第10話 謁見(表)
私、ミラハ! 15歳!
昨日学院に入学して、キャッキャウフフの青春アオハル学院生活に心躍らせていたら、いきなり国のトップに会えって言われたの!
ど う し て こ う な っ た
……デジャヴュですねぇ。
昨日はアルタリト学院の入学式だった。つまり、乙女ゲーム『剣と魔法と貴公子たち』のゲームスタート日だ。私にとっては自分が生き残るためのサバイバルゲーム……いや、デスゲームが始まった日だ。
そして、入学式ではステータスの測定が行われて、その結果によってクラス分けをするらしい。
なので昨日は入学式だけをやって、とりあえず解散。次の日からいよいよ学院生活の始まりだ!って言うはずだったんだけど……
「おかしいですわ。なぜ私は小綺麗な格好をして王城でお茶を飲んでいるのでしょう」
カタカタカタカタカタとティーカップを持つ右手が震える。
やっぱり身体は正直なのね! 頭は冷静だけど、この意味不明な状況に恐ろしさを感じてしまうのね!
私のステータス測定結果はレベル78。
割とレベルが高くてそれなりにステータスも良い……と思う。
測定装置を壊したんじゃないかと思って昨日は焦ったけど、ヒゲモジャ教授の話を聞いてみると、どうやらそうじゃない。最近、魔物が増えたり、魔物による被害報告が増えているのは実は魔王の復活の兆しで、アルタート王国は伝説のように魔王を倒してくれる勇者と聖女とその仲間を探している。
ヒゲモジャ教授はどうやら王様から将来有望そうな優秀そうな子が居たら報告するように依頼されていたらしい。
なるほど、攻略対象キャラやゲームの主人公ちゃんが王城に呼ばれて、魔王討伐のメインクエストを依頼される裏側ではこんなことが起こっていたんだね。身を持って知りました。
やるじゃんヒゲモジャ教授。よっ、縁の下の力持ち。
んで、私もその「将来有望そうな子」だと思われて今回王城に呼ばれたらしい。
たしかに私は同年代の子達に比べたらある程度は強いだろうけれど……
今でこそレベルで勝ってるし、ステータス差もそれで埋まっているけれど、結局ネフト殿下や主人公ちゃんズにステータスぶち抜かれて終わりますからね。
最近はレベルも上がりづらくなってきているし、ここらへんが私の成長の限界な気がしてくる。
ていうか、王様に「こんな子がいましたよ!」って報告するだけで良くない? 別に王様に直接会う必要なくない? 王様だって忙しいですよ! 私も忙しい!
せっかくゲームのストーリーが始まって、アレヤコレヤの思惑を働かせようと思っていた矢先にこれだよ!
気分は入学初日に欠席してしまって次の日に登校したらもうある程度コミュニティが出来ていてボッチになってしまう人ですよ! ま、気分じゃなくて実際そうなりそうなんですけどね! あっはっは! ……はは。
まあでも、王様に会って個人的なコネを作るのも悪くないな!
そうだそうだ! なにも悪いことではない!
記念すべき学院生活1日目が王様との謁見で潰れたとか全然関係ないな!
「ミラハ=フレイグル様。
王がお呼びです。私めに着いてきてください」
「ええ、分かったわ」
王城の一室、つまり客間でそんな思考を巡らせているとお呼びがかかった。
私の内心が混乱していることをさとられないように、(といっても、私の口調はお嬢様フィルターが掛かって勝手に修正されるのでそもそも内心を悟られにくいと思うが)平静を装って了承する。
呼びに来た身ぎれいな王城の使用人について行き、王様がいるという一室に案内された。
通された部屋の大きさはあまり広くなく、さっきまで居た客間くらいの広さだった。部屋の中には王冠を被った、いかにもな王様と、偉そうな人が王様の左右に1人ずつ。王様含めて計3人だ。
あれ~?
なんかこう言うのって、めちゃくちゃ広い間で、王様が玉座に座ってこちらを見下ろして、部屋の両側には何人もの兵士が控えている場所で謁見するんじゃないのか。なんか部屋ちっちゃくない? 気のせい? 遠近法かなにか?
「キミがミラハ君か。……そこに座りなさい」
声をかけてきたのは王様ではない人。
偉そうな(実際に偉い人っぽい)初老の男性に声をかけられて私は言われたとおり椅子に座る。
正面にいるのが王様で、その両脇に偉そうな人が一人ずつ。
私はおっさん、王様、初老の男性の3人にガン見されて彼らの正面に座る。
……なんだろう、裁判所で判決を言い渡される被告人みたいな気持ちになってくる。
裁判長が王様で、その両脇にいる人が検察官と弁護士、みたいな。
もしくは圧迫面接かな。
「ミラハ、私のことは覚えているかな? 前にあったのが5年前か… 随分と立派なご令嬢に育ったようだ。ウルアザのやつも鼻が高いだろうな」
「もったいないお言葉です。……お久しぶりでございます、陛下」
そう、私は王様に会っている。5年前のネフト殿下の誕生パーティだ。
あの誕生パーティの後、父上に聞いた話によると、父上と王様は割と仲がいいらしい。私のこともある程度『知人の娘』として優しく見てくれる……と思う。
しかし、両サイドの御仁たちは違う。きっと国の重鎮たちだ。粗相があったら比喩表現ではなく私は殺される可能性すらある。なぜならここはミラハに対してめちゃくちゃ厳しい世界なのだから。
そう、これは一種の圧迫面接。
この圧迫面接を必ずや快勝で終わらせてみせましょう。いえ、辛勝でもいい。勝てばよかろうなのです。勝てば官軍負ければ賊軍。勝てばそれが正義だ。
「ん? ああ、私の隣にいる者は…… なんというか、キミをどんな人物か知りたいようでね。同席してもらっているが気負う必要はない」
やっぱりこの重鎮たちは私を品定めしているのね!
あわよくば断罪イベント起こそうとしてるんでしょ! ……まあ、知らんけど。
「ミラハ、キミはなぜここに呼ばれたのかは聞いているかね?」
「ええ、魔王が復活する予兆があり、魔王討伐に備え、国はそのメンバーの目星をつけていると伺っております」
私が言い終わると、王様は静かに目を伏せ、意を決したように目をすうっと開き力強く答える。
「そうだ。魔王は500年前に勇者達によって封印された。だが、近年その封印の力が弱まっているとされている。ああ、これは機密事項だ。他言無用で頼むぞ。
そして、魔王は強力だ。普通の人間には太刀打ち出来ない。伝説で勇者たちがそうであったように、ミラハのような優秀な人材がことに当たらねば、アルタート王国だけではない、人類の存亡に関わる。
率直に言おう。直ぐにではないが、ミラハには魔王討伐のメンバーに加わってほしいと思っている」
私に魔王を倒せと申しますか。
いやまあ、確かに将来的には強くなりそうな感じがするかもしれませんがね、私、たぶんそろそろ成長限界なんですよ。早熟型なんです。たぶんこれ以上はメインキャラにはなれない私はステータスも伸びていかないんです。
というより、そもそも魔王と戦うとか、無理無理無理。
怖いよ。やばいでしょ。人類を滅亡できるほど強いやつと戦えるかっていうの。
丁重にお断りしよう。
「過分なお褒めをいただきまして恐縮です。
しかし、私が魔王討伐のメンバーに加わるのは相応しくありません」
「…! なぜだ」
私の言葉を聞いた王様はカッと目を開き、まるで溶岩を溶かし混ぜたような低い声で問いただす。
……こえーよ!
王様怖いですよ!
やはり『王様』だ。一国を背負うことだけはある。
知人の娘であろうと、情けはない。国の利益に反する者に対しては慈悲なく殺す覚悟がある目だ。
これはまずい……
“魔王強そうで怖いんでやめます――――☆”とか“自分の命が可愛いので無理です――☆”とか言おうものならその場で銃殺される勢いだ。まあ、銃はこの世界にないけど。
慎重に言葉を選ぶのだ……
私じゃなくて、他に適任者がいるから、そっちでお願いします!
「魔王討伐は、伝説になぞらえて少数精鋭のお考えと存じます。人数が不必要に多ければ指揮系統の崩壊、或いは死体を増やすだけでしょう。
そういたしますと、わたくしをメンバーに加え、いたずらに人数を増やすのは得策とは言えません。それに――、今はまだ十分な力を持っていないかもしれませんが、伝説の勇者にも匹敵する人材が今後でてきます。わたくしに入る余地など無いのです。
私など――、取るに足らない小さな小さな路傍の石なのです」
私は内心ガクブルなのをこらえて、なんとか静かに、力強く、理知的にしゃべる。
王様は私の言葉を聞き終えると、私の瞳をじっと見る。それは品定めしているかのように真剣な眼差し。私の言葉の真偽を疑っているのだろう。
……そろそろ見つめなくても良いんじゃないです? 見つめ過ぎです。 え、怖いんですけど――? 目を逸してもいいですか? あ、別にやましいことはないですけどね!
「……そうか」
よかった。王様が折れてくれた。
これで人類VS魔王の最前線に行かなくて済むぞー! やッフ――!
「しかし、わたくしにできることが有れば全力で支援はさせていただきたく存じます」
おっとー、ここで私ちゃん、最前線には行かないということを念押しでアピールしながらも、影からサポートすることを強調し、協力はしますということをさりげにアピールだーー!!
「そうか――。そのときはよろしく頼むぞ」
王様は威圧感の有る表情から一転、フッと優しそうな笑みを浮かべたー!
カンカンカンカン!
勝者、私ちゃーーん!
とりあえず最前線には行かなくて済みそう。私はもうちょっと長生きできそうだ。
ナイス、私。




