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第6話 御冗談を

 今日はアルタート王国第2王子のネフト殿下の10歳誕生日パーティ。


 日々、魔法の研鑽(けんさん)という名の遊びにかまけている私であるが、流石(さすが)に王族のことやアルタート王国のことをあまり知らないままではおちおちパーティにも行けないので、この1週間は教養の勉強にも精を出した。

 ……そこ、付け焼き刃とか言わない。

 一応普段から勉強しているし、復習だよ復習。


 アルタート王国は今から約500年前に、魔王を打倒した勇者と聖女によって建国された由緒ある王国。第2王子のネフト殿下を始め、王族の方々は勇者の子孫というわけだ。

 勇者によって建国されたというだけあって、アルタート王国では「武」を(たっと)ぶ。


 現在の王様も、15歳にして単独でドラゴンを倒したりとか、魔境と呼ばれる森を自分の庭のようだって言ったりとか、色々とすごい武勇をもっている。王族や貴族、トップに立つものは「武」に優れていないといけない、という考え方がこの国には一般的に浸透している。



「うわぁ、すごいきらびやかね……!」


 パーティ会場について、まず目に入るのはその豪華絢爛(けんらん)さ。フレイグル家も辺境伯というかなりの大貴族だし、度々(たびたび)パーティもして豪華にやっているけれど、レベルが違う。さすが王家。

 小学校の体育館くらいは広さが有るんじゃないかと思えるくらいの大ホールに、天井からこれでもかと装飾したシャンデリアがいくつもぶら下がり、会場をまばゆく照らす。


 開始時間までまだ少し有るのであたりを見回すといかにも貴族っぽい()で立ちの人がたくさん。


 私はあまり貴族には詳しくないので、どの人がどの領地を(おさ)めているとか知らないし、顔もよく分からないが、あたりにいる大人たちは高そうなタキシードに身を包み、奥様方はきれいなドレスを身にまとっている。

 服装だけで頭が痛くなるような金額を使っているんだろうな。

 こういう貴族が多く集まるパーティで下手な服装をしようものなら、きっと他の貴族たちから白い目で見られ指さされて笑われるんだろう。服にお金をかけて自分を着飾るのも貴族の仕事なのだ。


 かく言う私も嫌々ドレスを着させられている。きっとこのドレスにも大金が使われていることだろう。



「うわぁ、美味しそう……!」


 今回は立食パーティーのような形式で、真っ白なテーブルクロスが引かれた机の上には美味しそうな料理の数々が並べれている。

 文字通り、王国随一の料理たちだろう。早く食べたい。


 ……コルセット(ゆる)めたいなぁ。


 今世の私は一応女の子なので、コルセットをつけてくびれを強調することを強要されている。お腹が締め付けられて苦しい。ご飯も思うように入っていかないだろうな。悲しいかな。

 てか別にコルセットいらなくない?

 今世の私、新陳代謝がいいのか食べても太らないし、私ってばめっちゃ痩せてるじゃん? コルセットで更に締め付ける必要ない。……なくない?


「はは。ミラハ、興奮するのは分かるが、もっとお(しと)やかにな。それに、残念ながら食べられるのはもうちょっとあとだ。

 もうすぐ王様からお話があって、お話が終わったら私と一緒にネフト殿下のところに挨拶に行かねばならない。食べるのはもう少し我慢しなさい」


「……別に興奮などしておりませんが、分かりました」


 嘘です。興奮しました。

 前世はもちろん今世でも食べ物に関して苦労したことはないし、美味しいものも食べてきたけれど、王家の料理も美味しさのパラメーターが振り切れてそう。早く食べたい。

 早く食べたいが、今日の誕生パーティは別に遊びに来ているわけではない。父上の仕事の一環で来ているのだ。ネフト殿下との挨拶、他の貴族への挨拶も有るだろう。仕方がないがもう少し我慢だ。


「ほら、始まるぞ」


 父ウルアザがそう言うと、会場の奥にある壇上が光で照らされる。

 王様と王妃様と、今回のパーティの主役であるネフト殿下が現れた。壇上に用意された王様達専用のテーブルにつき、音声を拡張する魔法具(要するにマイクみたいなもの)を手にとって王様が話し始める。


「今宵は我が息子ネフトの誕生パーティによくぞ集まってくれた。

 ネフトは今日で10歳という節目の年を迎えることが出来た。この素晴らしき日を祝うため、ささやかながら宴を用意させてもらった。存分に楽しんでいってくれたまえ」


 このパーティをささやかな宴と称しましたよ。さすが王様ですね。スケールが国家クラスだ!


 主役のネフト様も王様の隣りにいるのだが、いかんせん、今いる場所が壇上から遠くてここからだとよく見えない。まあ、あとで父上がネフト殿下に挨拶にいくと言っていたから、そのときにそのご尊顔を拝見しよう。


 ネフト殿下はゲームに登場する攻略キャラの一人だ。ゲームのストーリー的にも重要な役割を担っている。

 ……ついでに言えば、(ミラハ)の断罪イベントでも重要な役割を担っている。ミラハがギロチンで首をポロリしたのもネフト殿下のせいだ。まあ、もともとの原因はもちろんミラハに有るわけだが。



 王様の言葉も終わり、パーティが開始される。

 とっとと食事をしたいところでは有るが、そのうち殿下と王様に会いに行くのだ。「うわ、お前歯に肉が挟まっているぞ」なんて言われないためにも今は我慢だ。



「さてミラハ、私達も王や殿下に挨拶に行くとしよう」

「わかりました」


 少し間を置いて、他の貴族の方々が殿下たちへの挨拶が終わったのを見計らって、父上と一緒に壇上へと向かう。


 父上がネフト殿下に誕生日のお祝いを言って、次いで王様に挨拶をする。

 随分と仲良さそうに王様と話しているが、会話の内容からするとどうやら父上と王様は学院で同じ学級だったらしい。学院内では身分の違いで差別・区別しないというルールが有るし、もしかしたら父上って王様とマブダチだったりする?


 まあ、そこらへんは家に帰ってから聞けばいいだろう。

 私もネフト殿下に誕生日のお祝いを言おう。


「ネフト殿下、10歳の誕生日おめでとうございます」


 ネフト殿下、近くで見るとめっちゃイケメンだな。

 さすがゲームの攻略対象キャラなだけはある。

 均整の取れた顔立ちで、まだ幼いので顔の輪郭に丸みがあるが、目は切れ長できれいな青色の瞳をしている。髪色は王様と同じく金髪。


「ああ。

 ……ほう、貴様なかなか……」


 私が挨拶をすると、ネフト殿下は興味なさげに「ああ」とつぶやいたが、私の方を見ると声色を変えた。そして私を舐め回すように見はじめた。


 え? なに?

 殿下、そんなマジマジと見られても……! はっ!? もしや殿下、私のあまりの美貌に心奪われてしまったのか?! そうなのね!!

 これはいけない! 某大泥棒Ⅲ世みたいに心を奪ってしまっては、ゲームの主人公ちゃんの恋を邪魔することになってしまう!


「貴様…… なかなか良い魔力をしているな。その年で鍛錬もよく(おこな)っているらしい」


「……はい?」


 私の美貌に惚れたのかと思いきや、違うらしい。

 急に魔力を褒められた。


 ?


 おかしい、私ほどの美少女には「初手容姿褒め」がテッパンなはずなのに…… 「初手魔力褒め」はおかしい。おかしくない?

 いやまあ、殿下の言う通り魔力の鍛錬……と言うか、魔法でよく遊んでいるけれども。なぜ分かったし?


「ああ、すまんな。俺は“視る”だけである程度分かってしまう、少し特殊な“目”でな。

 フレイグルは極悪非道で下劣などと貴族の間で陰口を叩かれているが、父上が信を置く家なことだけはある。才能はもとより、その才能を活かす努力も怠らない。

 ……くくく、やはり実際にその人間を見なければ分からぬな。伝聞ほど不確実な情報伝達手段はない。貴様もそうは思わぬか?」


「え、ええ。まあ……」


 殿下がなんか一人で盛り上がっているけれど、よく分からない。くくくって笑ってるしどこかがツボだったんか。


 あと、たぶん私、普通に褒められている。

 なんだ、なんだ。王子様っていうから、てっきり俺様系、尊大横柄横暴な性格かと思ったら意外といい人じゃん!


 すると殿下は右手をスッと差し出してきた。


「この国はいずれ、過去には乗り越えられなかったほど大きな国難を迎える。そのときにはこの国のすべての者が一丸となり、ことに当たらねばならぬ。

 貴様はその時に重要な役割をきっと果たすだろう。よろしく頼むぞ?」


「国難、ですか…… 私にできることはたかが知れていると思いますが…… もし仮に、伝説の勇者や聖女みたいな人たちが現れたら、そんな彼らを手助けする、くらいのことはできる限り頑張りましょう」


 私は殿下に出された右手を取り握りかえす。


 殿下が言っている国難とは、きっと魔王が復活することだろう。魔王が復活することはとりあえず、私が知る限り、まだ(おおやけ)にはされていない。しかし、王族ならゲーム開始5年前である今の時点で知っていて何もおかしくない。


 まあ、魔王が復活したら、普通に私も困るので手助けはするけれど正直、あんまり期待しないでね。私、後方支援専門なんで…… 前線で魔王と戦って死ぬとか嫌ですし……

 まあそもそもゲーム通りなら聖女の主人公ちゃんと、殿下たち攻略対象キャラたちが魔王倒してくれるから、私は後ろから見てるだけで大丈夫なはずだ。


「くくく、貴様もその勇者一行の一員やもしれぬぞ?」


 やっぱり殿下の笑いのツボはよく分からん。


「御冗談を」


 私はただのサブキャラだ。





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