表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/75

1.鬼娘が異世界転移します

とある少女はオシャレな衣服で身を着飾っているのにも関わらず、赤い草木が生い(しげ)った険しい山道を駆けていた。

少女の青い目には涙がうっすらと溜まっており、息を切らしながらも必死に誰かを探している最中のようだ。

何度も相手を呼んでは、懸命に辺りを見渡している。


「どこなの、お姉ちゃん!わちき(・・・)を置いて、どこへ行っちゃったの!?」


こんな人気(ひとけ)が無い大自然で少女が探しているのは、大好きな姉。

だから自身の長い銀髪が乱れ、紺色(こんいろ)のメッシュが(いびつ)()ねても気にする余裕は無い。

もちろん、お気に入りの服に(どろ)が付着しても手で払う真似はしなかった。

なぜなら今は姉を見つけることが最優先で、とにかく会いたい一心だ。

そんなとき、少女は不意に頭を触られたような感触を覚えて、つい驚きの声をあげる。


「ひゃっ!?あっ……、角に枝が当たっただけ……」


少女は、自分の頭に一本だけ生えている角に触れる。

枝が当たった程度で傷つくことはない。

体のみならず、角も丈夫だから。

しかし心の方は時間が経つ(ごと)に深く傷ついてしまっており、ふと少女は姉に角を撫でられた時のことを思い出した。


「うぅ~……、お姉ちゃん。ずっと、わちきと一緒に居るって約束してくれたのに。どうして……?なんで何も言わないで家から居なくなったの?わちき悲しいよ、寂しいよ。今すぐ会いたいよ……」


少女は不安を吐き出すために虚空へ向かって感情を吐露したのだが、むしろそれが不安を増長させてしまっていた。

今しがた声に出した言葉のせいで、姉は本当に自分を置いていったのだとしか考えられなくなってしまう。

できるものなら、これが夢だと思い込みたいくらい。


だが現実は残酷であって、どれほど目を()らしても幸運は訪れてくれない。

そのまま不安は(つの)る一方で、彼女の想いは次第に(むしば)まれる。

自力で不安を振り払えないから希望は(かげ)り、元より少ない気力は奪われていくのみ。

そうなれば少女の心は恐怖に支配されたも同然で、もはや心身ともに疲弊(ひへい)するだけだ。


気が付けば、姉を探すために動かしていた足を止めてしまっていた。

頑張って探しているつもりなのに、どうしても会いたいのに動く気になれない。

彼女にとっては姉こそが全てだから、こうして一人ぼっちになった時は何もできずに諦めてしまう。


「ロゼラムお姉ちゃん……」


少女は姉の名前を呼びかけた直後、なぜか視界が一気に暗くなる。

しかも、野生動物くらいしか足を踏み入れないであろう山中で眠くなってきた。

このタイミングで眠ったら、それこそ姉探しを諦めたようなもの。

それでは駄目だと自覚しているのに、どうしても眠気に(あらが)えない。

やがて鬼娘の少女は布団へ眠るようにゆっくりと地面へ倒れ、暗闇に呑み込まれてしまうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ