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Act41:新たな旅立ち

 リームベルト国公立公園。この場所にある木に囲まれている為に、あまり目立たない小高い丘の上に、ティキとリディアそして、プレシデントがいた。

「プレシデント? なぜアンタがここに?」

「お前をここに連れて来てほしいと、リディアとルクスに頼んだのは私だからだ」

「どういうことだ? まさか、今回のこともまたアンタが関係してるのか?」

 プレシデントは、ティキに対して背を向け、空を眺める。

「……関係していると言えばしている」

「てめぇ、どういうつもりだ? 俺の家だぞ!」

 ティキはプレシデントのほうに詰め寄る。それを見ていたリディアがティキを静止する。プレシデントは身体を半分後ろを向けたままで、ティキのほうを向く。

「聞け。ことの始まりは今からおよそ、ひと月前……。星の導きが各国の主要施設を攻撃、破壊したことは知っているか?」

 ティキはそれを以前聞いたことがあった。そう、巨大オームを倒した後にルクスから聞いた。星の導きによる攻撃の足止めとして、リクが国に利用された出来事だ。

「その顔は知っていると判断するぞ。そのこともあって各国の代表である総師は、星の導きの目的を推測。そして、報復することを決定した。だが、その為には準備がいる。そこで、総師は時間を稼ぐために、星の導きに恨みを持つ者を探していた」

「つまり、リクは当て馬にされたってことか? アンタはそれを知ってて、リクが利用されるのを黙って見てたのか?」

「リクを使ったことも知っているか。だが、少し誤解があるようだな。私はリクが利用されるのを黙って見ていた訳ではない。リクのことは私自らが進言した」

 その言葉にティキはついに、プレシデントに掴みかかった。そして、そのままプレシデントを押し倒した。

「アンタはやっぱり昔のままだ。俺達をただのコマとしか見ていねぇ! なぜ、リクを使った? あいつの心の闇の深さは、アンタが一番知っているだろ!」


「……私はただ、お前を守っただけだ」

 プレシデントの予想外の言葉に、ティキは一瞬動きが止まる。

「どういう……意味だ?」

「星の導きに恨みを持つ者を探していたと言ったな。その第一候補となっていたのが、お前だ……ティキ」

「え?」

「総師は、”月よりの使者”であるティキという名の兵器を使う気でいた。だからお前を守るためには、リクを犠牲にするしかなかったのだ」

 ティキはその言葉に動きが止まる。そして、プレシデントは続けた。

「私は……ただ、自分の罪滅ぼしをしたかっただけなのかもしれん。私はお前の運命を知っている。だから、お前に少しでも長い間、普通の生活をさせてやりたかったのだ。だから総師にはお前は使いものにはならないと言い、そしてリクを使うことでお前を守ったのだ」

「ティキ、あなたの気持ちも分かるけど、プレシデントさんの気持ちも汲んであげて」

 ずっと黙って聞いていたリディアが言う。

「だが、それももう限界だ。先日イルマシア国で発生した巨大オーム。あの歴史的大事件は、瞬時に世界に伝わった。歴史上はじめてサガルマータにオームが現れたことも、そのオームを倒したのがお前達であることも、そして、総師は知った。ティキが使えるということを……。そして、それが分かるや否やすぐに、自身の身辺警護が任務であるはずの”月影”を使い、お前を生け捕りにしようとしたのだ」

「! ……奴は、月影の一人だったのか」

 プレシデントは驚いているティキの顔を見ている。そして、ツバを飲み込むとティキの名を呼ぶ。ティキはその言葉に反応する。


「ティキ。お前は、この国を出ろ」


 ティキはその言葉に思わず、プレシデントを持つ手を緩めた。

「もはや、私ではお前を守りきれない。お前を国に、総師に利用させない為には、お前がこの国を出て再び姿を消すしか道はない」

「それは俺に……逃げろって言ってるのか?」

「そう、捉えられても仕方が無い」

 ティキは再び、プレシデントを持つ手を強めた。

「冗談じゃねぇ! 尻尾を撒いて逃げるなんて出来るわけがねぇ!」

「ティキ頼む。私からの一生のお願いだ。私はどうしても、お前に死なれたくないのだ」

「あんたは……ほんとに昔から何一つ変わってねぇ! 自分勝手なことばかりグダグダ言いやがって!」

 ティキはプレシデントを持つ手を離すと、立ち上がり後ろを向く。それを見ていたリディアが、ポツリとティキの名を呼んだ。

「ティキ……」

「死なれたら困るのは俺も同じだ。アンタが守るのは俺だけか? 違うだろ?」

 ティキはプレシデントの方を向く。

「アンタにはこの国を……この星を守るって言う大事な仕事があるだろ! 破壊された月を再生させる計画”紙碑”を発足させ、崩壊するこの星を守る役目が。俺は、今でもアンタのことが憎い。許せない。けど、この星を守るためには、アンタは絶対に必要だ。俺が、いなくなったら……」

 ティキは唾を飲み込む。そして口を大きく開けて叫んだ。


「俺がいなくなったら、誰がアンタを守るんだよっ!!」

 

 ティキの声は空高く響き渡り、一瞬……場の空気が静かになった。その静寂を破ったのは、プレシデントだった。プレシデントは腰を起こし、言う。

「ずっと疑問だった。なぜお前がこの国を出ようとしないのか。12年前のあの時、国から去ったはずのお前がだ……私は、大きな勘違いをしていたようだな。私は、ずっとお前を守っているものだと思っていた。だが、実際に守られていたのは……私だったのか」

 プレシデントは、少し笑う。

「ティキ……」

 ティキとプレシデントは目が合う。そしてプレシデントは前のめりになり、両手を地面に付け、頭を地面にまで下げた。

「本当にすまない。ありがとう!」

 ティキは、プレシデントの誠意を感じた。国のトップである男が、今、全身全霊を込めて土下座をしたのだ。ティキは今までの全ての恨みや憎しみが全て浄化したような気がした。プレシデントは頭を上げると続ける。

「ティキ。今から二ヶ月前、このリシュレシア国のほぼ真裏にあたる場所である、セイ・ユグレシア国にて大使館に派遣中の職員から、ある報告がなされた」

「……報告?」

「12年前、第九候補生の施設を襲った二人のうちの、一人を目撃したという報告だ」

 ティキはその言葉に驚きを隠せない。

「俺が、探している奴の一人……」

「そうだ。ティキ、お前は自分の目的の為に生きろ。私はもう十分に守ってもらった。それだけで十分だ」

 ティキは沈黙した。リディアもプレシデントも沈黙している。そこへ、場の空気を知る由もなく、男がやってきた。

「ティキさん、話は聞きました?」

 それはルクスだった。

「ルクス! 無事だったのか、よく大丈夫だったな」

「当たり前です。僕を誰だと思ってるんですか?」

 

 場面は変わり、ここはルティー。そこには、焦燥が見え隠れしている男が一人。

「ちっ。逃げられたか。ホントに逃げ足だけは早かったな。まぁいいさ。いずれ、必ず捕まえてやる。例え地の果てまで行こうがな」

 そう言うと男は、その場から姿を消した。


 場面は再び、ティキ達。

「……プレシデント」

 ティキがプレシデントを呼ぶ。

「何だ?」

「俺はこの国を出るよ。国を出て……そいつを探す」

 プレシデントは再び笑みを浮かべる。

「そうか」

「それで、一つだけ頼みがある」

「なんだ?」

「俺は、目的を果たして必ずここへ帰ってくる。だから、それまでにボロボロになったルティーを直しといてくれねぇか」

「分かった。……私からも、一つ頼んでいいか?」

「何だ?」

「帰ってきたら、一緒に酒でも飲み交わそう」

 ティキは再び沈黙する。プレシデントは12年前の出来事の原因を作った人物。ティキはプレシデントのことがどうしようもなく嫌いだ。だが……。

「アンタが奢ってくれよ」

「ああ、最高の酒を用意しよう」

 ティキは承認した。ティキのプレシデントに対する言葉遣いが少し変化したのも、その心の変化の表れだろうか。


 ――そして、ティキは決心した。目的を果たすまで、ここに戻ってこないことを。





「リディアとルクスも来るのか?」

「ええ、実はあたしの目的の場所も、ティキの行く場所のすぐ近くなの。この間壊滅させた組織のアジトから出てきたソーマの製造地域がね。ルクスも一緒に行くって」

 リディアとティキはルクスの方を向く。

「ええ、もちろん行きますよ。だって、僕たちはいつも三人一緒でしょう」

「そうか」

 ティキは笑みを浮かべる。

「じゃあ、行って来るぜ。プレシデント」

 ティキはそう言いながら、リディアのリバティーにまたがる。

「うむ。気をつけてな。セイ・ユグレシア国へ着いたら大使館へ行け。私から連絡しておく」

「ああ、分かった」

 ティキはプレシデントに笑顔で答える。ティキがプレシデントに笑顔を見せたのは、実に何年ぶりだろう。


 リディアはリバティーのスロットルを回す。激しくマフラーから煙が噴出す。そして出力を上げ飛び上げる。ルクスもそれに、続いて行く。


 プレシデントはティキ達が見えなくなるまで、見送っていた。


 ――今日は、晴天。風はなし。雲海が広がるここは空の上、サガルマータ。


 ティキ達の冒険の日々はここから始まる――。


これにて、第一部終了です。


次回より第二部となります。更新を楽しみにしておいてください。

また、一言でもいいので感想等頂けると、泣いて喜びます。


より面白い話が書けるように、次回以降も頑張りますので応援よろしくお願いします。

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