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彼女の短編小説集  作者: Nautilus
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1.かつて彼女だった死体からの贈り物

それは私の5mほど前にグチャという音ともに地面に衝突する。それは衝突の衝撃のせいで首が90度にひしゃげ、鎖骨が飛びだして上向けに横たわっていた。そんな中でも目だけはしっかりと開け、私を見つめていた。


 私はそれから目を逸らさなかった。曲がった首も、飛び出た鎖骨も、綺麗な顔でこちらを見つめる死体の姿を目に焼き付けた。


 ひとしきり、それらを目に焼き付けた後に、私はその場を後にする。肉塊とかした死体に別れはいらない。なぜなら、それはもう誰でもないのだから。だから、私はかつて友だった死体の元を何も言わずに立ち去る。


 悲しみはないと言ったら嘘になる。

 なにせ、私と彼女は親友だったのだ。その裏付けに彼女は私にこの役目を与えたのだ。


 ある日、彼女は「私、自殺したいんだよね」と私に言った。その話を聞いた当初、私は彼女が自殺するのを止めて欲しいから、そんなことを言ってるんだと思った。


 でも違った。彼女は私に「生き返らないか確認して欲しい」と笑顔で言ったのだ。

 彼女と付き合いの長い私は、すぐにその言葉が嘘だと気づいた。彼女は、私にただ彼女の死を見ていて欲しかったんだ思う。私が彼女の死を一生忘れないように。


 前に誰かが『人は死ぬことより、忘れられることの方が怖い』と言っていた。その話を聞いた時、私は少しも共感できなった。だって、死んだら『怖い』なんて感情は抱くはずもないのだから。


 それでも彼女は、自分の死を利用して私の記憶に残ろうとしたのだ。それは、あの人に似ていると思う。

 彼女はあの人みたいに割腹自殺をしたわけでもないし、自分の思想を大勢の前で叫んだわけでもない。でも、ただ何かの為に自分の死を利用した点は、あの人と一緒だ。


 いずれにせよ、私はまんまと彼女の思惑にはまってしまったのだ。きっと、私はこれから何年経とうと彼女の顔とかつて彼女だった死体を忘れることはないだろう。


 それは、同時に私に自殺を許さないということでもある。だって、彼女の死の瞬間を見たのは私だけなのだ。私が死んだら、誰も彼女のことを覚えていてあげられない。


 そういう意味で私は彼女に生かされている。きっと、それも彼女の策略のうちなのだろう。


 本当に彼女はズルい。

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