23.成長期ほど寝る子は育つと言います!
それから翌朝のこと。
リビィとラムネ、そしてフーランの三人は一緒に家を出てスーパーマーケットへ向かった。
しかし、昨晩の騒ぎがあったせいでラムネは少し眠そうにしており、バビブベボ1号に乗馬しながら欠伸を朝の空気へ漏らす。
「ふぅわあ~……」
「あらま、こんな素晴らしい朝日を浴びながら欠伸するなんて。うまく寝付けませんでしたの?」
「いえいえ、フーランさんのおかげ様でとっても快適に眠れましたよ。全部が気持ち良くて、ぐっすりでした。でも、わちきって……普段は12時間くらいは寝ていますから、少し物足りないなぁと」
「へぇ、寝る子は育つと言うだけありますのね。それに比べてリビィさんは夜ふかしが大好きですから、ラムネさんの長時間睡眠を見習うべきですの」
睡眠の話題になると、フーランはそれとなくリビィに話を振った。
すると死神少女はスマートフォンを熱心に操作しながらも、軽く反論した。
「リビィは大好きなコンテンツのために時間を費やす義務があるんだ。今もソシャゲやサイト巡回、それと告知チェックやファンアート閲覧に忙しいんだ」
「それで生活のリズムが崩れている以上、単なるネット依存症ですの」
「お給料でサブスクもしているからには、その分だけ楽しみたい気持ちがあるだけなんだ。あと芸人たちのショート動画チェックも欠かせないんだ」
リビィは多くの娯楽コンテンツに対して強い関心を持っているため、ネットも存分に活用している。
ただしラムネからすれば、ネットという単語自体が初耳だ。
そのため彼女らの会話内容を理解できず、思ったことを口に出すしか無かった。
「リビィさん達って物知りなんですね。わちきが知らない言葉をいっぱい使ってます」
「んー、もしかしてラムネお姉ちゃん。ネットに疎い感じなんだ?」
「わちき、ねっと……とか、そういうの全く知らないです。聞くのも初めてで、どんなものなのか想像できないくらいですね」
「それじゃあ、あとでラムネお姉ちゃんにリビィのオススメを教えてあげるんだ。きっと気に入るよ。そして、いつの日か配信やクリエイター活動するのも悪く無いんだ!」
「はぇ~?くりえいたー活動……って、栗焼いた活動ですか?」
リビィは趣味に関する事なので意気揚々と話してくれるが、やはりラムネは話題についていけず、的外れな反応で返してしまう。
だが、インターネット活動はともかく、デジタルネットワークを通して姉を探すことは効率的な手段になるだろう。
今はまだ目先の事で精一杯なので、その発想に至る余裕が無い。
また、リビィも自分の好きな事ばかり喋っており、そこから話題を広げて語り出した。
「ネットには色々なモノがあって楽しいんだ。ちなみにリビィは109歳だから、色々な年齢制限に引っ掛からずに済んでラクチンなんだ!」
「えっ……、リビィさんって109歳だったんですか?わちきよりずっと年上だったんですね。すっかり年下を可愛がる感覚でした」
「そうなんだ?でも、まぁリビィは死神だから、実際のところ生物の年齢とは全く別物なんだ。つまり年齢なんて気にせず、これまで通りに接してくれていいんだ」
「だとしても、かなり年上ですよ。だって、今のわちきはリビィさんのお姉ちゃんなのに、まだ13歳ですもん」
「はいっ?じゅう……さん?」
ラムネの年齢を聞いてリビィは素っ頓狂な声を発し、呆けた顔を見せる。
それはフーランも同じようなもので、彼女はラムネの体格を見ながら言った。
「ラムネさんって、そんなに幼かったのですの。その、種族的には普通の成長速度なのかもしれませんけれど……、リビィさんと比べると発育が随分と進んでいますのよ」
「えっと、わちきの身長は1年前から急に伸びました。多分、頭一つ分くらい伸びたはずです。お姉ちゃん曰く、育ち盛りらしいです!」
「きっと身長以外も育ち盛りですの。それなら、12時間も寝ているだけありますのよ」
フーランは軽い驚きを覚えたものの、ラムネと同じく何気ない会話のつもりだった。
しかしリビィは相当ショックを受けたらしく、いきなり踵を返して方向転換する。
そのまま何も言わず道を戻ろうとするものだから、ラムネは慌てて声をかけた。
「あれ、リビィさん忘れ物ですか?それとも落とし物?」
「リビィは今から寝てくるのだ」
「えっ、そんなに寝不足だったのですか?」
「そう、これは寝不足なんだ。リビィが小さいままの原因も、全ては寝不足のせいなんだ。今思い返すと、お風呂で見たラムネお姉ちゃんの裸が忘れられない。もう連続的にフラッシュバックが起きて仕方ないんだ」
「よく分かりませんけど、なんだか凄いことを言ってませんか?」
「とにかく今から1年間は爆睡して、リビィは大きくなってみせるんだ!」
リビィは血迷っているとしか思えない世迷言を真顔で口走ってしまう。
まるで覚悟を決めた英雄の顔つきだが、実際はあまりにも情けない決心だ。
対してフーランだけは冷静なもので、ふと思いついたことを呟いた。
「でも、今のラムネさんは成長期ですのよ。そうであれば、1年も経った頃にはリビィさんと更に格差が広がっていそうですの」
「うっ……うわぁあああぁああああ!ラムネお姉ちゃんのイジワル!リビィ、今まで気にしたこと一度も無かったのに!なんで!?なんでそんなイジワルをするの!?リビィに身長を分けてよ!40cmくらい!」
「かつてないほど理不尽な八つ当たりを前に、ラムネさんも固まっていますの。それより早く行かないとセブンス店長から叱責を受けますのよ」
「でも、リビィには寝ないといけない使命があるから!そのため有給を頂くんだ!それがダメならニートになることもリビィは辞さないんだ!」
あまりの乱心っぷりに、リビィは立て続けにヤケクソな事を言い出す。
それは自暴自棄と変わりないもので、彼女のことを可哀そうだと思ったラムネは愛馬から飛び降りる。
そして抱き締めるのかと思いきや、なぜかリビィを肩車するのだった。
「リビィさん、大丈夫です!そんなに身長や体格に拘る必要なんてありませんよ!わちきは、色んなことを教えてくれるリビィさんが大好きです!それにセブンスさんのことを思い出して下さい!」
「うぅ、どうして店長のことを……?」
「セブンスさんは、多分リビィさんより年上のおばさんですよ!それなのにリビィさんと変わらない身長じゃないですか!つまり、リビィさんより年上で更に小さい人も居るというわけです!」
浅はかな考えと勢いだけで説得しようとしているため、ラムネの発言内容が滅茶苦茶だ。
しかも他にも同じような人が居るというだけの話で、リビィ自身が問題だと捉えている身長格差が解決されるわけでは無い。
だが、この情熱に押されたのだろう。
肝心のリビィは彼女の説得を真に受けて、あっさりと思い直し始めていた。




