枚以上!」
「な、なんだってぇ!?」
「しかも写真の裏には一文を記載しているから、ラムネ大好きっこファンクラブには堪らない至宝!ここぞとばかりに目に焼き付けて良いですよ!」
「はふっ、はふっ!や、やばい!?こうなったらロゼラムを相手にしている場合じゃない!何としても複製して、それからデータへ取り込んで私とツーショットの合成画像に編集しないと!そう、これこそが私の使命だったんだ!」
「うん、予想より100倍くらい恐いことを言っているね。自分から妹を使ったとは言え、あたしもドン引き」
「はっ!?そもそも、これだけあればラムネちゃんの写真風呂ができるじゃん!つまりラムネの人生に包まれた入浴タイムを過ごせるってわけ!あっ、想像しただけで目の前が真っ白に……!!?まさか、この私に状態異常を付与するなんて……!」
「目論見通りのはずなのに、こんな不本意な誤解をかけられる事ってある?まぁ、いいや。とにかく隙ありぃ!ロゼラム流スキル・お姉ちゃんからの愛情千本ノック!」
ロゼラムは巨大な金棒を手元へ召喚するなり、セブンスの胸元へ向かって全力フルスイングを打ち込んだ。
ものの見事に直撃を受けた彼女は軽々と吹き飛び、華奢な身体は宙を舞う。
普通ならクリティカルヒットで、昏睡するであろう加減無しの攻撃だ。
だが、セブンスは満面の笑みを浮かべている。
更には幸福感が全身を駆け巡り、創りかけだった無の空間には色鮮やかな光りが誕生する。
「しゃ、写真1枚ずつにエピソードがたっぷり……。これはレビューで星5確定だよ。あぁ、この世の全てに感謝を……。ありがとう、ラムネちゃん。ありがとう、みんな。そして、ありがとう……ロゼラムお姉様」
ついにセブンスは自分の欲望に忠実すぎる余り、ロゼラムに敬称までつけて心からの感謝を送った。
そして色々と手遅れながらも店長は一つの結論を出す。
「わざわざ対立する必要って無かったなぁ。ラムネちゃん好き同士として、手を取り合えば良かったんだぁ……」
こうしてセブンスは自分自身を説得し、ロゼラムでも想像していなかった心境変化で勝手に納得する。
そう、どんな経緯があっても彼女はちょろいのだ。




