35.明日お店に来るけどラムネはどうするの?
姉から送られた手紙により、ラムネには様々な感情が渦巻いた。
特に強かった想いは幸福と安堵。
姉が無事だと知れた上、一方的であっても連絡が取れたことに大きな安心感が覚える。
その一方で、いきなり走り出した彼女が手紙を読んで喜ぶ様は異様なもので、一体何事かとセブンスがやって来た。
「どしたの、ラムネちゃん。ずいぶんと興奮しているみたいだけど。ついに損害賠償の明細書でも送られて来たの?」
「セブンスさん!聞いて下さいよ!これ、ロゼラムお姉ちゃんからのお手紙なんです!」
「ロゼラムって……、あぁ、ラムネちゃんが探しているお姉ちゃんだっけ。無事だと分かって良かったね。ちなみにどんな事が書いてあるの?」
「別の世界を救ったご褒美に、わちきの今いる世界へ来たそうです!そして明日、このお店へ来ると書いてあります!」
「さりげなく情報量が多くない?でも、まぁ何がともあれ良かったじゃん。これで姉妹でお家へ帰れるわけでしょ?それくらいの異世界転移サービスなら、私が無償でやってあげるよ」
セブンスはあっさりとした物腰で言いながら、足元で跳ねていたミニキュイを抱き上げる。
しかし、彼女の一言で直視すべき問題があることにラムネは気が付き、先ほどまで浮かれていたはずなのに硬直するのだった。
「えっ、あ……。そっか。それも、ありえますよね。前のお家に……帰る。あぅ~……?」
「あれ、随分とおぼつかない反応だね?」
「お姉ちゃんと再会した後のこと、わちき何も考えてなかったので……。前にハイピスさんが目標の立て方を教えてくれたのですけど、まだ自分がどうしたいとか……何も決めてないままでして」
「ふぅん。まぁ、別に私は元の世界へ帰るなら協力するよってだけの話だから。この村に定住する選択も良いと思うよ。その手紙には、再会した後の事とか書いてあるの?」
「それは書いて無いですけど……。うぅ、わちき……リビィさんとの約束もありますし、お世話になっている人に恩返ししたいですし、このまま何もできずセブンスさんと別れるのも嫌ですし……。でも、帰りたい気がして。もぉ~キュイって感じです!」
「本当、ラムネちゃんって根が純真で律義な子だなぁ」
ラムネは本気で悩み、困り果ててしまう。
彼女はまだ幼く、姉との二人きりの山奥暮らしだったから、自分の今後を決める決断自体が初めてのことだ。
そもそも人生経験の浅さ故、これまでラムネは思いつきと周りに流される形で行動してきた。
それはこの先も変わらないだろう。
しかし姉と再会した後のことについては、よく考える必要があるとラムネは自覚していた。
とは言え、いくら彼女自身の問題であっても放置するわけにはいかず、セブンスは考え方のアドバイスを送った。
「ねぇラムネちゃん。あまり悩んでも仕方ないし、こういう時は一歩身を引いて気軽に考えてみたら?」
「それは……。わちき、お姉ちゃんが大事です。だけどフーランさんやリビィさん、ハイピスさんとセブンスさん。どれも初めての出会いで、初めて話し合えた友達です。だから全部、わちきは大事にしたいです」
「要するに、気軽に決めるのは無理ってことね。そして全部が大事というのは、前の生活も捨てたくないわけだ」
「はい……そうですね。そうなります。あぁ、もう~!わちき、自分にイライラしますよ!欲張りなのに、自分で決められないなんて~!何か、ズバズバッと解決する発想が欲しいですぅ~!」
ラムネはジタバタと足掻き、苦悩する。
ただし、どれほど時間をかけて真剣に思案しても、自分が納得できる答えを出すのは困難だろう。
そのためセブンスは、それとなく提案した。
「私、あまり相手を唆すのは好きじゃないんだけどさ。それなら姉と村に住めば良くない?そうすれば前の生活と同じは無理でも、たぶん望み通りの状態にはなるでしょ」
「で、できたら……そうしたいです」
「それじゃあ、ひとまずラムネちゃんの考えは姉と一緒に村で住むこと。あとは私じゃなく、姉と相談して方針を擦り合わせた方が良いよ。私は一度も面識ないから、ロゼラムって人の考え方を知らないし」
あくまでセブンスは店長という立場に留め、この先の人生はラムネ自身が決めるべきだと思って無難な考えを示した。
その気遣いにラムネは気づいて無いが、ふと思うところはあった。
「ちなみにセブンスさんは、どうして欲しいですか?」
「ん~?もちろん、ラムネちゃんの思う通りにして欲しいよ」
「えっと例えば、お店でまだ働いて欲しいとか、わちきにご飯を作って欲しいとか、そういうのです」
「あははっ、それを聞いちゃうのね。たしかに一度くらい手料理を振る舞って貰うのも良いけど、まぁ……そうだね」
思わぬ質問で動揺するセブンスは言葉を濁し、少し寂しそうな目つきで視線を落とす。
彼女は大魔女と名乗るだけあって多くの事を経験しており、またラムネとの出会いは長い人生における一つの出来事でしかないと思っている。
だから今生の別れになっても、そういうものだったと割り切れる。
それでも、やはりラムネの姿を眺めていると人情的に揺さぶられる想いがあった。
「さすがに明日は急だし、もう少しだけ働いて欲しいかな」
セブンスはワガママを言える立場じゃないため、それっぽい理屈をつけて答えた。
だが、その素直じゃない所は無理して我慢する子どもみたいだ。
しかも本音を隠そうとするあまり、彼女はミニキュイで自分の顔を隠す。
当然、ラムネは彼女の複雑な心境を見抜けるほどコミュニケーション経験は積んでない。
しかしセブンスが普段より寂しそうに見えたという理由で、ラムネは彼女との距離を詰める。
「セブンスさん」
そっと名前を呼ぶなり、ラムネは小さな大魔女を優しく抱きしめるのだった。
このことに相手は驚きを覚えつつも、押し除けそうとはしない。
「ちょっとラムネちゃん。あははっ、いきなり何のつもりなのかな~?」
セブンスは少し反抗的な物言いながらも受け入れており、満更では無い様子だ。
対してラムネは自然体で答える。
「わちき、寂しいなぁって思ったときは、いつも誰かにぎゅう~ってして欲しいと考えるんです」
「そっか、ラムネちゃんらしいね。でも、ほら……ミニキュイだっけ。ラムネちゃん自慢の力で、この子と私を潰さないようにね」
「大丈夫ですよ。これはわちきとミニキュイの2人で、ぎゅう~としているわけですから。つまり、これで抱きしめ力と温もりが2倍です!」
「ふふっ、あっはっはっは!なにそれ、相変わらず不思議なことを言うんだね」
「そうですか?でも、こうしていると安心しません?」
「そうだね。たしかに安心するよ。ラムネちゃん相手だと、より落ち着くかな」
そうセブンスは応えながら、彼女の大きな成長を実感する。
同時にラムネのこれから先を、もう少し見てみたいと思って喋った。
「ねぇ、ラムネちゃん。どうせなら店員として姉を歓迎してみない?それで、このお店でどんな事を学んだのか教えてあげたら?」
「実践ですか!いいですね!そうすれば、お姉ちゃんから村で一緒に住みたいと言い出すかもしれません!」
「えっ?なんでそんな発想になるのか分からないけど……。ひとまず、そうしてみようか。私も店長として、ちゃんと挨拶しておきたいしね」
「はい!わちきも、お姉ちゃんに皆さんを紹介したいです!このお店のおかげで大好きな友達がいっぱいできたよ、って!」
ラムネは、にこやかで輝かしい笑顔を浮かべて言いきる。
それほど強い好意と信頼を寄せてくれるのは、セブンスも素直に嬉しかった。
ただ彼女の素晴らしい一面を見ればみるほど、ラムネの姉は彼女と一緒に居たいと願うはず。
それならばラムネと別れる可能性を捨てきれず、その場合の準備が必要かもしれないとセブンスは考えるのだった。




