女官になる
翌朝、姑姑に私は呼ばれた。
「先程、潘夫人様からお前を勤侍にすると命令が下った。これから茶房に移動となる。勤侍となれば身の回りの世話をする宮女が必要だ。誰か選べ」
「かしこまりました。ならば香児を推薦しとうございます」
「よろしい」
私は自室に戻り荷物をまとめた。すると外からヒソヒソと声がする。
「なんでいきなり勤侍に?」
「伝でもあったのかしら?」
「失礼よ!勤侍様に!」
「そうよ。あたしら宮女より、ずっと身分が上なんだから」
ゲームでもそうだった。確かそんな話になっていた。
私は気にせず荷物をまとめ終えると香児を連れて茶房に向かった。
茶房に着くと宮女たちが私たちを待っていた。
「勤侍様にお目通り致します」
全員にそう言われて改めて身分というものの凄さに気がついた。
生きていくためには昇進だ!
そう思った。
「これより、夫人方のお茶とお菓子を用意します」
「かしこまりました」
どうやら、私が茶房の姑姑らしい。宮女だけで回していた部署らしいから勤侍が来て安堵したらしい。
荷物を個室に置くと早速、白いエプロンをして厨房に入った。不思議なことにお菓子が作れるようになっていた。ゲームをしていただけなのにこんな能力が身につくとは思わなかった。
出来上がったお菓子を宮女たちに夫人方へ届けるように命令をした。
私が厨房にいる頃、香児に部屋掃除を頼んだ。
すると香児が慌てて厨房に入ってきた。
「勤侍様、歩夫人様がお見えです!」
「えっ!歩夫人が?」
歩夫人とは後宮を潘夫人と共同で管理している夫人である。
しかも、殿、いや、孫権様の寵愛する夫人でもあった。
「私に用があるの?」
「わかりません。ですが、勤侍様が出向かれた方が良いかと…」
香児の言葉で私はエプロン姿のまま中庭に飛び出した。
歩夫人は用意されていた丸椅子に座っている。
「歩夫人様、ご機嫌麗しく…勤侍の玲と申します」
私は頭を下げた。
「そなたですか、潘夫人の推薦で茶房の勤侍になった女官は」
柔らかな声だった。
「はい」
「潘夫人から聞いています。気の利く娘だと」
歩夫人は微笑んだ。