Act46:ヴィートとリディア
「おーす! リディアちゃんお待たせ!」
ここは、ウォーターリファリンの中心部にある広場の中にある噴水の前。そこでヴィートを待っていたのは、リディアだった。いつもの服装とは違い、薄化粧をし、服装も雰囲気もいつもと少し違うリディアの姿があった。
「女の子を待たせるなんて第一印象は最低ね」
「悪い悪い。お詫びにコレを」
そう言ってヴィートが差し出したのはバラの花束だった。今までそんなことをされたことがなかったリディアはその光景に少し驚いた。
「馬鹿じゃないの? そんなもん持って歩けっての?」
「とか言って嬉しい癖に。まぁ、でも確かにそうだな、じゃあデートが終わるまでは俺が持っててやるよ」
「リディアのやつ、うまく聞きだせるかな?」
リディアとヴィートを少し離れた所から監視しているのはティキとルクスだった。リディアのことを心配している二人は二人には内緒でこっそりと後をつけていたのだ。
「それにしてもまさかリディアがデートに応じるなんてビックリしたよ」
「そうですね。でもティキさんは月のカケラの手がかりを得るために誘いに乗ったって思ってるんでしょ?」
「思ってるんじゃなくてそれが事実なんだよ」
ティキは昨日のことを思い出していた。
『そう。明日一日、俺様とデートすること。その条件を守れるなら教えてやる』
『はぁ?』
リディアはヴィートの誘いに心底驚いている。
『別に困ることでもないだろ? 俺様は、リディアちゃんとデートしたい。そして俺様とデートすることでリディアちゃん達は月のカケラの情報を得ることが出来る。お互いにとって不利益なことはなにもないはずだぜ? しかも、一日デートしてリフレッシュして楽しんでまさに一石二鳥じゃねぇか』
リディアはヴィートの言葉に考え込む。
『……分かった。でも月のカケラの情報を絶対に教えることが条件だよ』
『俺様を信じろって。俺様は女の子には絶対嘘はつかない。その変わりこっちもひとつ条件というか提案がある。明日のデートにはちゃんとしたデートの格好で来ること、適当な格好はやめてくれよな』
こうして、月のカケラの情報を得る為にリディアはヴィートの誘いに乗ったのである。
ティキが昨日のことを思い出していると、ルクスが声をかけて来た。
「あ、ティキさん。二人が移動しますよ。どこに行くんでしょうかね? ワクワクですね」
「なんかルクス嫌に活気づいてないか? まるで水を得た魚のように」
「ティキさんでもそんな言葉知ってるんですね。僕は、尾行とかスパイ活動のこっちが本業ですからね。こういうのは得意ですよ。任せてください」
「おお、頼もしいな」
そうこういってる間にリディアとヴィートは移動し、その後ろからこっそりティキ達はつけていった。
リディアとヴィートが行った先はなんのこともない普通の場所。ショッピングをし、食事をし、映画を見て、観光をする。本当にただのデート以外の何ものでもなかった。ずっとリディアにも内緒で後をつけてきたティキとルクスは、時間が経つにつれてだんだん虚しくなってくるのを感じていた。
「なんか俺虚しくなってきた。一体何やってんだ俺……」
「あれ? どこ行くんですかティキさん?」
「ホテルに帰るんだよ。よく考えたら俺達が尾行する理由なんてねぇじゃん。リディアが帰ってきたらゆっくり話を聞こうぜ」
ティキとルクスがその場を去ろうとしたとき、ティキ達の横を一人の女性が走っていった。その女性はそのまま前を歩いていたヴィートにぶつかると衝撃に負けて尻餅をついた。
「いたた……」
それに気がついたヴィートは女性に声をかける。
「おおー、大丈夫か? 綺麗な人だな。名前教えてよ。後、連絡先も教えて。あ、俺様の名前はヴィートってんだ。こんなに慌ててどうしたの? 今夜開いてる? おいしいお店があるんだけど今夜どう?」
ヴィートのマシンガントークが始まろうとした時、リディアの拳骨がヴィートの頭に直撃した。
「いってー。何すんだよ。リディアちゃん」
「何すんだよじゃないわよ。あたしといる時に他の女の子をナンパするってどういうこと?」
「あ、いや……決してそういうことではなく」
ヴィートとリディアがやり取りをしていると女性は立ち上がりヴィートを見て言う。
「すいません。急いでるんです。ごめんなさい」
そう言うと女性は再び走り出した。ヴィートはその女性が走り去ったのを確認するとリディアに謝った。
ふとヴィートは気がついた。道に何か落ちている。それは先ほどの女性が落としたものだろうか、ヴィートはそれを拾い上げる。それはなにやら錠剤のようだった。
「これは……麻薬?」
「え?」
リディアはヴィートの持つそれを見て、ヴィートの言葉を聞いて思わず口に出た。
「まさか……ソーマ?」
「ソーマ? なんだそりゃ? 聞いたことねぇな」
「ソーマは月のカケラの粒子を利用した麻薬よ」
「ふーん」
ヴィートは錠剤をジッと見る。
「でもこれはソーマじゃねぇと思うぜ。今、巷で流行している飲む麻薬”XX”」
「ダブルエックス?」
「ああ、比較的安価で手に入るからガキ共に人気があるんだ」
ヴィートは一瞬沈黙する。
「リディアちゃん……」
「ん?」
「今度デートの続きしてくれるとありがてぇ。俺様は、あの子ほっとけねぇから行くわ」
そう言うとヴィートは、さきほどの女性を追いかけるように走り出した。しばらく走るとT字路に差し掛かる。
「あれ? 右だっけか? 左だっけか?」
「何やってんの? 右でしょ」
ヴィートが右か左かを迷っていると後ろから声が聞こえた。
「リディアちゃん!?」
「あたしも一緒に行くわ。あんただけじゃあの女の子に何するか分からないし」
「ひでぇ。俺様は女の子が嫌がることはしないぜ」
「よく言うわね。……でも、少し見直した」
リディアはヴィートを笑顔で見る。それに答えヴィートもリディアに笑顔で返した。
「ホラ行くわよ。早くしないと見失うわよ」
リディアとヴィートは女性を追いかける。
「おい、ルクス。俺達も行くぞ」
「ええ、ていうかこういう状態ならもう堂々と出て行けばいいのに」
「いいんだよ。俺達はギリギリまで様子見だ」
そう言うと、ティキ達もリディア達の後を追いかける。
半年振りです。すいません。ゆっくり更新していきたいと思います