41.セブンス店長の死因はラムネの天然でビッグバン
トイレを済ませると共に意気込みを入れたラムネは、やや急ぎ足でセブンス達の所へ戻った。
そこでは偽物のロゼラムと小声で話し合っている途中だったが、彼女が戻って来ている足音に気が付くと、慌てて一歩離れる。
あからさまに怪しいが、やはりラムネは気にせず声をかけた。
「セブンスさ~ん、ロゼラムお姉ちゃ~ん。すみませ~ん、大変お待たせしましたぁ~!流すのに時間がかかってしまいまして~!」
「あのねラムネちゃん、そんなことは報告しなくてもいいよ。……いや、もしかしてトイレを壊したの?」
「さすがのわちきでも、使う度に壊したりしませんよ!えぇっと、ところで2人で何を話していたのですか?」
ラムネは大げさに身振り手振りしつつ、どことなく演技かかった口ぶりで会話を始める。
ハイピスの指示通り、会話の主導権と間を掴むためだ。
対してセブンスは落ち着きない素振りで、それらしい答えを口にした。
「あー……前のラムネちゃんはどうだったのか、お姉さんから聞いていたよ。あと、ここではどんな感じで暴れているかみたいな話だね」
「えぇっ!?そんな暴れた記憶なんかありませんよ!?一回も無いはずです!多分!」
「まぁ私が話しているのは、泥酔状態の時だったしね。その事を抜きにしても色々と破壊されているんだけどさ。家や店とか」
「うっ……、そのことは誠にごめんなさいです……」
「あははっ、別に謝る事じゃないよ。単なる思い出話として話題に出していただけだから」
セブンスは笑って誤魔化すが、ラムネの破壊については改めて謝るような出来事では無いと本心から思っている。
そのことはラムネも分かっていて、相手の懐の広さに感化されて心が温かくなった。
「えっへへ~。やっぱりセブンスさんは良い人ですね!」
「ん?そうかな?」
「はい!わちきが一番に尊敬する、絶対にすっごく偉大で良い大魔女さんです!優しいですし、気前も良いですし、いつもわちき達のことを気にかけてくれる素晴らしい店長さんですよ!だから感謝してます!」
「あははっ。いきなり褒められると、ちょっと照れるかな。しかもラムネのお姉ちゃんの前で言うなんて」
「だって、お姉ちゃんにも自慢したいくらいセブンスさんの事が大好きですもん!わちき、セブンスさんに会えて幸せです!こんなにいっぱい嬉しい気持ちにさせてくれる人は初めてで、本当に会えて良かったです!」
ラムネはとびっきりの笑顔を見せながら、セブンスとの距離を詰めて両手を握る。
対してセブンスは思わぬ褒め言葉に戸惑うが、にやける顔を隠せないでいた。
恥じらいと喜び、更に本能から湧き上がる衝動が抑えきれない。
まして周りに使い魔しか居ない状況だから、このまま本心をぶちまけてしまいたい気持ちにセブンスは駆られた。
それでも彼女は良い店長を演じることに徹して、動揺しながらも言葉を返す。
「はは、ふふふっ。う、うん。そこまで褒めてくれたら、私も嬉しいよ。うん……私もラムネちゃんのことは好きかなぁ」
「えっ、大好きじゃないのですか?わちきは、セブンスさんのことが大々々好きですよ」
いじらしく、少し甘える仕草でラムネは問いかける。
それは本能を激しく掻き立てる振る舞いで、しかも相手は愛情を求めているとセブンスは理性でも分かってしまう。
これにより本能と理性の両方を刺激され、より彼女の興奮が高まるのだった。
「やばい、興奮し過ぎて鼻血が出そう……」
既にセブンスの目はギラついてしまっているが、それでも全身全霊で衝動を抑え込もうと懸命に抗う。
だが、そこまで余裕を失った状態となれば心の平静を保つことは困難だ。
よってセブンスが自身の混乱を治めるためには時間が必要なのだが、ラムネは更に強く手を握り締めながら囁き声で催促した。
「セブンスさん。わちきは大好きですよ」
「わ、わわ……私もね、えっと……あの、ラムネちゃんのこと……」
「大好きですか?」
「大好きだし、本音を言うと……。あいっ、あああ……あぁ……あい~、あいひ……あいしぃ……」
「あい……?それはどこの言葉……あっ、分かりました!わちきもセブンスさんの事を愛していますよ!!」
ラムネは恥ずかしがることなく、真正面から笑顔で言いきる。
そして、その告白はセブンスからすればビッグバン。
宇宙の創生と星の誕生を肌身で感じ、全身が星空を舞うような心地良さと浮遊感を体験する。
更に体温はマグマより熱くなり、視覚はラムネの顔しか認識しなくなっていた。
しかも告白の言葉が延々とリフレインし、2人でベッドへ突入する妄想まで脳内に駆け巡った。
それから彼女の全細胞が歓喜に満たされた瞬間、結界の外側に居るハイピス達にまで聞こえる声量の奇声をあげた。
「あひゃああぁあああああああぁあ、うわぁああああいぃいぃぃぃいいいいいいいいええぇええええええぇえええええぇえぇぇ!!?いぎぃぎぎぎぎいいいいいいいいいいいぃい!!うひょひょおおひひひいいひひいいぃいいいほほほほほほっほほほぉ!!?」
「ひぃっ!?セブンスさん!目から凄い量の涙が!?口から泡が!?手汗も滝のように流れて……えぇえぇぇ!?」
「そそそ走馬灯がぁああああぁあ!?私の中で、私の中でラグナロクが起きてアルマゲドンしてるぅうぅううう!ラブラブでチュッチュッな囁きで心がビッグバンしているよぉおおぉ!つまり愛があれば宇宙を創れるのは真理だったんぎゃああああぁあああぁ!それなら私が創った宇宙には、純愛が足りなかったんだねぇええ!でもでも、悪魔の存在を創生した私でも愛を知れたから、これからはパクパクモグモグでラムネちゃんの愛が濃厚でおいしくて止まらないよぉ!!にこにこでハッピーな気持ちが溢れて、現時点から当店スーパーマーケットは愛も販売しますからあぅううう!特売で在庫無限大どぅわ!しかもプライスレスなオマケ付き!一生分の幸福をプレゼントされちゃったにゃあああぁ!!あっ、こんな所に人生のゴール地点をみっけ!うわあわぁあああぁダイレクトシュートぉおぉおおお!大逆転満塁ハットトリックのゲームセットでホールインワン!世界からレッドカードを受け取ったMVPセブンスの活躍にご期待下さいねぇ!もちろん愛の記者会見インタビューを欠かさず、一発昇天でブーケはラムネちゃんにプレゼント!これでエンドレス結婚しちゃって、結婚指輪は永遠の愛の証拠品で非売品でしたってわけでしたぁあああぁあ!!!残りの余生は私とだけ重婚を繰り返しながら過ごして、うひゃあああぁあああ……!!!?」
「あの、あのあのセブンスさん!もう何を言っているのか分からない……って、セブンスさんの体液で床がビシャビシャになっていますよ!?これ大丈夫ですか!?このままだと店内が湖になりますよ!」
凄惨な光景を見たラムネの脚は恐怖で震え、店内には2人分の絶叫が響き渡る。
まるで悪魔が苦しみにあげる断末魔だ。
そしてセブンスが体液を噴き出しながら卒倒した事により、スーパーマーケット周辺を囲んでいた領域結界は崩壊する。
その異常とも呼べる状況変化にハイピス達も気が付くのだが、ただハイピスは事態を理解できていなかった。
「あら、おかしいですね。私達が指示をする前にセブンス店長が結界を解きました。先ほどの雄叫びと言い、いったい何が起きたのでしょうか?」
「リビィですら身震いするほどの怨嗟だったんだ。何がともあれ、セブンス店長が本気を出す前に解決したなら良かったんだ」
どうやらハイピス達が褒め殺し作戦を実行する前に、ラムネは1人で完遂してしまったようだ。
つまり一連の褒め言葉はラムネなりに話の流れを作ろうとしただけであり、天然が炸裂したことで無事に店長を打ち倒した。
というより、ほぼ自爆だ。
また、感情が大爆発したセブンスは全身を痙攣させ、難解な言葉を呟くだけの屍へ変り果てるのだった。




