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3.キュイと鳴けば悪魔帝国が滅ぶけどラムネちゃんは無敵です

「ここはどこなの……?わちき、死ぬの?」


鬼娘ラムネは恐怖のあまり瞳を(うる)ませていた。

なにせ今居る場所が自分には理解不能であって、先ほどの建物とは雰囲気が似ても似つかない。

見るからに不安定な空間で、温度や空気、更に嗅ぎ取れる匂いが不明瞭だ。

ただ建物と同じくガラクタばかりが散乱しており、中には見慣れないものが多くあった。


「さて、まずは順序立てて説明してあげようか」


小さな大魔女セブンスは杖を軽く振るい、ガラクタの山から小綺麗な椅子とオシャレなテーブルを呼び寄せる。

そして再び彼女が杖を振るえば、優雅な振る舞いを見せるようにティーポットが宙を舞っては紅茶をカップへ注ぎ始めた。

幻想的にして魔法的な光景。

そんな中、セブンスは宙に浮かぶカップを手に取りながら椅子へ座る。


「まず貴女は異世界転移という現象に()い、まったく見知らぬ世界へ飛ばされてしまった。要するに、自分の意に反して無理やり旅へ出されたとでも解釈してちょうだい」


「はぁ……?」


「そしてこの世界は非常に危険であり、非常に(ゆた)かなの。何でもあるし、何でも居る。それこそ神々や悪魔が町のカフェで、当たり前に(くつろ)いでいるくらいにね」


そう言いながらセブンスは魔法で世界の日常風景を映し出し、視覚的にも分かるよう(つと)めた。

それでもラムネの反応は、どこか気が抜けている。

ざっくりとした説明という事を抜きにしても、彼女には理解が難しい話みたいだ。

それは彼女の要領得ない返事、そして困りきった眼差しから分かる。


よほど世間知らずだったのか、はたまた文明が未熟な育ちなのか。

しかし、それにしては衣服の刺繍は()っているし、使われている素材も一級品だとセブンスは見抜いていた。

何であれ、今は紅茶で喉の調子を整えながら説明を続ける。


「それで私はお店を(いとな)んでいるの。何でもある世界だから、何でも売っているわ。日用品や専門器具、食料から土地まで。本当に何でもね」


「何でも……。ということは、わちきのお姉ちゃんも売ってますか!?」


「姉が欲しいの?第一声がそれなんて、変わった願望を持っているね」


「ううん、そうじゃなくて……。わちき、お姉ちゃんを探しているの。それで探していたら、いつの間にか知らない場所に来ちゃって……。それであの……、うぅお姉ちゃんに会いたいよぉ……」


ラムネは姉が居ないという喪失感を思い出し、いきなり涙をこぼし始める。

既に我慢しきれないほど寂しくて、彼女にとって姉が精神的支柱なのだろうと初対面のセブンスでも理解できる反応だ。

ここまで全て素直で、純真無垢な存在は珍しい。

だから売買を生業(なりわい)としているセブンスは、ラムネという逸材を心から欲した。


「それなら、やっぱり私の眷属としてお店で働く事をオススメするよ。この店の客層は無限大。更に、時には商品を()りに行く事もある。要するに情報収集に適していて、ラムネちゃんの協力者も見つけられるかもしれない」


「はたらく……。う、うん。人間は苦手だけど……、それでお姉ちゃんが見つかるなら、わちき頑張る!」


「目的のためとは言え、素晴らしい即答。決断力があるのは良い事だよ。それじゃあ、まずは腕試しからね」


「はぇ?腕試し?その、人と話す特訓って事……じゃないの?」


「接客の研修は後でね。私のお店では武力が重要だから。だって、何でも(・・・)売っているんだもの。それなら店員らしく、何事も無く商品を取り扱えるようにならないとね」


セブンスは不敵な笑みを浮かべた後、自身の桃色の髪を一本抜く。

それから彼女が髪の毛に小さく息を吹きかけた瞬間、髪の毛は(きらめ)く粒子となって辺り一帯へ飛び散った。

同時にぼんやりとした影が薄く現れ始める。


その影は、見上げきれないほど大きい。

そして影の色が濃くなってきたとき、その正体がはっきりとする。

だが怪しい現れ方に対して、意外にも可愛らしい姿だった。

全身が桃色で丸く、柔らかそうな見た目。

更には愛嬌ある目をしていて、口もとも愛玩動物を連想させるキュートさだった。

挙句の果てには鳴き声までマスコットみたいで、その点に関しては見た目通りだ。


「きゅぅいキュイ!」


「な、なにこれ……。わちき、こんな可愛らしいの初めて見た……」


謎の生物を前にして、ラムネはちょっとした興奮を覚える。

触りたい、一緒に居たい、遊びたい。

そんな衝動に駆られる中、大魔女セブンスは忠告する。


「見た目に惑わされないよう気を付けてね。元々は悪魔たちの間で大流行したペットなんだけど、この生物が強すぎて、遊び感覚でも耐えられない悪魔が多かったから」


「えっと、例えばどのように?」


「実例をあげると、この生物の魔法一発で悪魔帝国が滅んだくらいかな」


セブンスが平然とした表情で説明した直後、丸い生物は頭上に魔法陣を描く。

ただでも大きい生物なのに、その魔法陣は更に比較できないほど巨大なサイズだ。

また魔法陣の輝き方は尋常では無く、途方も無い魔力が込められていることが無知のラムネでも肌で感じ取れた。


「わっ、わわっ……!」


次に何が起きるのか分からなくて、もはやラムネはまともに言葉を発せなくなる。

その様子は、不意に虫が顔へ飛んで来て驚く子ども同然だ。

それに対して、彼女が目の前にしている脅威は世界終末レベル。

とにかく逃げるなり迎え撃つなり、または止めて欲しいと懇願する行動が必要だろう。

だが、その状況判断が見受けられないため、セブンスはいつでも杖を振るえるよう備えた。


「あー、さすがに手助けが必要かな。あの子、うっかりしている雰囲気だし」


そう彼女が呟いた瞬間、天に描かれた巨大な魔法陣から巨大隕石が顔を出す。


「キュイ!きゅういきゅい!きゅう~!!」


丸い生物は声をあげながら、燃え上がる巨大隕石を落とした。

しかも隕石の大きさは、またもや更に想像を上回るもの。

明らかに魔法陣より大きく、山というより惑星一つが迫ってきているような光景だ。

しかし、それでもラムネは冷静に見据えていた。


「大丈夫、ロゼラムお姉ちゃんに言われた通りにすれば大丈夫……。腰を落とす。利き腕の拳を引く。(ひじ)を安定させて、対象との角度を合わせる。(ひざ)は柔らかく、すぐ踏み出せるように脚には余力を残す」


ラムネが身構えながら一言(はっ)する度に、(こん)色のオーラが(あふ)れ出して彼女の拳へ集約される。

それは神に匹敵するどころか、超越者(ちょうえつしゃ)特有の絶対的なオーラ。

全ての道理を無視して、あらゆる(ことわり)を破壊する究極の力だ。


「大事なのは心意気。そして最後は、余計な事を考えない!」


ラムネが大声をあげながら拳を振り抜く。

その時、セブンスは確かに目撃した。

彼女の頭に二本目の角がオーラで形成されていて、鬼神に相応しい威圧感を放っていたこと。

同時に大魔女は知る。

鬼娘ラムネは無敵なのだと。


「きゅい!?」


「やばっ!?」


今しがた声をあげたのは、丸い生物とセブンスの方だ。

両者ともに身を守る大魔法を発現させたが、ラムネの力の前では無意味だった。

彼女の拳は直撃しなくても魔法だけを跡形も無く消し飛ばしており、この不思議空間の全域を(ゆが)ませた。


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