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村の異世界スーパーマーケットへいらっしゃいませ~新人の鬼娘が入りました~  作者: 鳳仙花
・3章~ラムネ姉妹とセブンス店長の宿命?~
42/75

42.ようやくロゼラムお姉ちゃんが葬式会場に到着です

店内の半分近くの区域がセブンスの発狂によって汚染されてから、1時間足らずのこと。

とある鬼娘が1匹の猫を抱えながら、自分の足だけでスーパーマーケット付近まで来ていた。


「ふぅ、ようやく着いだ。つい観光ばがしちゃって、もう日が暮れ始めちったよ」


夕日に照らされた女性は(なま)り口調の独り言を漏らしつつ、目つきが鋭い猫のアゴ下を撫でる。

その度に猫は甘えるように喉を鳴らしており、彼女に(なつ)いているのが伺えた。

そして猫は普通の見た目でありながら、人情深い鬼娘に向けて流暢に喋りかけた。


「ここが創造神様のお店にゃあ。……でも、ロゼラムお姉様は本当に怒って無いのにゃ?」


「ん~?ネコちゃんの説明通りなら、あたしが怒る理由は何も無いかな」


「この私、悪魔子児(ネコ)が妹ちゃんの姿を借りて騙したのに?」


「うん、本当に気にしてないよ。ちょっとズレた所があるだけで、その店長さんが妹の面倒を見てくれたことには変わり無いしね。むしろ……、ふふっ。ちょっと嬉しいくらい」


ネコにロゼラムお姉様と呼ばれた鬼娘は口元を緩め、気さくに笑った。

それは親愛度が高いことの表れで、本心からの発言だと伝わってきた。

セブンスが捻くれた策を(ろう)したのにも関わらず、しっかりと敬意を払える素晴らしい性根。

ただ、ここまで(ほが)らかな人物に出会ったことが無いネコは、ほんの少しの感心と驚きを示すように鳴く。


「みゃー……。鬼という生き物は、同族意識の価値観が変わっているのにゃ」


「あいにく、君たち悪魔とは価値基準が大きく異なるよ。鬼は基本的に楽観的で能天気。そして悪意を原動力にしてないのなら、相手の気持ちを尊重する。そんな性質だから」


「にゃるほど。だから、あの妹ちゃんは大多数の相手と気が合うのにゃあね」


「まだ長く滞在したわけじゃないけど、この世界では気が合いやすい方かもね。色んな人と話した感じ、けっこう自由気ままな性格が多い印象かな」


「ふぅん。それなら自分が生まれ育った世界では、気難しい人たちが多かった印象のかみゃ?」


「断言は難しいかな。ずっと低層の山奥に暮らしていて、一度も見たこと無い場所がほとんどだし。それこそもう一人の妹(・・・・・・)みたく勉学に励んでいたら、広い見聞を持つ機会は得られていたかもね」


「それだけ柔軟な考えを持ちながら世界を知らずに山暮らしなんて、色々と勿体(もったい)にゃい人生よ」


「それについてはネコちゃんの言う通りだね。ただ仮に中層より上へ行っても、妹はあたしのために星銀術(せいぎんじゅつ)と3本角の紋様(もんよう)を使うことに変わりな……っと、お店が随分と賑わっているね?」


スーパーマーケット前に到着するなり、ロゼラムは興味深い視線で慌ただしい光景を眺める。

彼女が目にしたものは、大勢の悪魔たちが総動員で清掃に励んでいる姿だ。

また、その中には喪服を着ている者も居て、どこが浮かない様子だった。

元より暗闇を好む種族かもしれないが、そうだとしても空気が重々しく淀んでいる。


「どこか哀愁を感じられる気配だね。ここの文化に詳しいわけじゃないけど、葬式っぽくない?誰か死んだの?」


「分からないにゃあ。そういう報告は受けてないにゃのよ」


「うーん。とりあえず用があるわけだし、お線香でも立ててあげるかな」


ロゼラムは訳が分からないまま、派手な広告類が飾られている店の中へ足を踏み入れる。

すると入店した先の空間は、つい見上げたくなるほど天井が高い大ホールとなっていた。

この時点で事前の情報とは異なっていて、スーパーマーケットと呼べる要素がどこにも見受けられない。

しかも多くの献花が飾られており、至る所から格式が高い雰囲気を漂わせていた。


更に大勢の悪魔が参列しており、坊さんがお経を粛々と唱えているのだから葬儀が()り行されていると考えるのが自然だろう。

ただし同じ場所に神父らしき恰好の人も居るので、どのうような状況なのかロゼラムは把握できなかった。


「葬儀?それとも祈り……あー、結婚式かな。どういうこと?この世界では、こういう手法が一般的なの?」


「え~……?はにゃ!?あそこに立てられている顔写真を見てみゃ!あの棺が置かれている場所!あの魔女気取りの顔写真は創造神様のにゃ!」


「つまり、あれが店長さんのご尊顔ってこと?もしかして死んだのかな。何があったのか知らないけど、かわいそうだね」


「種族的には半分人間にゃけど、だからと言って跡形もなく消し飛ばされても死ぬような存在じゃないみゃん。ネコがちょっと見て来るにゃ」


ネコはロゼラムの腕から飛び降り、棺がある場所へ向かって歩き出す。

その途中でネコは悪魔の翼が生えた少女の姿に変身し、猫らしい耳と尻尾を揺らしながら堂々と接近する。

更に遠慮なく台上へ登るなど明らかに異様な行動を取っているのだが、誰も気にしてない辺り、悪魔に相応しい無法地帯っぷり。

そして悪魔少女が棺桶の中を覗き込むと、そこには満面の笑みで眠るセブンスが丁寧に収められていた。


「そ、創造神様にゃ……。万が一にもありえない事にゃのに……うにゃあ~。で、でも何か言っているようにゃ……?」


ネコは周りのノイズを遮断しつつ、全意識をセブンスの声に集中させる。

獣耳と肌の感覚を極限まで澄ませ、僅かな空気の震えを知覚する。

それで相手が呟いている言葉を聴き取り、ネコは発言内容を無意識に繰り返した。


「ラムネちゃん……。(とうと)みが神レベル過ぎて死んだ。末代まで結婚しよ。死後の人生計画も立てた。従業員全員で新婚旅行……。にゃ、にゃにを言っているのみゃあよ?うぅ~、創造神様の頭がおかしくなっちゃったにゃあ……」


ついに自分の使い魔にすら異常だと認識されてしまうセブンス店長。

それほど普段では考えられない行動を起こしている上、棺の中で煩悩丸出しの寝言を延々と発しているのだから、とても正常とは言えない。

その一方でロゼラムはネコの戻りを待っていたのだが、驚きのあまり硬直する彼女の姿を眺めて呟いた。


「ネコちゃん、どうしたのかな。ここから見えるくらい険しい顔をしているし、心配だなぁ」


「失礼します。貴女様がロゼラム様ですね」


「へっ?」


ロゼラムは不意に声をかけられ、思わず()頓狂(とんきょう)な声をあげる。

そして呑気な顔で視線を向けると、そこには快晴を連想させる髪色の女性が美しい佇まいで立っていた。

一目で分かるほど神々しいオーラを纏っており、豊満な体つきで獣のような耳と尻尾が特徴的。

この悪魔だらけの葬儀には似つかわしく無いほど可憐であって、意外な出会いにロゼラムは小さな戸惑いを覚えた。


「えっと、そうです。はい、あたしがロゼラムです。失礼ですが、どちら様ですか?」


「すみません。急なお声がけで驚かれましたよね。私はハイピスと名乗る者でして、このお店で従業員として働かせて頂いております」


「あぁ、なるほど。それなら妹と同僚なのですね。では、改めまして姉のロゼラムです。いつも妹のアオ……、ラムネがお世話になっております」


相手の正体を知るなり、すぐにロゼラムは丁寧な振る舞いで頭を下げて挨拶する。

するとハイピスも親切な態度で挨拶に応え、同じ作法に(のっと)って頭を下げた。


「いえいえ、私の方もラムネ様には大変助けられております。大変な仕事にも熱心に取り掛かる、とても素晴らしい気概の妹様ですよ。何よりも挑戦する心意気が(たくま)しく、私が学ばさせて貰っているほどです」


「あの引っ込み思案の妹が、そこまで立派に成長を……。妹の実直さは誇れるものだと思っていましたが、それでも驚きを隠せない話です」


幼い頃からラムネを育てていたロゼラムにとって、ハイピスから聞かされた世間話は吉報そのもの。

だから世間体を取り繕いながらも感無量の様子を見せていた。

同時にラムネの成長ぶりに期待を抱き、早く会いたい衝動が強く湧き立つ。


「ハイピスさん。妹は今どちらに居ますか?」


「控え室にいらっしゃいますよ。そこまで案内しますね。どうぞ付いて来てください」


「控え室……ですか?分かりました。どうかお願いします」


ひとまず距離感がある話し方で接しながら、2人はホール脇の通路を歩く。

それから狭い道を進んで部屋の前へ移動した後、ハイピスは扉をノックしながら呼びかけた。


「皆さま方、ハイピスです。今、ロゼラ……」


「あのハイピスさん、ちょっと待って下さいね。ここは姉として、カッコいい登場をさせて下さい。滅多に無い機会ですから、運命的で感動的な再会を演出したいのです」


「そうでしたか。くすっ、ロゼラム様はエンターテインメントに()んでいるのですね。それではお任せしました」


この妙な(こだわ)り方は、心なしかラムネの思考と似通っている。

というより、ラムネが姉の影響を大きく受けているのだろう。

だからラムネ特有の(つたな)さが彼女には無くとも、細かな仕草や気配がほとんど同じ。

そのおかげで前から知り合いであったかのような気持ちを抱き、ロゼラムに(した)しみを感じられた。

ただロゼラム本人は今、自分の懐から取り出したクラッカーに意識を向けている最中だ。


「妖術・鬼の紅華(くれないばな)繚乱(りょうらん)。うん、これでよし……っと。あははっ、きっとビックリしてくれるだろうなぁ」


ラムネの驚く顔でも想像しているのか、既にロゼラムはご満悦な様子。

そして彼女は準備が整うと、すぐさま扉を勢いよく押し開けた。

同時にロゼラムはクラッカーに付いている紐を引き抜き、華の形を模した鬼火を笑顔で部屋中に放つのだった。

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