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0.産声

 古の神話にすら上がらない時代、人は人同士で争い、魔族と人も血で血を洗うような日々が繰り返されていた。

 元々の原因も分からないほどの歳月が流れても戦争は止まらない。

 ただ……やられたからとやり返すためだけの日常。

 文明は破壊され人も魔族も数を減らしていき、そのまま2つの種は絶滅するかに思われた。


 しかし、せっかく作り出した自立思考型の生命体が絶滅することをよく思わないものがいた。


 この世界において神と呼ばれるその存在は、自らの全てと引き換えにダンジョンという新たな脅威を生み出すことに成功した。

 ダンジョンはダンジョンマスターによって巨大な迷宮へと進化を遂げ、人や魔族にとって生活を脅かす存在に成長していった。

 この第三勢力の誕生により、長きに渡った無数の戦争は終止符が打たれた。

 今は亡き神の思惑の通りに。




 それから幾千の月日が流れ、今また新たなダンジョンマスターが生まれようとしていた。

 


***


 何もない砂漠の中心。

 砂だけが存在するその空間に突如巨大な泉が誕生した。

 砂嵐によって泉の表面には波がたち、うねりが生じる。


 そんな表面のことなど届かないほどの水底で、男だか女だかも分からない人型の生命体はまぶたを開いた。


「…………」


 動きを阻害することなく追従するかのような水の中、生命体はただ上から差し込む光だけを眺めていた。


 思考が定まらないのは目覚めたばかりのせいか、それとも他に要因があるのか。

 それさえも分からなかったが何となくこのまま浸かっていてはいけないと思い、生命体は水面に向かって泳ぎだす。


 泳いだことなどないはずだが、どう体を動かせばいいのか知っている。

 知っているだけではなく、むしろ水と一体化しているかのような滑らかな動きで水面から顔を出した。


 地表は未だ砂嵐がやんでいなかったが生命体にとっては些細なことだった。

 見えない視界の中、生命体はぼんやりと虚空を見つめる。


 そのままぼーっとすることしばし、生命体はようやく自分がダンジョンマスターとして新しく誕生したものであるということを知った。


「だんじょんますたー?」


 かすれる声で呟くも、聞き覚えなどない。

 ただ、最初から頭にある知識が自分をダンジョンマスターと呼ばれるものであると示している。


 しかしダンジョンマスターが何をなすものであるかは分からない。

 脳裏にあるのは侵入者を排除してダンジョンポイントを稼ぎ、ダンジョンポイントを使用して、より多くの侵入者を撃退しろというものだけである。


 ダンジョンのことや魔物の生み出し方も頭には入っているようだが、調べたいと思わない限り出てこない。


「どうしよう……。とりあえずその魔物とやらを召喚してみればいいのかな」


 何をすればいいのかわからなかったので、生命体はダンジョンマスターのやるべきことをやってみることにした。


 頭の中の知識にアクセスし、魔物の召喚方法と魔物の一覧を調べる。

 そこで再び動きが止まった。


「魔物辞典の見方がわからない……」

 

 魔物辞典には丁寧に魔物の属性や系統、戦い方や外見が載っていた。

 しかし一度も戦ったことのない生まれたてのダンジョンマスターには詳細が載っていても厳しかった。


「うーん、一体何をどうすればいいのか……。今いるのは水の中だから水の中で生活できるものにすればいいのかな……」


 自分では扱いきれない情報に思わずまばたきを繰り返す。

 ある程度自我が育てば好みの見た目の魔物という選択肢もあったのだろうが、まだこのダンジョンマスターには好き嫌いが存在しなかった。


「考えても分からないなら、一番上のこれを喚んでみればいいか」


 迷ったダンジョンマスターはとりあえず一番最初に出てきた魔物を呼び出してみることにした。


「消費ダンジョンポイントは1? でも多く入れることは出来る……。別に1匹でいいけど、今あるダンジョンポイントの半分を使って召還……。過剰なダンジョンポイントでオプションを追加できるみたいだから、水の中で生活できるようにして……。他はランダム……」


 進んでいく選択肢を適当に選んでいくと、ポンッと音をたてて何もなかった場所に丸いフォルムのなんとも言い難い魔物が誕生した。


「ぷるっ」


 一瞬震えたと思ったら、じゃぼーんと音を立てて水の中に落ちたスライムベビーに近寄る。

 するとスライムベビーは自らもダンジョンマスターと同じように水面にぷかぷかと浮かんだ。


「ぷるっ! ぷるっ!!」


 懸命に震えて何かをアピールしているが、ダンジョンマスターに理解できる言語ではなかった。


「うーん、せめて意志の疎通が取れる魔物にしておくべきだったかもしれない」


 ひんやりとした温度にぷるぷるした手触りは申し分ないが、いかんせん言いたいことが分からない。

 つんつんつつくとぷるぷる揺れる。

 言葉は通じなさそうだが、飽きのこなさそうな感覚にこれはこれでありかもしれないとダンジョンマスターは思った。


「ダンジョンとかもよく分からないし、ひとまず全部放置しておけばいいか」


 考えることも面倒になって、ダンジョンマスターは呼び出したスライムベビーを抱えて泉の底に戻っていった。




 本来初期のダンジョン整備に使うべき1万ダンジョンポイントの半分をスライムベビーという1日も生きられるか分からない脆弱な魔物に使ってしまったことすら知らず……。


誤字脱字、日本語の間違い等ありましたらご指摘お願い致します。


S.S / あしし

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