30.それぞれの夢、わちきの願いは結婚?
彼女ら四人が合流して一息ついた後、ハイピスは自分の経緯についてフーランとリビィに教えた。
その内容はラムネにした説明と全く同じで、いくら信念があっても共感性を得られるものでは無い。
そして、あまりにも自分の心に正直なハイピスを前に、リビィは思い詰めた表情で頭を抱えるのだった。
「またハイピスが性懲りもなく他人様を追いかけ回しているんだ。この前は宗教グッズの押し売りと口寄せ商法に付き合わされて、リビィは散々な目に遭ったんだ」
「ワタクシは精霊とマジックアイテムを使って、ハイピスさんが位の高い女神であるように見せかけましたの。その時は他の神様と力比べになってしまい、かなり骨が折れましたのよ」
この二人のちょっとした思い出話だけで、ハイピスがどれほど問題児として周りを振り回しているのか伝ってくる。
しかも、これらの他にも大きな面倒事を何度も引き起こしているらしく、自分こそがルールという生き様は神に相応しいのかもしれない。
そんな彼女だが、なぜか今は親に甘える幼児の仕草でフーランにべったりと密着しているのだった。
「その時はお手数を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。そしてお米大好き女神との勝負で勝利を収められたのは、間違い無くフーラン先輩のご助力があってこそでした。本当にありがとうございます」
「改めてお礼を必要は無いですのよ。いつもの事ですし、ワタクシ達は家族同然の仲でしょう?」
「家族同然の仲……!?家族……。それは、つまりフーラン先輩は身内で………あぁ、このような私めと一生を添い遂げる覚悟をお持ちでしたなんて、当事者でありながら存じませんでした。ふふっ、あっははは!」
「なぜそうなるのですの?ハイピスさんの事は信頼していますけれど、そのような感情は抱いておりませんのよ」
「あぁ、はっきり言われてしまいました。ですが、頭脳明晰である私は分かっています。これは信仰の熱量を試されているだけ。いつの日か、フーラン先輩と相思相信仰にさせてみせますから」
ついにハイピスは独自の熟語まで使い出し、勝手な妄想を膨らませて喋っていた。
そんな中、フーランは冷静に仕事モードへ移って話を切り替えた。
「それよりもワタクシ達はお宝商品を見つけないといけませんの。これはセブンス店長に頼まれた大事な仕事ですのよ」
大規模な戦闘とハイピスの私情により早くも忘れかけていたが、彼女らはトレジャーハントするために海を越えて遺跡街へ来た。
また物事の優先順位を付けるなら、まずは仕事の方を済ませるべきだろう。
ただお宝に関する手掛かりは未だに得られて無いままであり、改めて考え出したときにラムネは疑問を覚えた。
「あのフーランさん、すみません。本当に今更で申し訳ないですけど、わちき達が探しているお宝……えっと…」
「『ジャックの箱』ですの」
「あぁそうです、『じゃっくの箱』です。それは一体どのようなお宝なのですか?」
「『ジャックの箱』は、どんな物も出せる小さな箱だとセブンス店長から教えられましたの。つまり自分の欲しい物が手に入る理想のプレゼント箱ですのよ」
「欲しい物……。それなら例えば、お姉ちゃんと再会したい、というわちきの願いが叶うわけでは無いのですか?」
「その場合は条件を変えて、自分の姉を発見できる道具、なら出せると思いますのよ。とは言え、無制限に使える箱では無くて、一回でも使ったら100年は単なる空箱になりますの」
要するに、100年に1個だけ理想的なアイテムを作成できる、とも言えるだろう。
そう解釈すると商品として売り出した際の利益は計り知れないが、使い方次第によっては更なる利益を生み出せるはず。
そのことはラムネでも理解できて、再びフーランに問いかけた。
「凄いお宝なんですね!許されるなら、わちきが使いたいくらいです!……でも、セブンスさんは自分で使わずに売っちゃうんですか?商売上手な大魔女さんですから、商売のために自分で使うぞーって、やりそうですけど」
「確かに希少なお宝ですけれど、この世界では変哲も無い効果……だいぶ価値が低い道具ですのよ」
「そうなんですか?」
「道具類の生成なら一介の錬金術師にも出来ますもの。そして神や大悪魔などの高位存在なら、より高度なマジックアイテムをあっという間に作ってしまいますのよ」
「うん、はぁ……?」
ラムネは高位存在と錬金術師も知らないため、途中から話を理解できず首を傾げる。
マジックアイテムの事すら詳しいことは分からないが、とにかく執着するほどの道具では無いらしいという認識で良いのかもしれない。
ただ、同時に別の疑問も覚える。
「価値が低いのにセブンスさんは『じゃっくの箱』に注目したんですね」
「どの種族にもコレクターが居ますもの。そして危険が多い遺跡で苦労の末に入手した、というだけで商品に箔が付きますのよ」
「はぇ~……。入手過程を気にする物好きな人が沢山いるってことですか。ちなみにフーランさんが『じゃっくの箱』を使うなら、どんな道具が欲しいですか?」
「ワタクシは住みやすい惑星が欲しいですの。その惑星でワタクシの理想郷を築きあげるのが夢ですのよ」
前々から抱いてた願望なのか、フーランはスケールが大きい夢を即答で返した。
また夢を語る表情は晴れやかな笑顔であって、彼女は本気で叶えたい目標だと認識しているようだ。
対してラムネは話の規模だけで圧巻され、立派な人は言う事も凄いのだと感心していた。
「フーラン先輩からすれば惑星すら道具みたいなものなんですね……。それにわちきでは考えつかないほど、とっても大きな夢です。えぇっと、それじゃあリビィさんはどんな物が欲しいですか?」
「えー、リビィ?リビィは~、そうだなぁ。女優やヒーローになって活躍するのが目標だし、物が欲しいって気持ちは今のところ無いかな。強いて言うなら、有名人の直筆サイン入りTシャツなんだ」
「分かりやすくて良いですね。それに、確かにリビィさんの場合だと物に頼るって感じでは無いですものね」
「そうなんだ。リビィは実力で周りから褒められたいし、自分が活躍したという実績が欲しいんだ。あとラムネお姉ちゃんや皆と楽しい思い出をいっぱい作りたいんだ!」
リビィも夢を語るときは浮かれた雰囲気であって、未来に期待している前向きさを感じられた。
そして話の流れからしてハイピスの方に同じ質問が投げかけられるはずだったが、彼女の願望については聞かずとも分かるため、先にラムネが言い当てた。
「ハイピスさんは多くの信徒が欲しいという願いを持っていますよね」
「そうですね。正しくは皆が幸福であれ、です」
「皆さんには叶えたい夢があって凄いですね。わちきもお姉ちゃんと幸せに暮らしたい夢がありますけど、それはお姉ちゃんに頼っているだけですし……」
ラムネは成し遂げたい目標が無い事を自覚していた。
比べてフーランたち三人は世界を知っていて、自立した先を目指している。
何よりも、立派な志を掲げる様は頼りになるお姉ちゃんみたいで羨ましい。
そう思うと、ほんの少しだけ自分が情けなく感じられて悲しくなる。
そんなラムネの心境の変化をハイピスは真っ先に察し、女神として悔いの無い生き方を教えた。
「ラムネ様。自分の先を進む者がいるからと言って、焦る思いに押し潰されてはいけませんよ。自分が出来る事は限られ、社会の成り立ちにより選択も限られます。ですから、歩む道を見誤らないためにも、まずは自分が本当に好きな事を見つけるべきなのです」
「自分の……好きなこと」
「はい。そして関連づけた考え方として、姉と幸せに暮らしながら大勢に頼られる存在となる、でも良いのです。他にも着想を得るために小さな目標を設けて、友達を増やしたい、料理が上手になりたい、身長を伸ばしたいでも良いのですよ」
「身長はセブンスさんの方だと思いますけど……。でも、わちき分かりました!とりあえず色々と考えて、みんなみたいに挑戦してみますね!」
「はい、私も微力ながらラムネ様の夢探しに手伝わせて下さいね。それでよろしければ、今度私と一緒に宗教勧誘を……」
まるで自然の流れのように、さりげなくハイピスは自分の私情にラムネを巻き込もうとする。
しかし、それはリビィとフーランが許さず、すぐさま会話に横やりを入れた。
「はいはい。ラムネお姉ちゃん、まずは目先の仕事を片づけるんだ」
「そうですの。将来設計については、家でゆっくりと話し合えるですのよ。それにラムネさんなら運命的な出会いを果たし、結婚して家庭を持つ場合もありますの」
「さすがフーラン先輩、それは名案なんだ。リビィにはラムネお姉ちゃんが必要だから、ラムネお姉ちゃんはリビィと結婚すれば全部解決なんだ」
「ワタクシはそんなつもりでは言ってませんのよ?でも、お互いが愛し合っているのならワタクシは素直に祝福させて頂きますの」
「だってさ、ラムネお姉ちゃん。この仕事が終わったらリビィと結婚するんだ」
「さすがリビィさん、死神なだけありますの。お手本のような死亡フラグの立て方ですのよ」
ハイピスの話を力技で流そうとしているため、二人の間だけで突飛も無い約束話が続けられる。
そうして冗談を真に受けてラムネが慌てふためく中、彼女ら一行は手当たり次第に地下を探索するのだった。




