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Act1:男と少女とクマのぬいぐるみ

以前、投稿していた内容をそのままに誤字などを修正し、再投稿しています。かなりの長編ですが、自信作ですので是非読んでみてください。設定をかなり練りこんであるSFファンタジーです。


 街の片隅のとある場所に、それは建っていた。



 その建物のドアの上にはLUTEEルティーという文字の看板が掛けられている。その建物は外壁が白いレンガで組まれていて、パッと見綺麗に見えるのだが、よく見るとそれほど綺麗でもない。どうやら洗ってもすぐには落ちないタイプの汚れがついているらしい。



 そんな建物に近づく七、八歳ほどの一人の少女がいた。少女は少し困惑しているかのような顔つきで、恐る恐るその建物のドアを開ける。中はさらに殺風景。部屋の中央に机と椅子があるくらいで他にあるものと言えば……冷蔵庫だろうか。生活用品がほとんど揃っていないんじゃないかと思えるようなくらいなにもない。

 

 そんなことを思いながら部屋の中を見渡していると、部屋の奥に見えるドアが開き、中から若い感じの男性が上半身裸で出てきた。なかなかの体格をしている男は銀色の髪をしていて、その瞳は金色だった。少女は見たことのないその瞳の色に少し驚きながらも、男性を見ていた。

「はぁ……なんか腹の調子が悪いんだよなぁ。やっぱ胃薬ちゃんと飲まないと駄目だな」

 ため息をつきながら独り言を言い終わった後、その男は目の前にいる少女に気がついた。

「あれ、どうしたのお穣ちゃん? かくれんぼで人の家に勝手に入り込んできちゃ駄目だよ」

「か……かくれんぼじゃないもん! ここって依頼すればなんでもやってくれるお店なんでしょ?」

 少女は少し怒り気味で言い放ちながら、疑問に思ってることを聞いた。

「そうだけど、かくれんぼの隠れ場所にするって依頼はちょっと……」

「だから違うってば!」

 少し怒り気味だった少女は遂に本気で怒り出した。

「あ、そうなの? じゃあ何かな? 依頼を受けるっていってもお金がいるんだけどな」

「お金は後で払うから。だから、セリナと一緒に来て」

 セリナというのは少女の名前らしい。自分のことを名前で言う辺り、やはり子供だ。

「ちょっと待ってよ。来てってどこに? なんで?」

 セリナは少し沈黙した後に言った。

「あのね。セリナが大切にしてたクマのぬいぐるみを失くしちゃったの。お願いだから一緒に探して」

 どんな依頼かと思いきや、クマのぬいぐるみを探してほしいということ。男は少し緊張感が溶けたような面持ちになった。

「んー。探してやりたいのは山々だけど。お兄ちゃんも忙しいからね。そういうのは家族の人とか、警察の人に……」

 警察の人になんて言ったけど、警察に言ったところで相手にされないのは同じだろうと男は思った。

「嘘だー。ほんとは暇なんでしょ? お腹壊して独り言とか言ってるくらいだもん。お母さんが言ってたよ。独り言を言う人は寂しやがり屋さんだから、話し相手になってあげてねって」

「あ、そう……。やさしいお母さんだねぇ。だったらそのやさしいお母さんに一緒に探してもらいなさい」

 男は少しムキになっているようだ。

「駄目なの。あなたじゃなきゃ駄目なの!」

 芝居染みた台詞を言うセリナを横目に、ため息をつく男。

「なんなの? なんか訳ありってやつ? 話してみ、お兄ちゃんが聞いてあげるよ」

 そう言うとセリナは男に向かってその訳を話し出した。

 

 セリナによると、失くしたクマのぬいぐるみは誕生日に親からもらった大切なものだという、友達の家に遊びにいった帰りにどこかで失くしたようだが、どこで失くしたのか分からないという。そこでなんでも依頼すれば引き受けてくれるという男の元へと、一緒に探してもらうために来たそうなのだ。

「えーと。今の話の中に俺じゃなきゃ駄目だって言う部分があったか?」

「いいから、とにかく一緒に探してよ」

 このままではラチがあかないと、男の心はセリナの強引な押しに遂に折れた。

「分かったよ。探せばいいんだろ。探せば」

「ホント? やった。ありがとう。そうだ。お兄ちゃんの名前はなんて言うの?」

「俺か。俺の名前は”ティキ”だ」

「なんか、気の抜ける名前だね……」

 なんかこの子、時々カチンと来るんだよねと思いながらもティキは上着を羽織ると、セリナと一緒に街へと足を運んだ。


 ティキが住む街は、なかなか活気のある街だ。国の中央には中央官邸という役所の大きな建物がり、ティキ達のいる場所からもその建物がよく見える。その中央官邸はある意味では国のシンボルとでも言える。

「それで、どの辺で失くしたの? 正確な場所が分からなくてもだいたいこの辺かなぁってのがあるでしょ?」

「んー。わかんない。でも、あの日は帰りにあっちにある倉庫のほうへ行ったの」

 そう言いながらセリナはその倉庫があるほうを指差した。

 

 ティキはその方向を見る。セリナが指さす方は、賑やかな街の中心街からはずれたあまり人が近寄らない場所だ。というか近寄る理由がない。今は、朽ちた建物が少し残されている程度で、不良や、若い怖いもの知らずの連中が集まるような場所だ。そんな場所に十歳にも満たない小さな少女が一体なんの目的で行くというのだろうか。そんな疑問を抱きながら、ティキはセリナが示す方へと足を進める。

 

 しばらくいくとセリナが示した倉庫が見えてきた。この辺は街の中とは違い人の気配がまったくない。当然といえば当然なのだが。

「おいおい、ほんとにこんなところに来たのか? よく一人で来たもんだな」

「うん、ごめんね。セリナも来たくはなかったんだけど……」

「あん? どういう……」

 ティキがセリナの言う言葉の意味を聞こうとした時、背後に殺気に似たものを感じ、とっさに身体を引いた。そこには黒い服を着た人間が数人立っていた。

「おいおい、こりゃあどういうこった?」

 ティキの放った疑問を聞いていたのか、目の前にいた黒い服を着た男の一人が言う。

「フフフ、まんまと罠にかかったな。その少女はお前をおびき寄せるための囮だったのさ」

「囮? おいおいあんた等、誰かと人違いでもしてるんじゃねぇか? 俺はお前らのことなんて……」

 すると、黒い服を着た男は、ある物を取り出した。それに少女は反応する。それは、クマのぬいぐるみだった。

「これを探していたそこの少女と偶然ここで会ったんだ。そこでその少女と約束した。お前を連れてくれば、このクマのぬいぐるみは返してやるとな。”銀色の髪の戦士”……」

 その言葉にティキは反応する。

「なるほど、クマのぬいぐるみを人質にしたってわけか。相変わらずやることがセコいんだよ。”星の導き”」

「人質? 勘違いするな。ただのぬいぐるみだぞ。お前さえくれば、こんなぬいぐるみなんかに用はない」

 そう言うと、男はぬいぐるみを地面へと落とし、足で踏みつけた。

「あ、ひどい! 返してくれるって約束したのに」

 セリナの目からは雫が零れている。

「約束? 覚えてねぇなぁ」

 黒い服を着た男は笑いながら言う。しかし、その笑いはすぐにかき消される。

 ティキの拳が男の頬を真芯で捕らえたからである。殴られた男はその勢いで仰向けに倒れる。それを見ていた周りの奴がティキのほうを睨みつけて言う。

「き、貴様っ!」

「俺も、約束の一つも守れねぇような奴だから、約束は守れとは言わねぇ。……けど、本当に大切なものが何かってことは痛いほど分かってるつもりだ」

「あ? なに言ってやがる」

「わかんねぇか? お前らじゃ俺には勝てないって言ってんだ」

 ティキの言葉を聞く間もなく、その場にいた数人の男がティキに向かって殴りかかってきた。あるものはナイフを取り出し、あるものは銃を取り出し。しかし、ティキはそんなことにも怯むことなく、次から次へと襲い来る男達に拳を浴びせ、気絶させていった。そして、その場にいた黒い服を着た男達全員を気絶させるのに五分とかからなかった。



「よう、大丈夫か?」

 泣きじゃくるセリナにティキは話しかけた。セリナは泣きながら、ティキのほうを見た。そして、ティキの後ろで倒れてる男達を見てティキに言った。

「あのヒドイ人達、みんなやっつけたの?」

「ああ、お仕置きしてやったぜ。ホレ。探しもんだ」

 ティキはそういうとクマのぬいぐるみをセリナに渡した。

「……ありがとう」

 セリナは涙を拭き、笑顔で答える。

「それ、大切なもんなんだろ?」

「うん、お母さんとお父さんからもらったんだよ」

「そうか。自分の大切なものを見つけたんなら、絶対離すんじゃねぇぞ。そんなもんそう簡単に見つかるもんじゃないんだ。少し汚れたけど、お前がそいつを想う気持ちは、決して汚れてねぇんだからよ」

 セリナはキョトンとした顔をしている。でも、子供ながらにその言葉を理解したのか。笑顔になると、頷いた。

「さて、依頼終了っ! んじゃあ帰るか。送ってってやるよ」

 ティキは、セリナに手を差し出す。セリナは、差し出された手を掴むとティキと一緒に歩いていった。

 

 ――その背に確かな想いを乗せて。



設定資料は以下のサイトにて公開中です。

http://www13.atwiki.jp/riku-u/

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