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Act12:作品の想い

 ティキと依頼主は、紙に書かれた住所を頼りに依頼主の息子の作品のコレクターである男の家へと向かっていた。そして、ようやくその住所の場所へとたどり着いた。

「へぇー、ここがそうか。ってすげー豪邸」

 ティキ達の前には、一市民がとても買えないような大豪邸があった。高級住宅地であるこの場所の中でも特別目立っているような、そんな雰囲気を持った場所だった。ティキは、門の前に付いていたインターホンを押す。すると、正面のドアが開き、黒ずくめの男が数人出てきた。

「なにかようですか?」

 出てきた黒ずくめのうちの一人、サングラスをかけたスキンヘッドの男がティキに問いかける。

「あ、俺達ここに住んでるえっと、デリュームさん? に会いたいんだけど」

「デリューム様は、どこの馬の骨かも分からない連中に会う予定はございません。お引取りください」

「まぁ、そう言うなって。ここにいるんだろ?」

「決して通すわけにはいきません」

 黒ずくめの男達は断固として、意見を譲らなかった。ティキはどうしたものかと考え込んでいると、さっきリディアが来た時、一緒に渡されたバッジがあることを思い出した。それは、国の高官の証となるバッジでとても信頼のおけるものだった。

「あ、これなら信頼できる?」

 ティキは、黒ずくめの男にそのバッジを渡した。バッジを受け取った黒ずくめの男は、そのバッジをジッと見つめるとティキに言った。

「少々お待ちください」

 その言葉を放つと、軽く頭を下げ、サングラスの男は再び豪邸の中へと入っていった。その間も、他の二人の男はティキと依頼主を見張っている。しばらくすると、中に入っていったサングラスの男が戻ってきた。

「失礼しました。中へとご案内します」

 どうやら、リディアから貰ったバッジが役にたったようだ。ティキと依頼主は、サングラスの男に連れられ豪邸の中へと入っていった。


 ドアの前まで案内すると、サングラスの男がドアを開ける。

「さぁ、どうぞ。デリューム様がお待ちです」

 ティキと依頼主は、招き入れられるままにさらに中へと入っていく。そこには、タキシードに身を包んだきりっとした顔の男が立っていた。

「いやいや、お待ちしておりました。私がデリュームです。国の高官の方でしたよね。一体なんの用でしょう? 国に対する融資の件ですかな?」

「あ、違うんだ。俺達は、そんな用で来たんじゃないんだ」

 ティキは、デリュームにことに全てを話した。今度のオークションに出される品物のこと、それが依頼主の息子の作品であること、それを譲って欲しいということ。

「なるほど、事情は分かりました」

「え、じゃあ……」

「しかし、それは無理な話です」

 一瞬、期待はしたのだが、予想していた通りの答えが返ってきたので、ティキは心の中で『やはり』と思っていた。

「やっぱ、いくらなんでも高額な物を他の人に譲るなんて出来ないよな」

「あ、いえ。そういう意味ではありません。ただ私は、その商品を落札する気がないのです」

「え?」

 ティキも依頼主もその言葉には、さすがに驚いた。なにしろ前提がまず、落札するだろうから。ということだったからだ。落札しない。その言葉の真意をティキも依頼主も聞いてみたかった。

「あなた達も知っての通り、私は彼の作品が好きで集めているコレクターです。世界的にも高い評価を受ける彼の作品には、その視野の広さがあります。視野の広さは心の広さ。万人に受け入れられるその作品のテーマが、ここまで高く評価される理由でしょう。しかし、彼のその一作品目の作品。私も、オークションのカタログで始めて見た時は心を奪われましたが、すぐにそれは違うと気が付きました」

 依頼主は、デリュームの言葉をしっかり聞いている。

「一作品目の作品には、彼のテーマであるはずの視野の広さ。心の広さがない。あれはまるで、一個人のためだけに造られた作品のようだった。それに気が付き分かったのです。あの作品は私が持つべきものではないと。それが、私があの作品を落札しない理由です。しかし、彼の一作品目。プレミア的な意味での価値は非常に高い。彼のファンは私だけではない。きっと他の誰かが落札するでしょう。ですから、他の誰かに頼まれたほうが良いかと思います」

 ティキは、もう半ば諦めていた。落札するつもりがない。すでに前提として違っている相手に、品物を譲ってくれというのは、服を着ていない者に服を脱げと言うもの。不可能だ。そして、ティキは他の方法を取ろうと帰ろうとしたとき、先ほどまで黙っていた依頼主が口を開いた。

「すいません。息子の作品を見せてはいただけないでしょうか?」

 デリュームは依頼主の言葉に笑顔で答えた。

「ええ、いいですよ。ギャラリーにご案内します」


 ティキと依頼主は、デリュームに連れられギャラリーへとやってきた。そこは、依頼主の息子の作品が多数並べられていた。しかも像を保存する上で最も適した方法で保存されていたのだ。

「へぇ、綺麗なもんだな」

 ティキには、芸術に対する知識はほとんど皆無だが、そんな素人のティキでも綺麗だと分かるくらいしっかりと保存されていたのだ。依頼主は、作品の一つ一つをしっかりと見るように眺めていっている。しばらく眺めていると、ある作品の前で立ち止まる。

「これは……」

「それは、彼の五つ目の作品ですね。テーマは翼ですね。彼の全体のテーマである広さが、より顕著に出ている名作ですよ」

 その作品は人と翼が融合し、まるで天使のように描かれた銅像だった。

「この作品を生み出すのに、彼がどれだけ苦悩したのか。我々コレクターの間でもよく討論されます。そもそもその作品は……」

「……違うんです」

 デリュームの言葉を依頼主の言葉が遮った。

「この作品は、息子の夢でした。小さい頃からの夢。地上を追われ空に住まうようになった私達が、それでもなお青い空へと飛び立てない。しかし、翼があれば、空へと旅立てる。息子がずっと言っていたことです。この作品は、そんな息子の夢が詰まった作品なんです」

 依頼主の言葉にデリュームは返す言葉がなかった。コレクターである自分よりも、作品のことをよく分かっている。しかも芸術としての評価ではなく。心のありかとしての評価。見るところも感じるとこも違う。しかし、デリュームの心には、それは確実に響いていた。

「すばらしい。一つお願いしてもいいですか? 他の作品についても、あなたの知ってる彼の心を教えていただけませんか?」

「え、ええ? 大したことは出来ませんが、それでもよろしければ」

「是非、お願いします」

 依頼主とデリュームは、作品について語りだした。芸術に関してはまったく無知であるティキは完全に蚊帳の外。ティキはなにかを確信したのか。なにも言わずにその場を静かに去っていった。


 帰り際にサングラスの黒ずくめの男に会った。

「おや、もうお帰りですか?」

「ああ、俺は必要ないみたいだから帰るよ」

「そうですか。お気をつけてお帰りください」

 ティキは、サングラスの男に見送られ一人先に、帰っていった。



 


 ティキは、リバティーの洗車をしていた。

「おーす、ティキ」

 突然、背後からかけられた声に驚き、ティキは後ろを見る。そこには、リディアがいた。

「なんだ、リディアか。てかお前ってなんかいつも突然現れないか? 忍者か、お前は」

「失礼ね。それより、あの依頼はどうなったの? あの銅像のやつ」

「あー、あれか。昨日手紙が来てたんだ。ちょっと待ってな。持ってきてやるよ」

 そういうとティキはルティーの中へと入り、手紙を持って出てきた。そして、それをリディアへと手渡す。リディアは、それを受け取るとその内容を読み始めた。

 要約するとそこには、あの後無事に銅像を譲り受けることができたということが書かれていた。

「へぇ、じゃああたしの作戦は成功したのね?」

「ああ、でも俺は途中で帰ったからよくわかんねぇんだけどな」

「え? なに、仕事放棄?」

「違うって今回実質、俺は必要なかったのさ。依頼主のおっさんがほとんど一人でやったんだ。おっさんとお前が紹介したコレクターと作品について語り合ってたから。たぶん、気が付いたんじゃねぇか?」

「気が付いた?」

「ああ、芸術なんてまったく無知な俺でも気が付いたよ。おっさんの息子の一作品目の作品は、おっさんのためにだけに作られたんだ。あの作品を持つべき人間は、他の誰でもなくおっさんだったんだ。きっと、あのコレクターもそれに気が付いたんじゃないか? だから、落札しておっさんに譲ったんだと思うよ。ま、あるべき場所へ返ったってことだな」

 ティキは、少し嬉しそうな表情で言う。

「ティキ、なんだか嬉しそう」

「う、うるせぇ。いいから読んだならその手紙返せよ」

 ティキは、リディアから手紙を奪い返した。ティキがまったく否定をしなかったということは、やはりティキも嬉しかったのだろう。

「それより、お前なにしにきたんだ? だいたい、お前が来るとろくなことがないんだけど」

「あら? この間は誰のおかげでコレクターの元にたどり着けたんだっけ?」

「……」 

 ティキは、なにも答えない。

「まぁいいけど。今日はね。あんたに依頼を持ってきてあげたのよ。ありがたく受け取りなさい。どうせ、この間のもただ働きだったんでしょ? まぁ、外で立ち話もなんだから、中でコーヒーでも出して」

 そういうと、リディアはルティーの中へと入っていった。

「あのな。それはお前が言う台詞じゃないだろ?」

 ティキも、リディアの後を追ってルティーの中へと入っていった。

 

 ルティーの横には、今日も綺麗に磨かれたリバティーが太陽の光に照らされ、まぶしいくらいに輝いていた。


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