Act6:昔からの親友
ティキはルティーにある、唯一の家具である机に足をのせ椅子に座り、両手を頭の後ろで組みながら、静かに無言で天井を眺めていた。いや、良く聞くと小さくつぶやく声が聞こえる。
「暇だ……」
どうやら、何もすることがないので暇らしい。ティキは、ルティーに依頼が来ない限り、他に仕事もしていないのでかなり暇なのだ。おまけにこのルティーには、なにもない。机が一つ、椅子が一つ、冷蔵庫が一つ、後は別の部屋にシャワールームとトイレがあるだけだ。
「暇だ。暇だ。……ヒマだぁぁぁぁっ!」
ティキは机の下に手をやると、まるでちゃぶ台をひっくり返すかのごとく机を放り投げた。それは床へと着地すると、その衝撃で崩壊した。ティキはソレが起こった後で、自分がしてしまったことの重大さに気がついたようだ。ただでさえ少ない家具がさらに減った瞬間だった。
「やっちまった」
ティキは机をひっくり返したままの体勢で固まっている。そんなティキの脳裏にあることが思い出される。
「お、そうだ。前の国からの依頼んときに貰った報酬があったな。これで、机を新しく買って」
そう言いながら、ティキはルティーの中を見渡す。
「そういや、いまさらだけどここってなんもないのな。机以外にも新しい家具でも買うかな。……いや、テレビを買おう。テレビがあれば少しくらいは暇さがマシになるかも。さすがに本なんて柄じゃないしな」
そういいながら、ティキは再びルティーを見渡す。ティキの視線は冷蔵庫へと向かった。冷蔵庫の上には、この間の報酬が入った袋が置いてある。ティキは冷蔵庫へと向かうと、その袋を手にとり封をあけ、中身を出す。そこには報酬である20万オーラムがぎっしりと入っていた。
「おおっ、入ってる。入ってる」
「へぇ、結構大金もってんだな」
ティキは突然後ろから聞こえたその声に驚き、後ろを見る。そこには黒い髪が肩まで伸びた男が立っていた。
「リ、リクっ」
「よう、久しぶりだな、ティキ」
ティキの前に現れたリクという男は、昔ティキが国の組織で訓練を受けていた時、一緒に訓練をしていた仲間だった。ティキは懐かしい顔に自然に笑顔がこぼれる。
「ほんと、久しぶりだな。何十年ぶりだ?」
「何十年って、俺らまだ20代前半だろ……」
「ハハッ。まぁいいじゃねぇか。それにしても久しぶりだな。今、どうしてんだ?」
ティキは久しぶりの仲間との対面に浮かれているようだ。
「いや、ちょっとこの辺りに用事があってな。近くにお前の店があるの思い出して寄ってみたんだ」
「へぇ、そうなんだ」
ティキはそう言いながら、椅子へ座る。
「まぁ立ち話もなんだし、お前も座れよ」
リクは、頷き辺りを見渡す。
「……座るってどこに座れば?」
この部屋には椅子が一つと壊れた机、そして冷蔵庫しかなかった。
「あ、ハハッ。悪い、悪い」
「まぁ、いいさ。そんなに長居もしてられないしな」
「え? もう、行くのかよ」
「ああ、お前の元気そうな顔を見て安心したよ。その金を見る限り、仕事もうまく行ってるみたいだしな。何もない部屋だけど」
ティキは椅子から立ち上がる。
「そっか、まぁ仕方ないか。また、寄ってくれよ。暇だから」
「暇だからって。お前、仕事があるだろ?」
「なんもない時はほんと暇なんだって」
「ハハッ。まぁ、また寄らしてもらうよ。そん時は、飲み物くらい出せよな」
「あ、悪い」
リクはそう言うと、片手を挙げルティーから出て行った。ティキは久しぶりの顔に機嫌が良い。気分もよくティキはお金を持って、ルティーを出て買い物へと行く。
買い物を終えたティキは、目当てのものも買え、気分が良い。買った商品は、後から店の人が搬送してくれるらしい。ティキはそれを楽しみに、ルティーへと帰っている最中だった。
突如、ティキが向かう方向とはまったく別の街の端のほうから、激しい爆発音が聞こえ、それに伴い地響きが起こった。それに驚いたティキは、その方角を見る。するとそこには、天まで昇る黒煙が立ち昇っていた。突然の爆発、なにかの事件だろうか。それとも事故だろうか。周りにいた人は、野次馬になることも恐れずに、その爆発が起こったほうへと向かっていく。いずれにしてもティキは、たいして興味も示すことなくルティーへの足を休めることはなかった。
ルティーへと着いたティキは、ワクワクしながらたった一つの椅子に座って、店の人の到着を待っていた。そんなティキの心境に答えるかのように、ルティーのドアが開き、人が現れた。ティキはその姿に愕然とする。
「リクっ!」
「よう、また寄ったぜ」
そこには、肩からも頭からも血を流し、服も見た目もボロボロになっているリクの姿があった。
「な、なにがあったんだよ?」
「ちょっと、ミスってな。へへっ、情けねぇな」
ティキがリクの姿に驚いてる時、リクの後ろから大声が聞こえた。その声にリクが気がつく。
「ちっ、ティキ。悪い、手を貸してくれ」
「え? 手を貸すって」
ティキもリクの後ろから聞こえる大声に気がつく。そして、すぐに状況を理解し、リクの手をとり走り出した。ティキ達の後ろから大声が聞こえてくる。どうやら、リクを追いかけてきたようだ。突然のことに困り果てたティキはリクと共に、とにかく走りに走る。
普段からこの周辺を散歩していたティキは、この入り組んだ街の構造を理解していた。おかげでなんとか、その声の主達をやり過ごすことが出来た。
「ふぅ。なんとか、撒いたみたいだな。リク、大丈夫か?」
「ああ、悪いな。巻き込んじまって」
「ほんとだよ。一体なにをしたんだ? あいつらは何モンだよ?」
その言葉にリクは、壁へと寄りかかりため息をつく。
「奴らは、星の導きだ。ついこないだこの近くに、星の導きの支部アジトがあることを突き止めたんだ。それで、そのアジトを爆破しに行ったんだが、ざまぁねぇ。ミスっちまってよ」
「星の導きのアジトを? ……お前まだ」
リクは壁に寄りかかったままティキを見る。
「当たり前だろ。奴らは、奴らは俺達から大切な仲間を奪ったんだぞ。まさかティキ、忘れたなんて言わねぇよな?」
ティキは、リクの目から視線を外す。
「……忘れるわけないだろ。あいつは、ヴァイスは俺達の大切な仲間だったんだ。俺は今でも、ヴァイスを奪ったあいつ等を捜してるんだ」
リクもティキの顔から目線を外す。
「ふん、お前もなにも変わってないな。安心したよ。とにかく、俺の目的は星の導きを潰すことだ。そのためにはどんな手段をもいとわない」
リクは寄りかかっていた壁から離れ、ヨロヨロと歩きだす。ティキはそんなリクの姿に気がつく。
「どこに行くんだ?」
「また、姿を暗ますさ。傷が癒えるまでな。ティキ、お前も気をつけろよ。この近くには星の導きのアジトがある。奴らも当然、お前の命を狙っているはずだからな」
リクはそういい残すと、ティキの元からゆっくりと去っていった。
ティキはそんなリクを、姿が見えなくなるまで静かに見ていた。