第七十三話「怯えられる少年?と魔剣」
この世界の武器や道具には、特殊効果が付与されてたりする。
俺の魔剣『善女』にしたってそうだ。
剣身は黄金色に輝いていて、誰が一目見るだけでも業物。
今わかってるだけでも、天候操作に魔法の威力向上と消費魔力の軽減、剣の重さを感じないというチートっぷり。
もちろんこの特殊効果は誰でも使えるというわけではない。
ある種の忠誠心。
剣自身が持ち主と認めてくれない限りは発揮されない。
持ち主以外が使えば、見た目より少々重めのやたら切れ味のいい名剣である。
我が双子の姉鸞子も師匠から名剣を賜っている。
今からかなり前、ウチの中伝を免許してもらった時だ。
その名を『五霊』。
剣身は銀色で、一見して地味で刃がない。
五霊は使い手と状況に応じて切れ味が変わる。
師匠曰く、斬れるはずがないものも斬れるのだという。
ほかには、わかっているだけでも炎を発現し操る能力がある。
ただ、性格に難がある。
一定期間使わないでいると、自らの柄を粉砕させてしまうのだ。
ついこの前も鸞子が放置してしまって、五霊は柄を粉砕させた。
ティンバラ北区、とある路地裏の店。
俺とクケイは高名な柄巻き師の所へきていた。
五霊の新しい柄が完成したのだ。
デートではない、たぶん。
「素晴らしい出来です……」
感慨深そうにいうクケイ。
「素材は暗黒大陸産の最高級モクレンに、皮は五百年ものの灰色竜、ひもはヴァラスーナ中央部産の天然地竜の鬚だ。前金を金貨20枚貰ってるから……金貨80枚になるよ。自由にいいものを造れるから金に糸目はつけないお客は好きだが、ちゃんと払えるのか」
「予算オーバーしているなら、掛かった分だけ追加で払いますよ」
「そりゃありがたいね。でもおいらも職人の端くれ、信じてもらうしかないが適正価格だ。ぼったくりゃしない」
不可視の体に触れてみても、嘘は言っていない。
素材と出来はかなりいいので価格に問題はないだろう。
金貨の入った袋を喚起。
掌に光の粒子が集まり、絹っぽい素材の小袋が形成されていく。
金貨80枚。
相場から日本円的な感覚に換算すれば、金貨1枚40万円。
つまり3200万円、前金合わせて4000万円。
そう考えると、ちょっと手に汗握ってしまう。
「……この子のお友達に、ちゃんと相手してあげるよういっといてよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「気を付けて帰るんだぞ。あんたら見た目はかわいいから、実力を弁えない未熟者がちょっかいを仕掛けてくるだろう」
「あなたも襲われないように気を付けてください」
「心配には及ばず、ケツ持ちくらいいるさ」
北区はそのほとんどがスラム。
この店がある地域はその中でも特に治安が悪い。
だのに堂々と大金を取引し、店頭にも高価な武具を並べている。
店主が職人であると同時に周辺の名士である証左だろう。
俺たちの実力を見抜く目もある。
適当に挨拶を交わしてから店外へ出た。
クケイと手を繋いで、しばらく歩く。
「かーのじょ♪」
「かわいいなー。村からはぐれちゃった? みたところ最近北区に来たばっか? 俺たちが村まで送ってあげる」
「……、」
俺とクケイに対してではない。
露店街へ出る前の路地の影。
三人の人族の男たちが、獣人族の少女二人を壁に追いやっている。
北区では良く見る光景。
ヒャ〇ハーな治安レベルなのだ。
クケイの手が少しだけ熱を帯びる。
助けたいんだろう。
「(僕が行きますよ)」
コクリ、と頷くクケイ。
「……貴族のガキと侍女がなんのようだ。お兄さんたちは今忙しんだよ」
「ガキの癖に高そうな剣を携えやがって」
「なあ、こいつらも可愛くね? こっちなんて男のカッコなのにすんげえ美少女じゃん」
「ちっさ過ぎるだろ。それに俺は獣人族が好きなんだ」
「三人とも今日はもう帰った方がいいんじゃないですか?」
「……ああ、そうだな、今日のところは帰ります。二人とも迷惑かけたな。これからは子供だけで獣人族の区画からでるんじゃないぞ」
「?」
男たちは導かれるようにその場から離れていく。
少女たちは、何が起こったかわからないという表情をしている。
俺が軽い精神感応と身振りで、男たちが諦めるように仕向けたのだ。
「お怪我はありませんか?」
十五歳くらいの猫耳と犬耳の少女。
どちらも獣寄りではなく人寄り。
「助けてくれたの……? ありがとう」
「人族の子供? この見た目と匂い、もしかして」
ひそひそ話をしていくうちに、少女たちの表情が曇っていく。
絶望したかのような……。
次第に震えはじめ、一度顔を合わせてから一目散に逃げ出した。
「……なんなんですかね」
「二人とも普通の少女です。リョウ様の力を量れるほどの実力は見受けられませんが」
邪神がどうとかの偏見?
しかしルヴァ教徒や十大神教徒にもみえない。
全てはみる暇がなかったが、怯えられたことは間違いない。
何かひっかかりながら露店で菓子を物色し、帰路についた。
グェムリッド宮殿。
帰って鸞子に五霊を渡す。
鞘から抜いてしばらく、剣と会話するように感じ入っていた。
「なんとなくなんだけどね、リョウが持ってたほうがいいかも」
ぽつりとそう呟いた。
続けて、
「もちろん稽古をサボる口実じゃない。リョウやクケイが居なくなるのは嫌だし、これからはまた頑張るわ。五霊はリョウのことも好きみたい。一緒に稽古する時に出してちょうだい」
鸞子は先日の一件について、まだ責任を感じているようだ。
師匠ソフィアが彼女の身に余る五霊を与えたのは、しっかり理由がある。
まず相性がよく、剣から忠誠心と特殊能力を引き出せるからだ。
五霊の忠誠心は、言葉通りの意味の主従関係ではない。
剣から友達として認められることが忠誠心となる。
俺やクケイに対しても、どうやら友達感覚で居てくれて、普通に特殊効果を引き出せる。
もう一つは、飽き性な彼女にしっかり修練を続けさせるためでもあった。
ソフィアは相手の性格を見極めて教え導くタイプ。
あまりサボらなそうな俺には、相応の実力が伴った時点で善女を渡すよう判断。
おそらく鸞子には、早めに名剣を与えて武術家としての責任感を持たせ、剣の性格にあわせ毎日修練をするようにと考えていた。
もっとも師匠が出立してからは日常生活が忙しくなり、案の定サボりがちだったが。
武術の才能は俺と同じくらいあるはずなのに勿体ない。
「わかりました。姉上は今、サグラ殿下にだいぶ差をつけられてますから、次の合同修練までに恥をかかない程度まで戻しましょう。そして最終的には追い越すんです」
「うん、頑張る!」
とりあえず俺の次元収納に収納しておけば、剣の機嫌を損ねることはない。
収納先はほぼ時が流れてないからな。
むしろ五霊にとっては、絶え間なく遊んでもらっている感覚になるだろう。
鸞子が修練しない日は、俺が五霊の手入れをするようになった。
☆ステータス☆
名前:ランコ=ユーゼン
性別:女
種族:人族
出身:スヴァルガ帝国アンガー 領都ティンバラ
職業:軍閥を形成する有力貴族の五女 イアライ宮主
魔法:中級者
武術:便宜上は八監派中伝




