33.野原でのんびり撮影会です
「この焼き菓子さん。サクサクのホロホロで、とってもウマウマですよ~」
ラムネは野原に座り込みながら、至福の表情でクッキーを頬張る。
彼女ら4人は今、美しく色鮮やかな花が咲き乱れる草原へ来ていた。
というのも魔神を撃退後、無事『ジャックの箱』を入手したので帰るつもりだったのだが、その帰り道の途中でラムネが一息つきたいと言い出したからだ。
彼女が最大の功労者であること、そして単純に他の3人も休憩したいと思い、適当な場所へ降り立って寛いでいる最中だ。
同じくリビィもクッキーを食べては、フーランが淹れた紅茶を飲んで安らいでいた。
「はぁ~……。思っていたより早く仕事を終えられて良かったんだ。服はボロボロになったけど、フーラン先輩が裁縫で応急処置してくれて助かったんだ」
「フーランさんって、本当に器用ですし何でも用意しているんですね。まさか裁縫道具と布類まで持ち歩いているなんて驚きです」
「まさしく世話好きのおば………面倒見の良い先輩お姉さんって感じなんだ。それよりラムネお姉ちゃん、リビィとの結婚式はいつにするんだ?」
さも当然のようにリビィは結婚の話を推し進める。
その様子にラムネが驚くのも当然であって、彼女は目を丸くして咽込んだ。
「ぶふっ!?げほっごほっ……!えっ、あれれ!?その話って本気だったんですか!?」
「もちろんだよ。姉妹で結婚すれば、もうこれ以上ない親密な関係性なんだ」
「う、うーん?まだ色々早いというか、ちょっと踏み込み過ぎているというか。わちき、あまりリビィさんのことを詳しく知らないというか。そもそも結婚する必要が無いような……?」
決して悪い話だとラムネは思って無いが、それでも戸惑いが強いのは正常な反応だ。
なにせ一度も同意した覚えが無い。
また、あやふやながらも鬼娘の言い分は正しいだろう。
しかしリビィは彼女の煮え切らない返答に満足せず、この話の落ち所を自分勝手に決めた。
「じゃあ、まずは恋人関係で我慢するんだ。それで心の整理が付いたら結婚!つまり今は婚約者なんだ!」
「それって結局は結婚することが前提じゃないですか?あとリビィさんのことは大好きですけど、わちきには結婚自体がよく分からないままなんです。だって、生涯を共にするわけですよね」
「リビィの事が好きなら細かいことは気にしなくて良いんだ。ちなみにリビィの父親は無間地獄を治める死神大魔王だから、いつか挨拶しに行くんだ。そのためにも愛想笑いとお笑いコントの練習が必要なんだ」
「あの、さりげなく約束事が増えてないですか?結婚の話だけでも心の整理がついてないのに……。わちき、悩みが尽きないですよ」
ラムネとリビィは本物の仲良し姉妹みたいに、そして2人らしいマイペースな話題で盛り上がりながら休憩時間を楽しむ。
その一方でハイピスは落ち込んでいて、摘んだ花に向かって暗い顔で話しかけていた。
「あははは……。お花さん、せっかくですから私の信徒になりませんか?お花さんにも隔てりなく幸福を授けますよ」
落ち込んでいる女性が花に宗教勧誘する光景は、恐ろしいほど怪しさ満点だ。
また、病んだ雰囲気も相まって近寄りがたい様子だった。
だが、彼女を気にかけるフーランは自然な振る舞いで近づくなり、今しがた編んだ花冠をハイピスの頭へ被せた。
「ハイピスさん。過ぎたことを気にしてばかりでは、他の信徒に落胆されますのよ」
「フーラン先輩……。ですが、私は信徒を増やせず、あまつさえ異教徒を見逃してしまった惨めな見習い女神です。もはや崇拝される価値すらない、愚かで不甲斐ない存在です。しくしくしく……」
「あざとい泣き方ですのに涙の量が本気ですのよ」
フーランは再び精神安定のハンカチを取り出し、自ら卑下するハイピスの涙を拭う。
それによって彼女は少し落ち着くものの、残念な思いまでは解消されなかった。
そんなネガティブ思考に陥っている彼女を見かねて、フーランは慰めの言葉を優しくかける。
「元はと言えば、彼らを見逃す条件で『ジャックの箱』を大人しく渡して貰えましたのよ。そのような経緯がある以上、ハイピスさんには何も落ち度などありませんの」
ハイピスの宗教勧誘から全力で逃げていたグループは、彼女らが魔神を倒す様を目の当たりにした後、すぐさま降伏して従順な態度になっていた。
それを機にハイピスが洗脳を施そうとした矢先のこと。
ラムネは怯える相手を見て、すかさず庇うように言い出したのだ。
「その箱を渡してくれたら、お家まで送ってあげますよ」と。
それから相手グループとラムネの間で話が淡々と進み、他の人が口を挟む前に取引が終わった。
ラムネからすれば対等な条件下で、家に送る代わりに『ジャックの箱』を貰ったつもり。
しかしハイピスからすれば、宝を渡して貰う代わりに見逃してあげたようなもの。
よってハイピスのみ不満が残る形になってしまい、信徒を増やすことを最大の目標にしている彼女は気に病んでいた。
「たとえ落ち度が無くとも、私の『全種族を幸福にします計画』が滞ったのは事実です。あぁ自分自身が嘆かわしい」
「いつの間に変な計画名を付けましたのね。しかし壮大な夢を持つのは結構ですけれど、だからと言って事を焦る必要は無いと思いますのよ。焦りは失敗を招くだけですの」
「そうかもしれません。ですが………」
「それに、あの場面で無理強いするものなら、きっと貴女はラムネさんに見限られてましたのよ。あの子は優し過ぎるあまり、気弱になっている相手の意思を最大限に尊重しますもの」
「それは……、確かに避けたい事ですね。ラムネ様の気遣いは手本になるところがありましたし、何よりも私のせいで気分を害されるのは望ましくない事です。彼女は、私の大事な信徒の一人ですから」
「それと望み通りにならなくても、とにかく次のことを考える方が良いですのよ。そうして次々と行動を起こせば夢は実現するものだと、ワタクシが保証しますの」
フーランは大勢の人と関わりながら長生きしているだけあって、割り切る心得を持っている。
また励まし上手で、相手に活力を与える話術にも卓越していた。
そんな彼女だからこそハイピスにとっては憧れの先輩であり、手本となる存在だ。
それほど深く敬愛している相手に励まされるのだから、落ち込んでいた彼女が立ち直るのは当然だとさえ言えた。
「ありがとうございます、フーラン先輩。あと花冠もありがとうございますね」
「えぇ、綺麗なハイピスさんにとてもお似合いですのよ」
そう言ってフーランは、どこからともなくカメラを取り出した。
「それでは、ハイピスさんが再奮起した証に写真に収めますの。そして写真を見るたびに元気を出して欲しいですのよ」
「ふふふっ。憧れのフーラン先輩から贈り物を頂いた日という、記念撮影でもありますね。でも、せっかくですから皆さんで撮影しませんか?」
「それは素晴らしい提案ですの。ただそうなると、セブンス店長を除け者にしてしまっているようで少し申し訳ないですのよ」
「セブンス店長は……、あとで写真の隅に顔写真でも合成しておきましょう」
「バレて怒られる未来が見えますのよ」
「おそらく大丈夫ですよ。セブンス店長は見た目以上に心が広く大きな方ですから。それよりも日が暮れる前に撮影していきましょう。一枚だけでは無く、何枚でも撮って……たくさんの思い出を残しておきたい気分ですから」
ハイピスは我ながら子どもっぽいワガママを言っていると思い、照れ隠しの笑顔を浮かべる。
そんな恥ずかしがる彼女の手をフーランは取り、明るい表情で応えた。
「奇遇ですの!ちょうどワタクシも沢山の写真を撮りたい気分でしたのよ」
そして彼女ら2人は手を取り合いながら歩き、おやつとガールズトークを堪能するラムネとリビィの所へ向かっていった。
それから彼女達は4人でポーズを決めながら撮影したり、2人ペアで撮るなど野原で楽しく時間を過ごした。
やがて他にも色々なシチュエーションで撮影する遊びへ発展していき、全員が乗り気で変わった写真も撮り始める。
例えば、ラムネにとって馴染みないお嬢様演技でお茶会風景。
リビィによるイケメン男優風や死神っぽいポーズ。
わざとらしいほど可愛く振る舞うことで、普段見せること無いギャップを演出するハイピス。
あえて体格を見せつけるようにして、美しさとセクシーな魅力をアピールするフーラン。
こうして賑やかな4人で遊べば、あっという間に時間は過ぎていく。
だから最後は夜の星空をバックに撮影した後、彼女らは多くの思い出と達成感を胸に抱いてスーパーマーケットへ戻るのだった。




