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Act49:新しい月の産物


 迫る足音に臨戦体勢を取るティキとリディア。

「ちょうどいい。さっき教わったことを試すチャンスだ。リディア、手を出すなよ。ってもリディアは今、月の産物使えねぇもんな」

 月のカケラの粒子にオームの影が映り始める。その時ティキはある異変に気がついた。足音の数が通常よりも多い。そして徐々に見える影も多い。

「まさか……」

 近くまで迫ってきたオームを見てティキとリディアは驚愕した。


 オームは一体ではなかった。複数。その数、実に八体。二足歩行型。ゴリラタイプ。大きさ約2メートル50センチ。そんなオームが八体。

「おいおい……なんだこりゃ。こんなの初だぜ」

 当然ティキとリディアにとっても、同時に複数のオームに遭遇するのは初めての経験である。そしてなにより致命的なのはティキにとって"複数"の敵を相手にするということ自体圧倒的に苦手ということであった。ティキは今までほとんど複数の敵を相手に戦うということをしたことがない。それはティキの戦闘スタイルつまり月の産物に起因する。ティキの月の産物フェンリアは大型の剣である。対一での戦闘に置いて一撃の破壊力が高い大型の剣は有利である。その耐久力ゆえに防御に転じることも出来、なおかつ隙を伺い強力な一撃を与えることが出来る。

 大剣での唯一の弱点とも言えるその大きさ故の動きにくさは、通常の剣ではない月の産物という特性が解決している。ファンリアはその大きさを自由に変えることが可能である。故に敵の懐に飛び込んでから大剣に変え、ダメージを与えることも可能なのである。

 しかしこれが複数の場合勝手が違ってくる。一撃の威力が大きいということは隙も大きくなるということ。対一の場合倒せば隙もなにも関係ないが、複数の場合、一体を倒しても他の敵がいるのですぐに体勢を整えなければいけない。しかしこれが実に困難である。例え月の産物の大きさを変えたところで、初動が遅れるのは否めない。敵との戦闘に置いてコンマ一秒の遅れが命に関わる重大な結果に変わることもあるのだ。そしてそれが今まさに起こった。

 オームの攻撃がティキとリディアを襲う。二人は攻撃を避ける為にそれぞれが別の方向へと飛ぶ。武器のないリディアの近くに移動しようとしたティキだが、その瞬間上からの新たな攻撃にさらに離れるしかなかった。そしてそれが致命的。オームにティキとリディアの間に入るだけのスペースをあけてしまったのだ。さらに状況は最悪。この時オームはティキの元に二体。リディアの元に六体と別れたのだ。武器を持たないリディアの元により多くのオームが向かったのだ。

「リディア。くそ」

 ティキは自身の失態を悔いた。だが、悔いている暇はなかった。早急にオーム二体を倒しリディアの元へと向かわなければリディアが危ないのだ。


 一方、六体のオームに囲まれたリディアは困惑していた。リディア自身も初であるオームが複数いる状況での戦闘。しかも月の産物が使えない状態である。正直、月の産物が使えない状況での戦闘ではリディアにはオームを倒す術などないだろう。つまりリディアに今、出来ることはオームの攻撃をひたすら避け続けることだけとなる。


 だが、複数の戦闘に慣れていないリディアにとってオームの攻撃を完全に読みきることなど出来ず、さらにオームに一瞬の隙を突かれるのが現状である。オームの攻撃は容赦なくリディアに襲い掛かる。リディアはダメージを喰らう覚悟を決めた。だが、聞こえてきたのはリディアの悲鳴ではなく、オームの悲鳴であった。リディアが声のするほうを見るとそこには驚くべき光景が広がっていた。

 タッピーがオームの腕に噛み付いていたのだ。オームはタッピーを振り払うために腕を振る。

「タッピー!!」

 リディアは思わず声を上げた。タッピーはオームの腕から振り落とされ地面に叩き付けられる。だがそれでもタッピーは立ち上がり再びオームに噛み付く。何度も何度もそれを繰り返す。タッピーは見る見るボロボロになっていった。

「タッピー逃げて!」

 リディアがそう叫ぶのも無理はない。オームとタッピーの体格差を見てもタッピーがオームに適う道理などありはしない。このままではいずれ殺されるのは火を見るより明らかである。リディアはこの時、自分の無力さを感じていた。自分のことを必死に守ってくれるものが目の前にいながら自身は何も出来ない。その悔しさからかリディアは手に持つ月の産物を必死に握りこみ、そして手からは出血をしている。

「お願い。逃げて……」

 リディアは呟く。だがそんなリディアの願いは空しく届かずタッピーはひたすらオームへと向かっていく。もはやタッピーは瀕死の状態である。

「お願い。あたしの月の産物。発動して。……今、発動しなかったらまた大切なものを失う」

リディアの脳裏に過去の出来事が蘇る。

「もう二度と……もう二度と大切なものを失いたくない」

 リディアはよりいっそう強く拳を握りこむ。

「発動しなさい!! ルナスペリア!!」

 その瞬間、月の産物は強烈な銀色の光を放った。同時にタッピーも銀色の光を放ち始める。タッピーは光となって一瞬でリディアの左腕に移動する。そして身体を変形させ始める。リディアはその光景を目に涙を浮かべながら、驚きの表情で見ている。タッピーの身体が変化を終了すると、銀色の光は落ち着きを取り戻す。そしてリディアは目にすることになる、タッピーと融合し新しい武器となった月の産物を。


「これは……」

 それはリディアの左腕に巻きつく、矛のような武器。始めてみるその形状にリディアは戸惑いはしたが、すぐにその使い方を理解することになる。それはどこからともなく聞こえてくる声。やさしい声。新しい武器。その使い方をリディアの意識を通して伝える声。

 リディアは涙を拭き、構えるとオームのほうに向きなおす。そして左腕を大きく振りかぶると、オームのほうに向けて振り下ろす。その瞬間、矛が延び始める。矛とリディアの腕とは鎖で繋がれている。矛は一直線にオームのほうへと向かう。そしてそのままオームの頭部を破壊する。破壊されたオームは月のカケラの粒子に変化する。一体のオームが破壊されたのを見て他のオームがリディアに襲い掛かる。リディアはオームの攻撃をかわしながら腕を捻る。

 すると、リディアの意思に従うかのように矛は方向を変化させ背後からオームの頭を破壊した。さらに腕を捻ることなく矛は方向を変え、勢いも増し横に並んでいたオームの頭を貫き一気に三体を破壊した。破壊されたオームが月のカケラの粒子へと変化し、銀色の小さな光を放つ。それはさながら地上を煌く星のようだった。残る一体は動かないでいる。リディアは矛を一度腕へと戻した。

 そして腕に戻った矛を見つめると右手で矛を撫でる。

「これがあたしの新しい武器。タッピーありがとう」

 リディアは腕から再び矛を伸ばし、残り一体のオームを破壊した。


 リディアが全てのオームを破壊し終わると、ほぼ同時にティキがリディアの元へとやってきた。

「よかった無事だったかリディア」

「うん、タッピーが助けてくれたの」

「タッピーが?」

 そう言うとリディアはティキに新しい月の産物を見せる。

「これがタッピーなのか?」

「うん、タッピーはあたしの新しい月の産物だった。月の産物が発動しなかったのはルクスの言うとおり、あたしが二つの月の産物を持っていたからだったみたいね」

「でもだったらなんで急に使えるようになったんだ?」

「それはたぶん……あたしの意思」

 そこまで言ってリディアは言葉を止めた。あの時、リディアの脳裏をよぎったのは過去の出来事。つまりリディアの行動原理の源。その時の強い想いがタッピーと強く共鳴した結果が新しく変化した月の産物。それはリディアの意思一つで自由に攻撃方向、角度を変えることができる。さらに矛の形状をした先端は一点集中の破壊力を秘め、脅威の貫通力を備えていた。ティキの持つ月の産物であるフェンリア。大型の剣に比べて中距離から長距離の攻撃が可能な変幻自在武器。

 

 ――それがリディアの新しい月の産物である。


 


 ティキとリディアが全てのオームを破壊し終わった時、ティキ達の背後にある建物から大地を揺るがすほどの衝撃音が聞こえた。ティキとリディアはその音に驚き振り返る。そこはヴィートが入っていった建物。砂煙と月のカケラの粒子に混ざり、一遍の光が漏れる。聞いたことのない機械音を放ち、いくつかの光を放つ謎の物体それが徐々に姿を現す。ティキそしてリディアにとって、いや人類にとってその存在は、これからの未来に幾億もの災いをもたらすことになる。


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