浣衣局
スマホゲームを開いたまま寝た私。名前は玲。
目覚めると固いベットに横たわっていた。
見覚えがある場所だった。ゲームの中で主人公が初めて働く浣衣局の寝室だ。
私は身支度を済ませて肉まんを頬張ると浣衣局の前にある中庭に整列した。
御局の姑姑から今日の仕事を振り分けられる。
浣衣局は洗濯物を扱う部署で水汲みやら何やら雑用も多い。私はゲームをやり始めたばかりだから浣衣局までのルートしか知らない。
姑姑が言った。
「玲は水汲み!」
「はい」
また、水汲みかと思いながら木製のバケツを持って井戸に向かった。
そこに向かう途中、着飾った女性の一団に出くわした。
後宮の潘夫人だ。
潘夫人が歩いていた時、突然、彼女がよろめいた。
咄嗟に私が潘夫人の体を支えたが倒れてしまった。
お付の着飾った女官は慌てている。
「夫人、お怪我は?」
「こなたは大事無い…しかし、足をひねったようじゃ」
そう言うと潘夫人は右足首をさすった。
私は持っていたハンカチを濡らして潘夫人の足に巻いた。
手際が良いのはゲームの中でこのイベントをやったからだ。
「こなたの女官は騒ぐばかりで役に立たぬ。そなた名前は?」
「玲と申します。浣衣局の宮女にございます」
「浣衣局…そなたのような気の利く娘が水汲みか?勿体ない。こなた付きの女官にしたいが、生憎、人手は足りている。そうじゃ、茶房の勤侍に推薦しよう。そこなら浣衣局より仕事は楽だろう」
「有り難き幸せにございます」
勤侍とは、女官のことで浣衣局の姑姑より身分は高い。それに茶房はお茶出し、お菓子作りをする部署で後宮の夫人たちにお目通りできる機会も多い。
潘夫人は女官たちに支えられて立ち上がると再び歩いていった。
私は水汲みを済ませて浣衣局に戻っていった。浣衣局に戻ると姑姑は怒っていた。見習い宮女が乾いたばかりの着物に水をかけてしまったからだ。
「粗相じゃ済まないよ!あんたは晩飯抜きだ!」
「姑姑、すみません!」
「謝って済む問題じゃないよ!すぐに乾かすからお前は水汲みでもしておいで!」
見習い宮女は泣きながら水汲みに行った。
浣衣局の姑姑は厳しい。ことある事に鞭で打ったり、食事抜きをしたりする。
浣衣局は後宮でも治外法権なのだ。
夜、見習い宮女は浣衣局の外で体操座りしていた。
私は余っていた肉まんを差し出した。
「内緒ね」
「姉さんいいの?」
「食べないと明日、体がもたないよ」
「ありがとう!」
よっぽどお腹が空いていたのかあっという間に見習い宮女は肉まんを食べた。
「お姉さんは優しいんですね…私、香児って言います。この御恩忘れません!」
「いいの。明日も仕事だから早く寝る支度しよう」
「はい!」
笑顔になった香児は見習い宮女の寝室に駆けて行った。