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Act30:今、明かされる月の産物の秘密

「なんだよ、ここ。裏路地か?」

「彼女は、賑やかのが嫌いなんですよ。でも本人はある意味結構賑やかな人間なんですけどね」

 ティキはルクスに案内されるがままついて行くと、少しばかり薄暗い裏路地へと着いた。少し表を見れば人通りがあるような場所ではあるのだが、ここから見える建物の入り口は全て陽の光が当たっていない。夜一人で歩くと、少し不安に襲われるような雰囲気だ。

「さぁ、ここです」

 ルクスがある家の前で止まる。そこは少し朽ちた感じの平屋の前だった。扉も一枚しかなく、窓もない。日当たりは最悪だろう。こんな所で本当に人なんか生活してるんだろうか。ティキは少しそう思った。そこにはタトゥーショップ『アイシス』と書かれている。

「タトゥーショップ?」

「さぁ、行きますよ」

 ルクスは強引にティキの手を引っ張り中へと入っていく。ティキは少しばかり抵抗したが、そのまま中へと入っていく。

 中は思ったより物が置いてあり、ごちゃごちゃしている。というかティキのルティーが何もないだけでこれが普通なのかも知れない。見渡すと、タトゥーショップらしい彫ったタトゥーの写真が飾ってあったり、彫るための道具と思われるものが置いてある。

「男二人で仲良く手を繋いでご来店とは、貴様ら少し気持ち悪いのぉ」

 ティキとルクスはその声のほうを見る。店内は少し薄暗いため影は確認できるが、顔はまだはっきりと分からない。

「あ、アイシスさん。例の人連れてきましたよ」

「なんじゃ、ルクスか。予定の時間より少し遅いではないか。貴様俺を待たすとは、偉くなったもんじゃのぉ」

 その言葉を聞いていたティキがルクスに耳打ちをする。

「おい、ルクス。女じゃねぇのか? お前、『彼女』っていうからてっきり女だと思ってたじゃねぇか」

 アイシスと呼ばれた人は、少しずつ明るい場所へと出てきた。

「え? はははっ。やだなぁ、どっからどう見ても女性ですよ。そんなこと彼女に聞かれると殺されますよ」

「聞こえておるわ。貴様もナメた小僧じゃな」

 アイシスは顔がはっきり見えるところまで出てくる。ティキはその姿をしっかり確認した。髪は黒色で髪の長さは、肩に少し掛かるくらい。ショートというべきだろうか。顔は少し小麦色をした容姿端麗で、なかなかの美人だ。体系もモデルのようなスラッとした体系で、どこからどう見ても女だった。

「小僧、貴様がティキか」

「あ、ああ」

「ふん、なかなか良い顔付きをしておるわ」

 そう言いながらアイシスはティキの目を真っ直ぐと見てくる。そして、しばらく見た後に軽く両方の口の端を上げると、ルクスの方を見る。

「ところでルクスよ。俺のとこに来るのになにも用意してないってことはないじゃろなぁ」

「ああ、大丈夫です。今日はちょっとした価値のあるものを持ってきましたよ」

「ほう」

 そう言うとルクスはリシュレシアを出る頃から持っていたカバンの中から、ある物を取り出す。アイシスはその全貌が徐々に明らかになるに連れて、顔が明るくなっていく。

「おおっ! こ、これは! 超レアもんではないか!」

 ルクスがカバンから取り出したもの、それは……。リシュレシア国で生産され、限定僅か10体しかない。ブタのぬいぐるみであった。

「え?」

 ルクスが取り出したものを見て、ティキは言葉を失った。あまりにも予想外のものが出てきたからだ。

「こ、これほんとにもらっていいのか!?」

「ええ、アイシスさんにあげるために持ってきたものですから」

 人形を受け取ったアイシスは、嬉しそうに飛び跳ねている。まるで、子供だ。ものすごく無邪気に飛び跳ねている。

「ティキさん、驚きました? 彼女、言葉遣いはあんな感じですが、実はものすごく少女趣味というか、可愛いものが好きなんです。前に彼女の部屋を見せて貰った時は驚きましたよ。なんせ、動物の人形とか、小さな子が持ってるような小物が一杯置いてあったんですよ。部屋の模様もファンシーですし……笑っちゃうでしょ? 笑っちゃいましょう。はははっ」

 ルクスの笑いにつられて、ティキも鼻で笑う。

「そこっ! 笑うな!」

 突然のアイシスの、大声にティキとルクスは笑うのをやめた。

「別に貴様らに俺の趣味を理解してもらおうとは思っておらん。貴様らがどう思おうが俺は可愛いものが好きじゃ」

 ここに入る前にルクスが言っていたように本人はある意味結構賑やかな人間と言う言葉は、本当だったとティキは思って、再び分からないように少し笑った。


「さぁて、と。じゃあ本題に入ろうかの。小僧……いや、ティキ」

 突然の名指しにティキは少し驚く。

「貴様の月の産物じゃが、まだ完成には少し時間がかかる。とは言っても今日中には出来るじゃろう。良く聞け、完成した月の産物は今まで貴様が使っていた月の産物とは比べ物にならんほどの力を秘めている。それを扱うには、扱う者も相当な精神力がいる。なぜか分かるか?」

 ティキは、沈黙したままアイシスのほうを見ている。

「では、俺が簡単に説明してやろう。月の産物は、二種類あるのじゃ。貴様らが持っている月の産物は『銀の月の産物』と呼ばれるモノじゃ。そして、もう一つが『紅の月の産物』……」

「紅の?」

 ティキにはそれは初耳であった。ティキは月の産物を持ってはいるが実の所、月の産物についてはあまりよく知らないのである。

「そう。それは月の産物の製造方法に起因する。なぜ月の産物の製造方法が国家機密扱いされるのか、それもここに理由がある。月の産物は月のカケラの、特性を利用して創られている。つまり、創るものの精神力が、心がそのまま反映されるのじゃ」

 ティキも大方の予想はもちろんついていた。月の産物が人の心に反応するのは一般的にも知られていることだからである。ましてや、ティキは月の産物を扱うもの。今までも月の産物を自分の意思一つで、大きくしたり小さくしたりしていたのである。

 さらに、アイシスは続ける。

「俺は正義だ悪だと言う気はないが、あえて使うとすれば悪の心を持ったものが月の産物を創れば相当なものを創れるはずじゃ。少なくとも俺達からすれば気分最悪なものもな。だからこそ、月の産物を創るものは限られ、選ばれる。強靭な確かな精神力と心、さらに類まれな想像力を持つものだけが国に選ばれ月の産物を創ることを許される」

 アイシスの説明は、ティキにとっても分かり易く、そして的を得ていた。あれほどの力を持つ月の産物が、仮に人を滅ぼすことだけに使われれば、人間なんて一瞬で消し飛んでしまうだろう。いや、元々月の産物は戦争を抑止するために、各国に一つずつ振り分けられている。それ以前にすでにそういうことも含め大きな力が働いている可能性すらある。

「そして、月の産物はその純度を高めることにより、パワーアップさせることが出来るのじゃ。純度を高めれば高めるほど月の産物は強くなる。そして、ある一定の基準値を超える純度を保つことにより紅の月の産物が出来る」

「それじゃあ、紅の月の産物のほうがいいんじゃないか?」

「……やはり小僧じゃの。考えが単純じゃ。先ほどから言っておるじゃろう。月の産物を扱うためには相当な精神力がいると。本来、月の産物は人間が扱うにはあまりにも不安定なモノなんじゃ。なぜなら、人間には雑念が多すぎる。月の産物の純度を高めると言う事は、それだけ人の心に反応しやすくなると言う事、雑念があるのがディフォルトな人間には本来は扱えん代物なんじゃ」

「それじゃあ、雑念を抱かないように特訓するとか……なんて」

 その言葉にアイシスは説明を止め、ルクスのほうを見る。

「おい、ルクス。この小僧、本当に大丈夫か?」

「あはは、ティキさんは気分屋ですからね。雑念を消すなんて無理ですよ。でもティキさんの力は僕が証明します」

 アイシスは再びティキの顔を見ると、はぁーとため息をつく。そして再び話し始める。

「では聞くが貴様、人形になると言うのか?」

「え?」

 アイシスの予想外の問いにティキは戸惑いを見せた。


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