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Act31:ディセルパス国……消滅!

 ティキとルクスは月の産物の師と呼ばれる月の産物の製造者であるアイシスの所へと来ていた。そして、アイシスから月の産物についての説明を受けていた。

「どういうことだよ?」

 ティキはアイシスの放った言葉を理解出来ず、困惑していた。

「先ほども言ったじゃろう。雑念があるのが人間にとっての普通だと。雑念のない人間など人形と同じ、なんの面白みもない。人間は常にいろんなことを考え、悩み、決断し生きている。例え戦闘中であろうと、常に戦いのことだけを考えている人間などおらん。それではただの戦闘人形じゃ」

 ティキはアイシスの言葉が胸に突き刺さった。確かにそうだ。ティキ自身も今までの戦いの中で戦うことだけを考え戦ってきたのではない。時には自分の目的のため、時には仲間のため、時には大切なもののため。何かしらの理由があり戦ってきたのだ。それらは常に頭の中にあり、忘れることはない。

「人間に雑念を消せと言っても無理な話じゃ。だからこそ俺等、産物の師がいるのじゃ。月のカケラの純度を人の雑念には反応せず、意思だけに反応するギリギリ限界を見極め月の産物を創る。それが俺等、産物の師の仕事じゃ」

 ティキは沈黙している。アイシスの言葉の全てが耳を通り抜けることなく、頭の中に留まっているのだ。

「俺が、最初に言ったことが理解できたじゃろ。新しい月の産物は今まで以上に貴様の心に反応するぞ。それを扱うには貴様自身の心も強くなくてはならん。貴様にはその意思があるか?」

 ティキは顔を俯く。その行動を、ルクスもアイシスもジッと眺める。そして、ティキは身体一杯に空気を吸い込むと、それを大きく吐き出しながら言った。

「あるっ!!」

「ふん、威勢だけは一人前か。いいじゃろう。俺を信じろ、今に貴様に世界最高の月の産物をプレゼントしてやろう。完成を楽しみにしていろ」

 それを言い終わると、アイシスはティキ達に背を向け再び奥に入っていこうとしたが、途中で止まりティキのほうを見る。

「そうそう、ひとつ言い忘れておった。これはルクスにも言えることだが、貴様等月の産物の意志に飲み込まれるんじゃないぞ」

 その一言だけ言うと、アイシスは奥へと入っていった。ティキも、そしてルクスもアイシスのその言葉の意味はよく理解できていなかった。


「それで、ルクスはこれからどうするんだ?」

「ティキさんに合わせますよ。どうせまだ月の産物が出来るのに少し時間がかかるようですし、ティキさんは仕事が残ってるでしょう」

 ティキはとりあえず外に出る。ルクスもそれに続いて外に出る。

「とりあえず、ルクスも俺の仕事手伝ってくれるんだろ?」

「はい」

「じゃあ、この写真で聞き込みしてくれよ。これがその行方不明の息子さんの写真なんだ」

 そう言って、ティキはルクスに写真を渡す。

「じゃあ、俺はこっちで聞き込みするからルクスはそっちを頼む。1時間後にまたここに集合な」

 ティキはそう言い終わると、裏路地から表へと出る。その瞬間、街の人々の叫び声が聞こえた。街の人々は口々に似たようなことを言っている。ルクスも異変に気がつき、表へと出てくる。

「バケモノだぁ!!」

 街の人間が発したその言葉が一番適当だろう。街の人々は、みな我先へとその場から逃げ出す。街は一瞬にして混乱する。そんな中、ティキとルクスは、人々が見ている方向を見る。それを見たティキとルクスは驚き、言葉を失う。そこには、絶対にあってはならない光景が広がっていた。


 ティキ達のいる遥か先、リゾート地ディセルパス国……その上空にいるのは、巨大な体に灰色に少し紅色を帯び、翼の生えたまるで神話に登場するドラゴンのような姿をしたオームだった。

「オ、オーム……馬鹿な。なんで、こんな所に」

 初めてオームが確認されてから数百年。今まで一度も、サガルマータにてオームの出現が確認された事例はない。サガルマータは月のカケラの粒子がなく、またオームは月のカケラの粒子がなければ現れることはない。だが今、数百年に及ぶその常識を覆し、オームはサガルマータに出現した。

 当然、ティキ達もその光景には驚くばかりではあったが、アンクレストで何度もオームとの戦闘経験のあるティキはすぐに我を取り戻す。

「……! ルクスっ! すぐにアイシスに月の産物の完成を急ぐように言って来い!」

「え!? でも、ティキさんはどうするんですか?」

「俺はなんとか奴を食い止めてみせる!」

「食い止める!? 食い止めるってどうするんですか?」

「このままだとディセルパス国が破壊されちまう。なんとか気を逸らしてみる」

「なんとかって、ティキさんは今、月の産物もないんですよ!」

「だから早くアイシスに言って来いってよ!!」

 ルクスはティキの目を見ると、すぐにアイシスの元へと走った。ティキは自分のリバティーが置いてある場所まで走る。

 その時、ティキやルクス、そして街の人々の耳に奇怪な音が入る。それは超音波のように聞こえるわけではないが、耳を押さえなければ立っていることすらままならないほどの奇怪な音。リバティーの元へと走っていたティキだが、その音に耐え切れず思わず足が崩れる。ルクスもまた同じ目にあっていた。

「くそ……なにしてやがる」

 ティキは耳を押さえながら、オームのほうを見る。

 オームは口を大きく開けている。そして、口の周りにはまるで放物線を描くように赤い光が集中している。オームの顔が小刻みに揺れ、奇怪な音もだんだんと大きくなる。

 ――瞬間。

 

 眩いほどの赤い閃光に包まれ、ティキはオームの姿を見失う。次にティキや街の人を襲ったのは、激しい爆風と衝撃であった。ティキはその突然の衝撃と爆風に耐えることが出来ず、身体ごと民家へと吹き飛ばされる。街の人々も同じように吹き飛ばされ、木も飛ばされ、家は破壊されていく。

 凄まじい衝撃の後に残ったのは、大きく黒い噴煙であった。青い空にミスマッチに映し出される黒煙は、人々に何が起こったのか理解させるには十分だった。

 ティキは崩れた家の瓦礫の中から這い出てくる。いろんな所を打ったようで血も出ている。

「くそ、一体なにを……しやがった」

 ティキはそれを確認するために閃光によって見失う前にオームがいた所に目をやる。そこにはオームが平然と空に翼を羽ばたかせながら飛んでいた。だが、ティキはすぐに黒煙に目が行く。そして、その黒煙の出所に目をやる。

「な……」

 言葉に出来ない衝撃だった。ティキもこんなことを見るのははじめてだった。

 

 ――そこに確かに先ほどまであったはずのディセルパス国が、サガルマータの土台のみを残し、跡形もなく消し飛んでいたのだ。


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