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転生魔術師の異世界生活~幾千と破滅フラグを回避していくうちにチートに目覚めて最強になる~  作者: 哀上寝之
第二章

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第五十八話「勝利した少年?と感無量なメイドさん」

 グェムリッド宮殿中庭。


 俺はいつものようにクケイと組手をしていた。

 ただ、内容はいつも通りではない。

 普段は危険度の高い魔法や武功は極力使わず、使うにしても名称を呟いて予告したりする。

 その制限を取っ払った。

 

 魔力増幅(ダリーサーラ)は五回詠唱し、肉体の限界は始めから無視している。

 つまり呼吸してない。

 体術と各種武功をクケイと()り合うレベルまで向上させると、どうせ喘息の発作は起こるのだ。

 危険なので人払いは徹底させた。


 中庭には魔法と武功による衝撃音だけが響いている。

 お互い空手で声すらあげず、黙々と闘っていた。

 

 一二〇合目に差し掛かった時だった。


 魔帝指(フィンゲルキンマジカーイ)

 クケイは俺の指先から放たれる黒々とした魔力の光線を受けながら、近づいてくる。

 三メートルまで肉薄してきたところで魔法が弾かれた。

 暗黒の光線は逸れて、城壁をガリガリ削っていく。


 クケイの渾身の一撃が来る――――


 のを次元移動(モトゥスコルディナーレ)で回避。

 背後へ移動して掌打を浴びせた。

 飛翔せよ(マカイェロ)で飛んだまま、中空での殴り合いが続く。

 

 幾重にも重ねた伏線とフェイント。

 そのくどいまでの丁寧な駆け引きは、少しずつ戦況を変え、ついに一つの答えに辿(たど)りつく。

 魔力と内力を(まと)わせた俺の渾身の貫手(ぬきて)が、クケイの鳩尾(みぞおち)の少し下をエグり込んだ。

 瞬間、お互いの動きが止まった。

 

 中空に浮いたまま念話で、


「(これはもしかして僕の)」

「このままリョウ様が魔法を流し込めば死ぬやもしれませんね」

「(それはつまり)」

「ええ、(わたくし)の負けでございます」


 (はら)に入り込んだ指先からは彼女の心臓の鼓動を感じる。


 俺はこの日はじめてクケイに勝利した。

 計算はしていたがラッキーパンチともいえる。

 それでも勝利は勝利だ。


 クケイは珍しく目を潤ませていた。

 悔しそうというより、何かを達成したかのような、感無量といった感じだった。






 次の日。

 クケイにウィティットン庭園に行こうと誘われた。

 デートのお誘い、という雰囲気ではない。


 ウィティットン庭園はティンバラスール城最大の庭園。

 ちょっとした丘陵にあって、大きな池に、林、草原、花畑と欲しいものは大抵揃っている。

 ヒミカは早朝に決まってここを散歩する。


「この剣どうしたんです?」

「お師匠様は『善女(ぜんにょ)』と呼んでおりました」


 クケイは善女を抜いて見せる。

 

「みるからに業物(わざもの)ですけど聞いたことありませんね」

「全く世に知られていないからです。お師匠様がいうには、この世で造られたものではなく、私どもの大師叔(たいししゅく)にあたるお方が『ある世界を統べていた龍神の心臓と、死を迎えた太陽の核を組み合わせ特殊な方法で鍛造した』と」

「大師叔は神様かなんかですか」

「お会いしたことはないのでわかりません。お師匠様に八監(はっかん)派の内功の基礎を教えたお方で、鍛冶もおやりになるそうです」


 随分と御大層な煽り文句である。

 スケールが大きすぎてイマイチ現実味がない。

 大師叔、つまり師匠の一世代上、大師匠の兄弟弟子。

 

 一〇〇センチほどの直剣。

 簡素で地味な銀の鞘に、柄頭に(ドラゴン)の装飾。

 剣身は黄金(こがね)色に輝いていて、神代文字で『ゼンニョナルダボダ』と彫られていた。

 

 ゼンニョはともかく、あとの言葉の意味は不明。


「それをクケイが譲り受けたわけですね」

「いえ、お預かりしたのです。私の裁量で頃合いをみて、リョウ様にお渡しするように言い付かっておりました」


 クケイは鞘に納め、両手で善女を差し出した。


「今がその頃合いなんですか」

「……実力からみてお渡ししてもよいかと考えています。昨日の組手で判断いたしました」

「まだ上伝位すら貰えてないですけど」

「伝位が気になるのですか? では今日からリョウ様は上伝位です。なんなら奥伝位でもかまいません」

「そんな気軽に決めるもんじゃないですよね?」

「既に少なくとも八監派上伝を与えてもいい実力にありましょう。吉日を選び、上伝伝授の儀式を()り行います」


 ちなみにクケイにして奥伝である。

 

 クケイ・コエン。

 ティンバラスール城の侍女にして、俺の師姐(しじぇ)である。

 年齢は十二、三歳。

 八監派奥伝、世に出ていたころの二つ名は黒杉子(こくさんし)

 世間的な強さの尺度で伝位を表すなら、奥伝ではなく皆伝以上とするのが正しい。


 今回気軽にポイッと免許してくれたが、ウチの流派は他の流派と比べて伝位授与の基準は著しく厳しい。

 一時期俺より先を行っていた鸞子(ランコ)ですら中伝だ。

 一に実力、二に技術、という師匠(ソフィア)の方針がそうさせている。


「昨日はじめて組手で勝ったくらいですよ?」

「伝位は本来ただの免許であり、おおまかな指標でしかありません。リョウ様の技量なら、強さは状況と心構え次第で大きく変わるでしょう」


 痛い所を突かれてしまった。

 クケイはいつだって、俺の持つ「甘さ」を許容してくれている。

 甘さとは相手に手心を加えること。

 端的に言うと人間性。

 それを捨てられるなら、短期戦において彼女を下す機会はもっとでてくる。


「……門弟リョーリ、謹んで頂戴いたします」

 

 せっかくだし貰っておこう。

 (ひざまず)いて善女(ぜんにょ)を受け取ると、クケイはなぜか嬉しそうに微笑んでいた。

 ワクワクしている感じ。


 早速抜いてみた。

 軽い。

 鞘に納めている時は見た目通りの重たさなのに、いざ抜いてみると一グラムもないと思えるほど軽い。

 次に魔力と内力の高まりを感じた。


「お振りになるなら、向きを選んだ方がよろしいかと」


 障害物がなく、人の居る気配のない方向。

 正眼に構えて軽く振った。


 斬撃の衝撃波が起こり、いくつかの丘をエグる。


「その剣は使い手を選びます。お師匠様や私も使えはしますが、剣に気に入られませんでした」

「気に入られる?」

「ご様子をみるに、善女は羽のように軽いのではありませんか。気に入られている証左でございます」


 善女は使い手によってスペックが変わるようだ。

 ただのやたら切れ味のいい名剣から、特殊効果を持つ魔剣にまで変化するのだ。

 取り急ぎ気づいた特殊効果は、天候を操る能力と、魔法の威力向上と消費魔力の軽減。


 天候を操ること自体は物理現象を利用すればある程度できたりする。

 まだ未修得だがLv5の天候操作(アクシントーシャヴェジモセズル)という魔法もある。

 その名の通りさまざまな天候を操る魔法。

 しかしこれは書物で説明されているそれより、明らかに利便性が高そう。

 例えば直径二メートルだけ雨を降らせてみたり、自在に操れる竜巻を複数作り出したりもできちゃう。

 

 魔法の威力向上と消費魔力軽減は、超貴重な杖や魔道具(マジックアイテム)に付与されているものと傾向が似ている。

 威力はもともと過剰性能(オーバースペック)気味。

 重要なのは天候を操る能力と消費魔力軽減という点だろう。


 クケイにたまたま組手で勝利したら、なんぞヤバそうな剣を手に入れてしまった。

☆ステータス☆

龍鯉(リョーリ)

名前:リョーリ=ユーゼン

性別:寝て起きると変わることがある

種族:人族

出身:スヴァルガ帝国アンガー 領都ティンバラ

職業:軍閥を形成する有力貴族の三男

魔法:最上級者(マジストル) 基本無詠唱 禁書の魔術

武術:便宜上は八監派上伝


乞袁(コエン)倶偈(クケイ)

名前:クケイ・コエン

性別:女

種族:人族

出身:春杞(シュンキ)

職業:ティンバラスール城のメイド

性格:冷静沈着

感情:やや乏しいが、社交辞令はこなせる

魔法:中級者(ミディアム) Lv1~3を二〇種ほど 隠行系魔法だけは無詠唱

武術:八監派奥伝

好きな人(家族として):師匠、ヒミカ、双子

想い人:リョウ様

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