37.ロゼラムが来たので極秘作戦が決行されます
ロゼラムから手紙が届いた翌日。
その妹であるラムネは、かなり落ち着かない様子でスーパーマーケット内を歩き回っていた。
何も起きて無いのに焦っており、やや挙動不審。
そんな彼女をセブンスは魔法で監視していて、偶然通りかかったように近づいてから声をかけた。
「ラムネちゃん、どうやら相当緊張しているみたいだね」
「あっ、セブンスさん。は、はい……。いざお姉ちゃんに会えると思ったら、ソワソワしてしまいます。そのおかげで夜なのに目がギンギンでした」
「あははっ。日数的にはそこまで久しぶりの再会ってわけじゃないんだから、もう少し肩の力を抜いたら?それだと笑顔で歓迎できないでしょ」
「たしかに体がガチガチです……。うぅ~、セブンス店長~。どうすれば肩の力とやらを抜けますかぁ?」
いつになく弱気になっているラムネは、自然と甘える目つきでセブンスに問いかける。
その彼女の仕草にセブンスは欲望に駆り立てられながらも、いつも通りの態度で答えた。
「一度、トイレでも行けば?そして温かいお茶を飲んで深呼吸する。なんならミニキュイと遊んでも良いしね。こういう時は少しでも気を散らした方がリラックスできるものだよ」
「えっ、そんな事で時間を潰して良いんですか?」
「ラムネちゃんにとって特別な日だし、今日くらいは気にしないよ。その代わり、従業員としてのラムネちゃんをしっかりと見せつけること。だから気兼ねなく休んで。これは店長命令だよ」
「うわぁ~!ありがとうございますセブンス店長!それではわちき、お言葉に甘えせて頂きますね!大好きです!」
ラムネの大好きという言葉は、社交辞令では無く本当に思っていること。
だが、あえて社交辞令だとして受け取らなければセブンスの理性は壊れそうで、笑って受け流す対応をしてみせた。
「あっはっはっは~。はいはい、私も好きだよ。それじゃあ、ごくあ……ロゼラムちゃんが来たら呼ぶからね」
「はい、お願いします!」
ラムネは笑顔で応えながら元気よく走り去る。
この時点で彼女の緊張が和らいだのは、セブンスが助けてくれるのだから自分は不安を覚える必要は無いのだと、そう素直に解釈したからだ。
しかし、実際のセブンスには下心しかない。
そして彼女はラムネを持ち場から離すと、まずは自分の動悸を鎮めようと深呼吸を繰り返した。
「ふぅ~はぁ~……。あっぶなぁ。あとちょっとで私の悪魔が発狂して、ラムネちゃんにベロチューする所だった~。鬼なのに天使より可愛い顔で懐くなんて、最強すぎるでしょ……」
セブンスは溢れ出る衝動を抑えたつもりでいるが、これから実行する計画を考えると何一つ抑えられていない。
むしろ悪化している始末で、彼女はスカウターを使って他の従業員たちに極秘で通達した。
「さてと、みんな聞こえてる?これから作戦を開始するよ。まずは手始めに使い魔が極悪人の素性を調べるから、その経過観察を各自お願いね。あとは手はず通りに事を進めて、相互の報連相を欠かさないように」
簡潔に連絡を済ませたセブンスは、かつないほど真剣な表情を浮かべている。
それはまるで世界の命運を賭けた決戦に挑む者であり、絶対に勝利するという覚悟を決めた勇ましい雰囲気。
そんな本気となってしまった彼女が身勝手に立ちはだかる今、ラムネは無事に姉と再会できるのだろうか。
それから同時刻のこと。
とある大型バスが村はずれのバス停へ止まる。
そこで降りたのは女性1人だけで、その人物は綺麗で長い銀髪で朱色のメッシュが跳ねていた。
また容姿こそは所々異なるものの、控え気味な胸を除けば体格や身長はラムネと大差ない。
ただ他の部分もラムネと比較すると、見た目で一番大きな違いは頭に小さな角が2本生えていることだろう。
そして、なぜか和風ながらもゴスロリ色が強いミニスカートの袴姿だ。
「あぁ、ようやく降じえた。ここが妹が住む村だっぺね。……ううん、住む村だね。あの子、あたしに会ったら泣いちゃいそうだなぁ。それか離れていたことで怒られるかも。ふふっ」
鬼娘ロゼラムは、大好きな義妹のことを思い出して口元を緩める。
今、心の内を満たしているのは純粋な期待。
なぜなら、信じられないほど人見知りで自然の物音にすら怯えていた少女が、新しい人と出会って日々を過ごしているのだから。
そう思うと妹の成長が嬉しくあると同時に、親切な相手に無条件で多大な感謝の念を寄せたくなる。
「とりあえず歩ぶかな。嗅んでも妹の匂いはしないから、できたら道を訊きたいところなんだけど……。村は、こっちの方かな」
独り言だからなのか、彼女は無意識に訛り口調で喋る。
それから歩き出して間もなくのこと、道端でケガした猫が視界に入るのだった。
身なりからして単なる野良猫であり、ほんの少し歩きづらそうにしているだけで深手の傷では無いはず。
そのため無視しても何の問題も無いのだが、ロゼラムの脚は自然と猫の方へ向かっていた。
「にゃあにゃあ猫さん、大丈夫かニャ。見たところ、お尻の方をケガをしているみたいだから、あたしが治療してあげるニャーよ?」
彼女は取ってつけたような猫の鳴き真似をしつつ、お菓子を取り出して猫を誘惑する。
それによって近づこうとする最中、とある少女が遠目で監視しながらスカウターで話し出すのだった。
『こちらリビィなんだ。ターゲットを視認。現在、食べ物で気を惹いて使い魔に接触を試みている模様』
『こちらセブンス。その鬼、やっぱり典型的な極悪人だね。動物を見かけるなり、エサで誘惑しようとするなんて』
『言い掛かりにも程があるんだ』
『通信中の愚痴は店長権限で禁止!とにかくリビィちゃんは、そのまま引き続き見張ってて!何も見逃さないように!』
『了解なんだ。はぁ……こんな調子が続くなら、なんだか気乗りしなくなってきたんだ』
『リビィちゃん、聞こえているよー?』
さすがにセブンス以外の全員は真剣に取り掛かっているわけでは無いため、気が抜けた会話が何度も続けられる。
そうしている間にもロゼラムは猫に触れていて、ちょうど特別な力で治療を施すところだった。
「君は野良猫なのに大人しくて良い子だね。妖術・鬼の邪気払い」
彼女の手に青い鬼火が灯るなり、猫のケガはあっという間に塞がる。
魔法ほど跡形も無く治るわけでは無いみたいだが、それでも活動に支障が出ないほど効果的で即効性が高い治癒術だ。
一方でロゼラムは猫の様子を見て、小さな違和感を覚えた。
「うん?この猫の傷跡………まぁいいか。それじゃあ、今度は気を付けるニャーよ」
今はラムネに会う事が優先であるし、気にかけたことを確証する手立てが無い。
だからロゼラムは離れ行く猫を見送り、更に足を進めた。




