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彼女の短編小説集  作者: Nautilus
3/3

2.死者と私たちの繋がり

 一人でテトラポッドに波が満ち引きする音を聞きながら、海岸沿いを歩いていると思うことがある。


 この海でもし私が溺れ死んだら、世間は私の死をどう報じるだろうか、と。私の人生はどう表現されるだろうか、と。


 たぶん、親や友達は「あの子はよく笑って、学校での成績も良くて、部活動も吹奏楽部を頑張っていて、なのになぜ」とでも言うかもしれない。


 勝手に私の気持ちを想像して、同情して、私の許可なく報道するだろう。

 それがどうしようもなく気持ち悪いのだ。


 死者にプライバシーはないのだろうか?

 人が死んだら、その人のプライバシーの権利も亡くなってしまうのだろうか。


 プライバシーとネットで検索すると、プライバシーとは他人に干渉されずに自己を決定する自己決定権であり、自分の知られたくないことを隠す自己防衛権だ、と出てくる。


 だけど、死んだ人が自分で自己決定や自己防衛などできるはずがない。

 死者は生者に対して無力だ。

 マスコミがまるで死者の墓を暴くピラミッドの墓荒らしのように、なんの配慮もなくズケズケと情報を公開することに違和感を感じてしまうのは私だけなのだろうか。


 被害者への配慮もない、被害者家族への配慮もない、まるでレイプのように見えてしまうのは私だけだろうか。


 名前を公表することで誰かの記憶に残るとか、人は人から忘れられた時に死ぬとかなんとか誰かが戯言をほざいていた。


 本当にそうだろうか?

 少なくとも私は知らない人に私を語られたくはない。

 いや、誰にも「私」を語られたくはないのだ。だって、私の描いてきた14ページを完璧に知る人は私以外にいないのだから。


 それに、そんなことをしなくても私たちは既に過去に死んでしまった人と繋がっている。記憶には残らないけど、生きた証として私たちは繋がっている。


 私たちが病にかかってもすぐ治せるのは、過去に多くの人が命を落としてでも薬を発見したからだ。

 私たちの国があるのも、過去に多くの人間が戦って守り抜いたからだ。


 私たちは、既に名前も知らない、教科書にも残らない無数の過去の「誰か」に救われているのだ。

 誰かの記憶に残らなくたって、歴史に名を残さなくたって、十分に私たちは繋がっている。


 だから、人は生まれた時からいつか死ぬために生きている。

 そして、私の死が未来の名前も知らない「誰か」を生かすのだ。


 それは、素晴らしいことではないだろうか。

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