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21.お風呂を満喫していたら死神が湧き出ました

ラムネはフーランの家へ泊まることになったものの、今回はお世話になるだけで遊びに来たわけでは無い。

そして二人とも明日は仕事があるため、休息に専念する必要があった。

つまり羽目(はめ)を外す時間は皆無だと言いきれる。

それでもフーランは精一杯に持て成してくれて、夕食時には美味しい手料理を振る舞ってくれた。

また、その後は入浴を促されて、今ラムネは木造の浴場で疲れと汚れを落としている真っ最中だ。


「ふぃ~……」


浴槽の湯に(ひた)り、彼女は極楽気分を堪能(たんのう)する。

浴場は樹木の中とは思えないほど室内環境が整っており、まるで平原に居るような清々しさを満喫できた。

しかも湯気に満ちた空間だというのに、呼吸する度に新鮮な酸素が全身を駆け巡って浄化されている感覚があった。

そのおかげで気分は良くなる一方で、つい長湯したくなってしまう。


「これも世界樹の力ですかね~。こんなお風呂は初めてですし、あまりにも最高のリラックス体験すぎませんか~。灯りも、太陽に照らされているような暖かさがありますし~」


理想的な雰囲気に当てられて、ラムネは大きな溜め息を吐きながら脱力する。

当然、これほど心地良いからには相応の工夫などが必要なのだが、実はフーランの家に電気は通ってない。

その代わり世界樹の霊力と魔力、その他にも多種多様の力が循環している。

それら特殊な力がエネルギー源と機能面の両方を担い、魔法の(ごと)き快適な日常生活を実現させていた。


そして結果だけ言えば、生活環境は常に最高の状態が維持され、まったく不便もしないので理想郷そのものだ。

唯一の問題は外界とのアクセスが悪い事だったらしいが、それについてはセブンス店長が解消してくれたと、フーランが夕食時の話題として教えてくれた。


「ふぅ~……。今日だけで色々とあったなぁ。わちきには分からない事や予想外のことばかりで大変だったけど、それ以上に楽しいことがいっぱい。あと、親切な人が多くて……嬉しかったなぁ」


ラムネにとって頼れる存在は義姉(ぎし)だけで、その姉に匹敵するほど素晴らしい人なんて他に存在しないと思い込んでいた。

しかし異世界とは言え、他に仲良くなれる人が居るのだと知れたのは大きな希望が持てた。

一緒に頑張ってくれる人がいれば自信が付き、勇気も湧く。

そんな前向きな気持ちがあれば不安に押し潰されず、失敗ばかりでも挫けない活力が身に宿る。

そう思うと、出会ったみんなに感謝したい気持ちが溢れた。


「ふふっ、わちきって幸せ者。わちきのために手を尽くしてくれるセブンスさんに、面倒見と気遣いが上手なフーランさん。あとわちきを(した)ってくれるリビィさん」


ラムネは今日の出来事を振り返り、一人一人の名前と印象を呟く。

それだけのはずだったのに、なぜか湯の中からリビィが顔を出してくるのだった。


「あれ、ラムネお姉ちゃん?リビィのこと呼んだのだ?」


「ふぇっ?はぅ……ひえぇえええぇええぇぇぇ!!?」


幽霊でもありえない登場の仕方に、ラムネは心底びっくりして大声をあげた。

思わず飛び跳ねて浴槽から立ち上がり、その勢いで足を滑らせて転びそうになるほどだ。

一方でリビィは入浴に相応しい裸体の状態であって、前々から潜んでいたとばかりに平然と喋り出した。


「もう驚きすぎなんだ。仲良し姉妹なら、一緒にお風呂へ入るのは普通なんだ」


「し、しししし姉妹でも!いきなり湯の下から登場することは無いですって!いつから……じゃなくて、どうやって来たのですか!?絶対にさっきまで居ませんでしたよね!?」


「あれ、フーラン先輩から聞いてないの?リビィはフーラン先輩と一緒に住んでいるんだ。それでリビィは物体を擦り抜けられるから、部屋で服を脱ぎ捨てて、そして直行したんだ」


「えぇ……、ツッコミどころが多過ぎませんか?」


周囲に迷惑をかけない内は、どのような生活スタイルで過ごしても咎められることは無いだろう。

そのことを踏まえても、リビィの生活スタイルは自由奔放(ほんぽう)の度合いが過ぎている。

ただし、当の本人はお構い無しにアヒルのおもちゃを取り出して浴槽で遊び始めるので、とりあえずラムネは思ったことを口にした。


「そもそもリビィさんも住んでいるって大事なこと、フーランさんは一言も教えてくれませんでしたよ。それにお夕飯時(ゆうはんじ)には居ませんでしたよね?」


「リビィは偏食で、好きな物を好きな時間に食べるんだ。それに今日はグッズ整理と、欠かさず見ている番組があるから部屋で引き籠っていたんだよ。だから、この家で会うことは珍しい事かもしれないんだ」


これだけ聞くと、まさしく家に()みついて出没する幽霊と同じだ。

わざわざ湯の下から出て来た意味は分からないが、きっと彼女は普段から、こんな入浴方法を取っているのかもしれない。

何よりもリビィは笑顔で湯を楽しんでいるため、ラムネを驚かすつもりは無かったことは察せた。


「リビィさんが自由気ままに生活している事は分かりました。だけど、今みたいにわちきが驚く現れ方はやめませんか?特に足元から湧き出てくるなんて、心臓がドキドキしますから」


「うん、ごめんね。ラムネお姉ちゃんがそう言うなら、次からは気を付けるんだ。それでさ、ラムネお姉ちゃん」


「はい?」


「ラムネお姉ちゃんの角、リビィが洗ってもいい?」

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