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手帳

作者: 月村幸世

四月三日

未来の自分が突然消えました。どこを探しても見当たりません。彼が消えると途端に生きていくことが怖くなりました。怖くて怖くてたまらくなったので、三日前に禁止した酒を飲みました。酒が喉を伝って胃に流れ込むと、怖さが煙のようにつらつらと消えていきました。


八月二三日

酒に見限られてしまいました。「お前には失望した」といつまでもビクビク震えている私を彼は乱暴に捨てました。またじわじわと途方もない恐怖が私の胸を蝕んで、その日は冷たい布団の上で泣きながら眠りました。


九月十四日

今日アルバイトを辞めました。とても怖くなったからです。店長には酷く怒られてしまいましたが、この恐怖に比べればあの程度なんでもありません。怖いです…怖いです…怖いです…


九月十八日

東京のある所で高級な薬を買いました。初めて自分で打つ注射は非常に痛かったですが、痛みは恐怖とともに消えていきました。


九月二十日

東京のある男にあの薬を12万円で4袋頂きました。


十月一日

ぶらぶらと散歩をしていると昔の同級生に会いました。しわのない綺麗なスーツに身を包んでいた彼は私を見て、酷く怯えていました。まるで醜悪な化け物でも見るような。

しかし私も人のことは言えないのかもしれません。社会の中に溶け込み、目をキラキラと輝かせた彼をみて私はある不快感を覚えました。その不快感はあの薬ですら取ることが出来ず、私の心の底に大岩のようにズドンとあり続けました。


十月七日

私はまたしても見限られてしまいました。「お前はどうしようもない」と言われてしまいました。


十月十日

この頃は起きていても寝ていても酷い夢を見るようになりました。今も夢を見たままこの文章を綴っています。私の手元には奇妙な虫がうねうねと這っているのです。それらは私の手の甲を伝ってどんどん上へ上がってきます。叩き落とそうとするのですが、手に痛みが走るだけで虫たちは全く動じません。あぁ、早く覚めないだろうか。


十月十一日

息を吸っても、吸ってもずっと苦しいままだ。もう嫌になる。


十月十三日

今日は幾分かマシな夢を見ていたので、河原に出ることができました。久しぶりに風にあたりましたが、あれほど心地よいのであればもう外に住む方がいいような気がします。

薬のやつに見限られてからは怖さと酷い夢に追われる毎日で泣きたくなります。恐怖は前よりもっと酷いものになりました。そろそろシメに入ろう。


十月十五日









十月十六日

縄を買いました。


十月十七日

とても静かな山です。


 月 日

幸せでした。


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