32.武神と死神と鬼神と女神と魔神
それから数秒後には大地が大きく隆起した後、大量の土砂が凄まじい勢いで空へ噴出された。
その光景は、火山の大噴火と同等。
同じくしてラムネ達4人と相手グループ全員はフーランの精霊に運ばれ、上空へ素早く脱出することで難を逃れた。
「間一髪ですの」
今、事態は目まぐるしく変化している。
そのはずなのだが、ラムネだけは先程と変わらない反応で未だに愛想笑いを作っていた。
「えへえへえへ」
「ラムネお姉ちゃん!狂ったように笑っている場合じゃないんだ!……あぁ、もう!フーラン先輩、あの精神安定のハンカチを貸して欲しいんだ!」
そうしてリビィはハンカチを借りるなり、ラムネの全身をバスタオルで拭くようにゴシゴシと擦った。
そんな僅かの間に『ジャックの箱』から噴き出した黒い煙は形を作り始めていて、あっという間に見渡しきれないサイズの超巨大生物となる。
その見た目こそは蜘蛛に似ているのだが、あらゆる箇所から触手が伸びており、至るところに砲台や兵器が備え付けられているため、どの種族にも該当しないだろう。
更に全身の外皮は特殊合金と遺跡の残骸で守られていて、もはや何でもありの姿だ。
また魔神は遺跡街に存在するモノを全て取り込んだらしく、見渡す限りの大地からは建造物が一掃されて何も無い荒野と化している。
こうして誕生した魔神を前に、フーランは眉を潜めて独り言を漏らした。
「魔神というより、昆虫そっくりのバケモノですの。……まったく、どうせならカワイイ妖精さんの姿になれば良かったですのに」
意味の無い愚痴。
だが、その言葉にハイピスが笑顔で反応した。
「そうですね。あれでは本物の邪神ですね」
「邪神かどうかは、何も見た目で決まるわけでは無いと思いますのよ」
「同感です。破壊的で攻撃的な神こそ邪悪ですからね。何もかもが私と正反対です」
そうハイピスが自信満々に言いきった直後、ついに魔神は攻撃を仕掛けてきた。
敵は彼女らの視界を覆いつくほど巨大な触手を伸ばし、光速に匹敵する速度で振り回した。
速く強靭で圧倒的な破壊力を生み出す攻撃。
きっと直撃すれば、この一撃だけで国家を一つ崩壊させるだろう。
そんな並外れた触手の薙ぎ払いをフーランは素早く察知し、みんなを退避させながら反撃した。
「精霊スキル・森羅万象の奇跡」
彼女の精霊が光りを放てば、それは触手のみならず魔神の全身を膨大なエネルギー放射で焼く。
そのはずなのだが、魔神の外皮は攻撃を受けきった上で傷すら負わない。
また軽く焼けた触手は瞬時に再生した後、フーランを容赦なく打ち払うのだった。
「なっ!?うぐぅ……!」
彼女は直撃する寸前に精霊で防御するものの、衝撃波によって地上へ向かって吹き飛ばされる。
同時に烈風が発生する中、すかさずリビィが攻勢に出ていた。
「リビィは神も殺せるから死神と呼ばれているんだ!ということで、これでおしまい!死神スキル・地獄渡航!」
魔神と変わらないほど巨大な大鎌が出現し、その刃は敵の命を問答無用に刈り取る。
それは『ジャックの箱』で生み出された最強生物でも例外では無い。
確実に抹殺し、絶対に命を奪って機能停止させる。
だからリビィの力で振るわれた大鎌は魔神の体を切り裂き、瞬時に絶命へ至らせた。
だが、すぐに魔神は装備している砲台の照準をリビィへ合わせて、一斉砲撃を始める。
「いっ!?まだ動けるの!?」
怒涛にして苛烈な爆撃が少女を襲う。
絶え間ない爆発は死神リビィに容赦無いダメージを与え、徹底的な破壊が継続された。
それでも少女は自身の能力で砲撃を振り払い、ボロボロになった服を気にしながら高速飛行で緊急脱出した。
「あぁ、もう最悪なんだ。セブンス店長から労災の手当て金を貰わないと、絶対に納得いかない仕事なんだ」
リビィは敵の過剰な追撃を回避しつつ、特別手当ての心配をする。
合わせて魔神の反応を注視することで、自分なりに解析を進めるのだった。
「死んだ後に動き出したって事は、あの怪物は自動蘇生するんだ。あとフーラン先輩の攻撃を受けると同時に、超高速再生で細胞も進化して強度が増していた。こうなると隙が無い上、何もかもがリビィ達と相性最悪なんだ」
魔神の特性を知れば知るほど、自分たちでは対処しきれない相手だと分かる。
ラムネの破壊能力なら通じるかもしれないが、呑気な彼女が魔神の速さに対応しきれるのか怪しいところだ。
そうなると律義に戦わず、魔神を放置して撤退する方が賢明で得策だろう。
「……なんてね。ヒーローは脅威を野放しにしてはいけないんだ。それに一応、自分たちが撒いた種みたいな敵だから、ここで倒しておかないとカッコ悪いんだ!」
すぐにリビィは考えを改め、目つきを変える。
その目つきは天界でひったくり犯を追っていた時より鋭く、死神の一面を包み隠さず表に出した様子だ。
少女は全力を出すつもりで、禍々しい漆黒のオーラを纏う。
一方でフーランは地面に叩きつけれた時に受け身を取っており、深く腰を落としながら深紅の長刀を構えていた。
「銀河すら切り裂く宝刀、『世界樹の血刀』の出番ですの。そしてワタクシの精霊剣術を披露して差し上げますのよ」
彼女に付き従っている無数の精霊が、次々と刃へ内包されていく。
それによってフーランの全身と武器には煌きが伴い始めて、膨大なエネルギーは刃に一点凝縮されていった。
この準備により、フーランとリビィの両者から凄まじい気迫が発せられる。
攻撃を放つ前から周囲の空気を震わせ、大地を揺らすほど本気の闘志が迸った。
それから息を合わせる掛け声すら必要なく、2人は同時に攻撃を放つ。
「リビィ式スキル・神次元の終焉死」
「武神精霊剣術・超越の理」
その攻撃は無音で、あらゆる認識と反応を許さない。
そして両方とも複数の銀河を終わらせるほどの威力が込められていた。
それでも大陸が崩壊せずに済むのは、彼女ら2人が自分の能力を最大限に扱えるから他ならない。
総合的な実力についてはセブンスの方が頭一つ抜けているのだが、敵対勢力を消滅させるだけなら2人のどちらか一撃で十分なほどだ。
何がともあれ、両者の全力を受けた魔神は抵抗する間も無く、塵一つ残せない無惨な結末を迎えていた。
「やりましたの」
「やーい、やーい。リビィは死亡フラグを折ってみせたんだ!これで帰ったら手当て金をいっぱい貰って、それでラムネお姉ちゃんと新婚旅行をするんだ!」
「あらま、リビィさんったら新しい死亡フラグを立てて………って。うぅん?」
決着がつき、一息つけると思ったのも束の間。
消滅したはずの魔神は、即座に完璧な形態となって再誕する。
今度は昆虫らしい薄い翼を何枚も生やし、ゴキブリと蜘蛛が合わさった最低最悪の姿だ。
それは目にしてしまうだけで神の正気すら奪う凶悪さがあり、実力と脅威度も先ほどとは比べ物にならない。
しかし、リビィとフーランは一仕事を終えた溜め息を吐いていた。
「予想通りの展開で助かりますの。そしてワタクシ達の役割は既に終わっていますのよ」
「うん。あとは任せたんだ、ラムネお姉ちゃん」
リビィがラムネの名前を口にしたとき、その当人は精霊に乗りながら大きな声をあげた。
「バビブベボ1号!」
ラムネが愛馬の名前を呼べば、ユニコーンのバビブベボ1号が瞬時に空を駆け抜けて来た。
そして彼女は愛馬の背へ乗り移るなり、鬼神の力を発揮させて二本目の角を出現させる。
するとセブンスに掛けられていた縮小の魔法は破壊され、ラムネの体が本来の状態へ戻った。
「さぁ、皆さんのためにわちき頑張ります!頑張ります、わちき!いっぱい頑張ります!バビブベボ1号も頑張ります!皆さんは、もっと頑張ってます!」
ラムネは自分なりの方法で気合を入れ込み、頭部に狙いを付ける。
だが、魔神が無抵抗のまま彼女の攻撃を受けるわけが無い。
そのため砲撃と触手、更には上級魔法や上級スキルを使い始める。
それでもフーラン達の確信は揺るがず、余裕の態度が崩れることは無かった。
「あら、魔神が悪足掻きしていますのよ」
「無駄なんだ。リビィ達の攻撃で一瞬でも意識が飛べば、あとはハイピスの術中。たとえ最強の神であっても、ラムネお姉ちゃんの認識は無理なんだ」
彼女ら2人は最初からラムネの突撃に運命を委ね、必ず勝てると信頼していた。
ただ一番の問題はラムネが魔神に接近できるかどうか。
それは2人の圧倒的な殲滅力とハイピスの認識操作能力が組み合わせられれば、魔神がラムネを正確に察知できないのは至極当然のこと。
だから敵の攻撃は全て的外れとなっていて、少女の接近を簡単に許していた。
「行きます!ラムネ必殺・ドンドンパンチ(金剛鬼神版)!」
よほど頼られるのが待ち遠しかったのか、傍から聞くと詰め込みすぎて訳が分からない技名を大声で発していた。
そしてラムネの放った殴打は子どもっぽい技名とは掛け離れており、世の理と能力そのものを完膚なきまでに粉砕する。
しかも単純な破壊力まで比類なきものであって、拳が触れた瞬間に魔神の体は豪快に弾け飛んだ。
それどころか宇宙全体が歪み、二次被害で異世界転移が多発してしまうほど。
そしてラムネの攻撃は予想以上に強烈であって、初めて目のあたりにしたリビィは浮かれていた。
「さっすがラムネお姉ちゃん!魔神の残骸が残っているのに復活させないなんて!その無敵の力は、まさに最強のヒーローなんだ!」
「昨日とは比べ物にならないほどラムネさんの力が増している気がしますの。まだ13歳ですし、そういう部分も育ち盛りですのね」
「あらあら、ラムネ様ったら。もうすっかり破壊神ですね。まさか大陸まで破壊してしまうなんて」
ラムネはフーラン達とは違い、自分の力を完璧にコントロールできるわけでは無い。
よって天変地異と異常現象を引き起こしたのみならず、平地となっていた大地は原型を留めないほど抉り取られていた。
この結果に苦い思いを抱くのはラムネだけで、彼女は愛馬の背で身を縮ませながら戸惑っていた。
「あ~……やっばいです。わちき、また壊しちゃいました。えーっと、うーん………てへっ、ってね?」




