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家出令嬢、犬耳奴隷を買う。


カツ、カツ、荒れ果てた街の中で、革靴を鳴らしながら歩く一人の少女がいた。

名はガーラ。

とある事情で絶賛家出中であり、あまり外を出歩かない方が良いのだが、ガーラにはそれでも外に出掛けなければならない理由があった。


―それは、ガーラの仲間を作るためである。


ガーラは公爵家生まれの立派な令嬢。

勿論ガーラ専属の召使いは両手では数えきれない程沢山いた。

しかし、家出したからには、自分一人で何とかしていかなければならない事が山ほどあるはず。

なのに、自分自身で何かをする、という事が生まれた時からなかったガーラにとって、庶民の常識という物がまるで分からないのであった。

家出生活を送ってから1ヶ月、手持ちの金も底が見え始め、庶民の生活も少し慣れてきたガーラは、共に働き、そして常識を教えてもらえるような仲間を手に入れようと考えたのである。


―そうして向かった先は、奴隷市場。


いやそこは友達作るんじゃないかい。

普通の人ならそう思うかもしれないが、ガーラは生粋の令嬢。友達の作り方が全く分からないのである。

なら、買えばいいじゃない。ガーラはそう思ったのだ。

大きめのフード付きローブが、歩く度にヒラヒラと動く。



「・・・ここが、奴隷市場?」



地図と街の人の教えを頼りに着いた先は、ガーラが想像していたものより、随分と綺麗な外見をした建物だった。

レンガ造りに木製の扉が取り付けられているが、他の建物に比べて一つも窓が無い。



(奴隷市場って、もっと汚らしくて悪臭が酷い場所だと思っていたのだけれど・・・こういうものなのかしら?)


「とにかく、入らなきゃ始まらないわ。」



ガーラはゴクリと生唾を飲み込んだ後、扉の前に立ちノックを三回行った。その数秒後かに、ガチャりと扉が開く。

扉の先に居たのは、奴隷市場の店主らしき人だった。人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、ガーラへ「いらっしゃいませ。」と挨拶をする。

ガーラは、このような笑みを知っていた。優しい笑みの裏腹では、人を値踏みしているような顔。

幼い頃から腐る程見てきた顔に、自然とガーラは嫌悪感を抱き、眉間に皺を寄せていた。



「どうぞ、中にいらしてくださいませ。」


「・・・えぇ。」



店主が背を向け、店の奥へと歩み出したのを確認したガーラは、自分以外の客が居ないか、と警戒しながら店長の後を着いていく。

店内は、外見通り綺麗サッパリとしており、果物や本など、まるで奴隷市場とは程遠い物まで売られていた。

中には豪邸で置かれるような高級なソファまでもある。

これには世間知らずのガーラでも、店内の違和感を感じ取った。



(・・・何かおかしいわ。)


「ねぇ、少し確認したいことがあるのだけれど。」


「はい?なんでございましょうか。」


「・・・ここって、奴隷市場、という事でいいわよね?」


「えぇ、仰る通りでございますよ。」



ガーラはそれでもなお心に残る違和感を不思議に思ったが、ひとまず気のせいだという事にしておいた。

しばらく歩けば、店の最奥まで辿り着いたらしく、店主の前には怪しげな扉があった。

扉からは、何かの呻き声や啜り泣く声が薄らと聞こえ、ここが本当に()()()()場所だということを、はっきりと表していた。

店主は何食わぬ顔で懐から鍵束を取り出し、その中から一際大きい鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。

ガチャ、ギィ・・・蝶番が軋む音が鳴った先に広がったのは、悪臭と沢山の檻。

檻一つ一つの中には奴隷が入れられ、皆傷だらけで痩せ細っている。酷すぎる悪環境に、ガーラは絶句した。

そんなガーラの姿を見た奴隷達が、一斉に檻から手を伸ばして「買ってください!お願いします!」と泣き叫ぶ。



「さ、どの奴隷に致しましょう?」



その中でも先程と変わらない笑みを浮かべ、問うてくる店主に、ガーラは心の中で狂っている、と呟いた。

しかし、この世界には奴隷市場よりも、更に醜いものが沢山あるのだ。こんなもの、序ノ口に過ぎない。

そう自分に言い聞かせたガーラは、哀れな奴隷達と目を合わせないよう、店主を真っ直ぐ見ながら言った。



「この店で、一番安い奴隷を買うわ。」



そう言った途端、店主の顔色が一気に青ざめた。

きっと、この店で一番安い奴隷なんて、使い物にならないか危険すぎて扱いきれないかのどちらかだろう。

そして店主の顔色を見るに、それは後者の方だと推測できる。

店主はしどろもどろになりながら、ガーラへ聞いた。



「ほ、本当ですか!?一番安いとなると・・・犬耳奴隷になりますが・・・。」


「あら、丁度いいじゃない。私、ペットが欲しかったのよね。」


「しかし、アイツは他の奴隷に比べ、気性が荒く・・・今まで何名かのお客様が買われましたが、半月も経たずに返され・・・。」


「何、私が犬如きを扱いきれないとでも言いたいの?」


「い、いえ!とんでもない!」


「じゃあ早くその奴隷を持ってきて頂戴。」


「かっ・・・かしこまりました。」



店主はガーラの圧に負けたのか、いそいそと店の更に奥へと案内した。段々薄暗くなっていく店の奥には、他の奴隷と比べ、二倍以上は大きい檻があった。

檻の中で光る紅色の瞳が二つ、まさに野生の獣のような容貌の奴隷が横たわっていた。

近寄ってきた私達を警戒しているのか、喉を低く唸らせている。店主はその奴隷が恐ろしいらしく、ヒィ!と情けない声をあげた。

ガーラもその奴隷を見て恐ろしくない訳では無かったが、身内の方がよっぽど怖いと知っていたため、唸られた所で店主のように怯えたりなどはしない。



「うん、元気そうでいいじゃない。気に入った、買うわ。」


「え!?ほ、本気ですか!?」


「勿論よ、何テインかしら?」


「せ、100000テインです。」


「はい、どうぞ。じゃあ檻の鍵をくださる?」


「お客様・・・!今檻から出すのは危険です!せめて眠ってからじゃないと・・・。」


「だーかーら!大丈夫だって言ってるでしょうが!」



ガーラはそれでも不安そうにしている店主の顔を見て、溜息を吐いた。

何故こんなにも自信があるのか。それはガーラ自身の魔力が強いからである。

生まれつきガーラは魔力が多く、それ故に扱う魔法が高度な物ばかりだ。その凄さは一級魔術師が扱う魔法を、ガーラはなんと六歳の時に習得している。

そのため、並大抵の獣は魔法で眠らせたり拘束したりする事が出来るのだ。

ガーラは檻の中で睨む奴隷をジッと見据えて、右手に意識を集中させる。じんわりと暖かくなってきた頃合いで、溜めた魔力を一気に人差し指へと流し込み、奴隷へ向けた。



「グルルルル・・・ガウ!ガウガウ!」


「『拘束しろ。』」



ガーラがそう唱えた瞬間、ガーラの指先に紫色の光が宿り、一筋の光線が奴隷を捕らえた。

奴隷は一瞬何をされたのか考えていたが、すぐに拘束されたのだと気付き、ガーラに再び威嚇する。

しかし、ガーラは動じず、クルクルと人差し指を回して奴隷の身体を紫色に光る縄でグルグル巻にしていった。



「・・・よし、こんなもんかな。」


「ガウ!!」



ガーラはフルフルと右手を払い、余った魔力を放出しながら言った。

店主はすぐに身動きが取れなくなった奴隷の姿を見て、呆気に取られている。

それもそのはず、拘束魔法は基本二、三本の縄にしておかないと一本一本の強度が落ち、すぐに解けてしまうものなのだ。なのにガーラは優に十本は超える縄を出していながら、危険な犬耳奴隷が暴れても解ける兆しが見えない。



「これで分かったかしら?だから、早くその鍵を渡して頂戴。」


「は、はい・・・。」



店主はこの少女は何者なんだ・・・と思いつつ、ガーラへ檻の鍵を渡した。

他の檻よりかは頑丈に作られているのか、檻の鍵も他のと比べて大きい。ガーラは鍵を扉へ差し込み、ガチャりと回して開ける。



「さ、おいで。」



クイッと人差し指をガーラの方へ曲げると、拘束された奴隷は人差し指に引き寄せられるように檻の外から出された。

犬耳奴隷は変わらず吠えまくっているが、ガーラは少しも気にする素振りを見せない。

そうして、ガーラは目的を達成した喜びで鼻歌を歌いながら、隠れ家へと向かった。


バタン、ガーラが店から出て行ったのを確認した店主は、急いで髪とペンを引き出しから取り出す。



「やっぱり、アイツが()()()()()の家出令嬢か・・・!早く連絡しないと。」


「ふぅん、やっぱり繋がってたみたいね。」


「っ!?お前、何で」


「『眠れ。』」




―かのように思われた。

ガーラが唱えた瞬間、店主は白目を向いて意識を失う。

やはりガーラの読みは当たっていたようだ。きっとこの奴隷市場は、貴族がよく通う場所なのだろう。

奴隷を買う際に貴族が店の中で休憩したり、何か本を買ったりするため、貴族様専用の高級ソファが置いてあったのだ。

まさかこんなに離れている街にも繋がっている所があっただなんて、ガーラは自分の家の権力に思わず肩を竦めた。



「さ、記憶を消して・・・よし。あ、残った魔力も吸収しとかなきゃ。」



魔法を使った後は、その場に魔力が溜まっていたりする。そのため、その場にある魔力を見れば、誰がいつ魔法を使ったか、また何処へ向かったか、という事もわかってしまうのだ。

ガーラは懐から魔力を吸収する特別な黒い石を取り出し、店全体の魔力を、石の中へと集中させた。



「これでやっと、お家に帰れるわね。」



店の裏にあった木で縛り付けておいた奴隷を連れて、今度こそ隠れ家へと向かったのだった。




ーーー




「さ、ここが今日から貴方にとっての家よ!よろしくね!」


「ガウゥゥゥウ!!!」


(わぉ、めっちゃ威嚇されてる。)



ガーラは、仲良くなれるコツとして、街の人から教えて貰った『愛想良くする』という事をやってみたが、どうやら効果は今ひとつのようだ。

檻の中にいた時と全く同じように牙を剥き出して吠えている。



(全く、こんな事ならお金をケチらずにもっと頼りになるお友達にしとけば良かったわ。周りの人達からは変な目で見られるしコミュニケーションもとれないし・・・あんまり目立ちたくなかったのだけれど。)


「ガウ!!ガウガウ!!!」


「あーもう!そんなに吠えてたら、ご近所迷惑になっちゃうでしょう!?」


(面倒くさい・・・犬の躾を教えてもらえば良かったですわ。こうなったら・・・魔法で声を・・・。)



ガーラは右手に魔力を込めかけたが、ふと相手は今まで何度も買い戻されていることを思い出した。

このまま相手へ更に魔法を使ってしまえば、余計私との関係が悪くなってしまうかもしれない。

・・・それに、これだけ警戒するのも無理はない。今までこの奴隷を買った相手に、かなり酷い扱われ方をされたのだろう。

身体中傷だらけだし、着ている服も土で汚れ、ボロボロになっている。

それなら、今はなるべく魔法は使わず、飼い主としてこの()()()が人を怖がらなくなるまで色々教えてあげるべきだ。ガーラはそう思った。



「そういえば、貴方の名前を決めてなかったわね・・・どうしようかしら。」


「ガウ!!!ギャウ!!!!」


「うーん、ガウガウ!いや、わんこ!うぅ、どれも違うな・・・あ、なら『シアン』!貴方は今日からシアンよ!」


「グルルルル・・・。」


「じゃあシアン、まずシャワーを浴びましょうか。」


「ガウ!!!」


「嫌じゃなーい!ほら、こっち来て!!」


「ガルルルルル!!!!」



服を脱がすまでのごたごたはあったが、何とかシアンを風呂場へ連れて行く事が出来た。

風呂場に置いてあった浴用椅子にシアンを座らせ、泡立てた石鹸で耳を傷付けないようわしゃわしゃと洗っていく。



「ギャウ!!!ガウウ!!!」


「こーら!暴れないの。洗いにくいでしょうが!」



シアンの耳は犬というより、オオカミのような耳をしていて、ガーラが耳の近くを洗う度に、ピクピクと耳が動いている。

洗われている本人は、何とも言えない顔をしているが。



「ちょっと耳触るよー。」


「ギュッ!?ガ、グッ、」


「少しの間だけだから・・・はい、終わり。次は身体ね。」



シアンの身体の方はかなり垢が出そうな為、ガーラはもう一度石鹸を泡立ててから洗うことにする。

まず背中からいこう、と思ったが、シアンの背中には引っ掻き傷やムチで打たれたような蚯蚓脹れが沢山あった。

それがシアンの過去の過酷さを物語っているようで、思わずガーラは手を止まる。

しかし、このまま洗わない訳には行かないのだ。心の中で、染みるけどゴメン!と謝ったガーラは、えいっと背中に手を当てた。



「ッ!!」


「痛いだろうから、すぐに終わらせるわね!あっ、コラ!噛もうとしないの!あっまた、もう!!すぐに終わるって言ってるでしょうがー!!」





(な、何とか終わったわ・・・。)



ゼエゼエと肩で息をしながら、ガーラは額を流れる汗を拭った。身体の垢は沢山出るわ、シアンには噛まれまくるわ、水飛沫は飛んでくるわでもう滅茶苦茶だった。

シアンは素っ裸のまま、部屋の隅っこで未だガーラを威嚇している。



「もう、シアン。風邪引くよ。」


「ガウ!!!」


「はぁ・・・じゃあ、せめてこのローブを着てなさい。」



ガーラは近付かせようとしないシアンの元へ、魔法でローブを浮かせて上から被せた。

シアンはフードの中から、鋭い眼光でガーラを睨む。



(洗ってあげたと言うのに、礼の一つもないのね。)


「爪も切らなきゃいけないし・・・傷も治してあげなきゃいけないけれど・・・この調子じゃ、それも無理そうね。ひとまずご飯にしましょうか。」



ガーラは立ち上がり、シアン用にお粥を作る事にした。

最近、お粥ぐらいは作れるレベルにまで料理技術が上達したので、人が食べても問題ない・・・はずだ!

生まれてこの方まともに包丁を握った事がなかったガーラが、1ヶ月でここまで成長したのは大きな一歩だとガーラは思っている。



(えぇっと・・・たしかお粥は・・・こういう感じに作ってたような・・・?)



ガーラが一つ一つの動作を確認しながらお粥を作る様子を、シアンはただジッと見つめていた。

シアンにとって、誰かが調理場に立って料理を作っている姿を見たのは初めてだった。

今まで犬皿に入れられた、生ゴミと変わらない残飯を食わされてきたシアン。料理する、という行動を初めて見て、内心ワクワクしていたのだ。

しかし、相手は憎き人間。自分をボロ雑巾のように扱い、痛めつけてきた存在。どうせ、料理の中に毒でも入れて、自分を苦しませたいんだろう。シアンはそう考えていた。



「・・・よし!何とかできた!はい、シアン。」



コトッ、シアンの目の前に湯気が立ち上るお粥が入った木製の器が置かれた。

ガーラはシアンがスプーンの持ち方を知らないだろうと気遣い、食べさせてあげようとしているのだ。

ガーラは手に持っていたスプーンでお粥を掬い、床を汚さないようにもう片方の手の平の上でスプーン上のお粥をふぅふぅと冷ます。



「・・・口の中、火傷しないようにね。あーん・・・。」



湯気が出なくなったお粥をシアンへ差し出したが、シアンはプイッと顔を逸らしてしまった。

シアンの態度にむ、とガーラは頬を膨らませたが、すぐにもしかして、と思い直す。



(もしかして・・・この中に毒が入ってると思ってる?)


「それなら・・・。」



ガーラはシアンの目の前で、差し出したスプーンを今度は自分の口の中へと入れた。

もぐもぐ、と何回か咀嚼し飲み込んだ後、ちゃんと食べた事をアピールするように口を軽く開ける。



「あ、・・・毒は入ってないよ。食べても何にもならないから。」


「グルル・・・。」


「味も・・・一応?いいから、安心して食べて欲しい・・・かな?」



アハハ、と軽く笑ったガーラの顔を、シアンはジッと黙って見つめていた。

ガーラはその様子を見て大丈夫だと判断し、もう一度お粥を掬って冷ました後、シアンへ向ける。



「はい、あーん。」


「・・・。」



シアンは差し出されたお粥に、まず恐る恐る近付き匂いを嗅いだ。くんくん、と嗅ぐ度に耳がピコピコ動いている。



(・・・ちょっと、これは可愛いかもしれない。)


「・・・ガ、」



匂いを嗅いで大丈夫だと思ったのか、シアンは眉間に皺を寄せながら口を開けた。

ガーラは思わずおぉ!と感動で目を輝かせた。

シアンは、ほんの少しだけガーラに心を許したのだ。ほんの少しだけでも、ガーラにとってそれはとても大きな、シアンの成長なのである。

ガーラは驚かせないように、ゆっくりスプーンをシアンの口の中へ運んだ。



「・・・はい、口閉じて。あ、コラ、スプーンは噛まないの!離して・・・そう。」



シアンは未だ眉間に皺を寄せて、お粥をもぐ、もぐ、とゆっくり咀嚼した。

ガーラは黙ってその様子を見守る。やがて、シアンの喉仏が上下に動いた事を確認した後、ガーラは顔色を伺いながら聞いた。



「ど、どう?変な味しない・・・?」



シアンはガーラの問いには答えず、ただ黙ったまま俯く。



(そ、そんなに美味しくなかったのかな!?私は普通に美味しいと思ったのだけれど・・・犬の味覚は違うのかしら。)



どうしようと慌てるガーラだったが、ふと、ポタッと水滴が落ちる音が鳴る。

雨漏りか?と天井を見回してみたが、そもそも雨は降っていない事に気付く。

じゃあ・・・?ガーラはゆっくりとシアンの方を見てみると、シアンの目から大量の涙が溢れ出ていたのだ。



「え、え!?泣いてる!?え、あぁっと・・・ちょっと触るね。」



ガーラは膝立ちになってそっとシアンの両頬に触れ、目から零れ落ちている大粒の涙を親指で優しく拭った。

先程までなら、ガーラが近付く事さえ許さなかったのに、今はガーラに触れられていても何も言わない。



(どうしよう・・・慰め方が分からないわ・・・と、とにかく優しく接してあげることが大事、よね?)


「えっと・・・シアンがどうして泣いているのか分からないけれど、少なくとも、私は今まで貴方を買った方達とは違うわ。嬉しい時は一緒に喜んであげるし、悲しい時は・・・こうして涙を拭ってあげるし・・・無理に人を好きになれ、とは言わない。けれど・・・今は、私を、頼って・・・欲しい・・・デス。」



ガーラはそう言った後、体育座りで震えるシアンの身体を優しく抱き締めた。かつて、乳母がガーラにやっていたように、トントンと背中を叩く。



「大丈夫・・・怖くないよ。今まで、よく頑張って生きたね。もう大丈夫だよ。」



シアンは母のような優しい声音で話すガーラの腕を掴み、胡座をかいてグイッと自分の足の間へと引き寄せた。

ガーラはシアンに引き寄せられるがまま、シアンの胸に思いっきり額をぶつける。



「いてっ。」



思わず呟いたガーラの言葉を無視して、今度はシアンがギュッとガーラを抱き締めた。

突然の事に戸惑うガーラに対して、シアンはスンスンと鼻を啜りながら、ガーラの頭に頬を寄せる。



「・・・シアン。」



ガーラが上を向こうとしたので、シアンは頭から一旦離れる。ガーラの青い瞳の中に、涙でキラキラと輝くシアンの瞳が映る。

それはまるで、ガーラが一番好きな宝石であるガーネットのようで、ガーラは心の底から綺麗だと思った。


ガーラにとって、人の泣き顔を見て、綺麗だと思ったのは初めてである。



「キュウン・・・クゥン・・・。」


(初めてシアンから抱き締められたわ・・・。これは、ちょっと仲良くなれたって事でいいのよね?)



ガーラはよしよし、とシアンの頭を撫でながら、シアンとの親密度が上がった事に、心の中でガッツポーズをしていたのだった。




この後シアンはお粥を物凄い勢いで完食した。




ーーー


オマケ


・ガーラ

青い瞳に栗毛色の髪の毛。長さは肩スレスレ。

家出する時に合わせて髪の毛を自分で切ったため、横髪パッツン状態。

身長は150cm。体重は秘密。


・シアン

赤い瞳に黒色の髪の毛。長さは腰ぐらい。

オオカミのような耳とフサフサの尻尾を持っている。

後に散髪する予定。犬歯がめちゃくちゃ鋭い。

身長は180cm。体重は不明。




この国の単位通貨は『テイン』で、日本の『円』と価値は同じ。金のコインの価値は一万円、銀のコインは千円、銅は百円でそれ以下のコインはない。


隠れ家・・・とある街の中にある廃墟のような見た目の家。でも、中は意外と綺麗。ベットや浴室、トイレなどもちゃんとある。安く売られていたため、ガーラが持ち金で購入した。


ご近所さん・・・パン屋として働いているおばちゃん。独り身のガーラを気にかけて、よく余ったパンや料理のレシピなどを教えてくれる。





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