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彼女の短編小説集  作者: Nautilus
1/3

僕と彼女と

 あー、えっと何から書けばいいだろうか……

 もう既に2年近く小説を書いてきてるのに、上手く書き出せなくて……ごめん。

 でも、これだけは未来の僕に残しておきたいんだ。

 だって人は歳をとったら、大事な思い出も大事な気持ちもどんどん忘れてしまうから。


 僕には好きな女子がいた。

 これは、その子……彼女についての物語であり、彼女自身の作品でもある。



 僕と彼女は、毎日短編小説を書いて互いに読みあってきた。別に僕と彼女にそんな殊勝な趣味があったわけではない。

 文芸部の部員同士で互いの作品の品評会をして、特によかった作品を短編集として文化祭で出す。それが文芸部の伝統だったからだ。


 3年生が引退した後、文芸部には僕と彼女しかいないのだから、必然的に僕と彼女は互いの小説を読み合ってた。

 まるで交換日記みたいだね、って彼女はよく笑ってた。


 彼女のことだけを頭の中にかいて僕は、小説を書いていた。

 だから交換日記とは少し違うかもだけど、僕はラブレターを書いていたんだと思う。勿論、そんなに直接的な表現をしていた訳ではないけど……

 そういう意味で僕にとって小説の中身はどうでもよかったし、彼女以外の誰かに評価されることもどうでもよかったんだ。


 けど、彼女は違ったんだと思う。

 彼女の作品は、短編小説には似つかわしくないくらいリアリスティックだった。

 例えば、少女が深海に溺れてしまうものとか、飛べなくなった渡り鳥の話とか。陰鬱な、どこか他人事と思えないぐらいリアルな作品ばかりだった。


 彼女は、僕に彼女の作品に評価して欲しがってた。

 どう思ったか、少女はどうすればよかったか、渡り鳥は死ぬ運命だったのか、とか。


 彼女は僕とは違って真剣に小説を書いていたし、素人目でもわかるぐらい才能があったと思う。

 だから、僕は彼女の小説にいつも高評価をつけたし、小説を書くとき彼女の小説を参考にしていた。


 だけど、夏休みに入ったある日、彼女は自殺した。

 遺書はなかった。あったのは、彼女の書いた短編小説だけ。


 彼女がなんで自殺したのかはわからないけど、僕は彼女のことをもっと多くの人に知っていて欲しい。彼女が生きていたことを知っていて欲しい。

 何よりネットに載せることで、紙媒体より確実に10年後、20年後に残ると思うから……いつか僕自身が見返せるように残しておきたいのだ。


 だから、これから綴る物語は彼女の物語であり、彼女自身の作品だ。

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