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転生魔術師の異世界生活~幾千と破滅フラグを回避していくうちにチートに目覚めて最強になる~  作者: 哀上寝之
第一章

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プロローグ

 俺はいま病床に伏している。

 二十九歳、絶賛休職中の、どこにでもいる会社員(リーマン)だ。

 三ヶ月ほど前に友人と、


「健康診断引っかかってさ、精密検査受けたら余命宣告されちゃった」

「は!?」

「一ヶ月持たないかもだって」


 みたいなやりとりをやってから即入院。

 とんとん拍子に弱っていった。

 今や見る影もなく痩せてしまったが、これでも中肉中背の自称フツメンをやっていた。

 元から人付き合いの上手いほうではないので、童貞であることはもちろん、彼女はおろか友人と呼べるやつもコイツ一人しかいない。

 親兄弟とは絶縁状態だし、お見舞なんて職場関係のやつが会社の慣例で一度来たきり。

 我ながら素晴らしく人望がない。


 とはいえ、この圧倒的な人望の無さにもちゃんと理由があったりする。

 

 普通とはいえないものの悪くない人生だったと思う。

 体育会系の父に水商売系の母が共働き、弟が一人。

 決して社会的地位は高くないが、収入面でみるとそこそこの家庭に生まれた。

 

 幼い頃から妄想ばかりしていて、一人で遊ぶことが多かった。

 先天的にそうだったわけではない、と思う。

 両親は俺が何か失敗するたびに、よく死ななかったなというレベルで折檻(せっかん)していたので、苦痛からの逃避ために妄想だとか一人遊びを活用していた。

 習慣が性格になるとはよくいったものだ。

 弟が生まれてからは逆に放置されるようになって、より内向的性格が加速した。

 

 この陰気さから小中学校時代は当然ながらイジメられていた。

 上履きに虫や画鋲を入れられたりというのは日常茶飯事。

 スクールカーストの最底辺というのは間違いない。

 しかしイジメっ子たちに対して負の感情を抱くことはなかった。

 肉体的なイジメは最悪の事態に陥る前に逃げる術を心得ていたし、少しでも嫌な気分になると持ち前の妄想力で現実逃避。

 当時は極力関わらず、考えないようにしていた。


 中学の時に好きな女の子はいた。

 一学年下の地味な子。

 登下校時に遠く眺めるだけ。

 体育祭の練習日、奇跡的にフォークダンスの順番がその子のとこまで回った。

 そらもう心の中では狂喜乱舞。

 帰ってからいろいろ捗りまくったっけ。

 手に残る感覚を脳に焼き付け、失礼ながら何度も致した。

 これ以降、三次元の色恋沙汰皆無の素敵な童貞人生を突き進んでいくことなる。


 高校に進学してからはイジメられることもなくなって、バイトしながら同人活動に勤しんだ。

 そこそこレベルの高い公立高校の普通科。

 教師たちの扱いからして、素行不良の生徒に分類されていたように思う。

 放課後は繁華街の中華料理屋で調理補助と配達をしながら、休みにはシコシコとお絵かきしたり妄想するだけで、制服は改造しないし喧嘩(けんか)もしたことはない。

 誰とも関わらないのは一匹狼なんてカッコいいもんじゃなく、ただ単にコミュニケーションが苦手なだけである。

 

 両親とは高校卒業と同時に絶縁した。

 理由は価値観の違い。

 父母ともに自分の価値観を押し付けるタイプだった。

 今まで放置してた癖に、何かと思うがままにしたい父と何かと依存する母。

 基本「お前なんかにできるわけねーじゃねーか」というスタンスで攻撃。

 いつもは妄想して無効化するところだが、今回ばかりはやり返した。


 ただまあ、その日暮らしできたらいいかみたいな感じで進路をロクに考えず、毎日全力で趣味に走ってた俺も悪かった。

 人生最大の大喧嘩をしてから、泣きじゃくる弟を尻目に家を飛び出した。

 言い換えると、約束されし引きこもりの道から外れたともいえる。


「お兄ちゃん行かないで」


 と袖を引く弟の顔は今でも忘れない。


 両親にいい思い出はないが、弟とはわりと楽しくやっていたと思う。

 サッカーをやっていてスポーツ万能、頭も悪くない。

 いつも他愛もないアニメの話を振ってくる可愛いやつ。

 いま人生の瀬戸際にある俺にとって心残りと言えば弟である。

 出て行った身ながらかなり気になっている。


 家を出てからは仕事を転々とした。

 当面の生活費は高校三年間のバイトと同人活動諸々で貯金を結構溜めていたのでなんとかなった。

 

 しばらくして、大きな書店でバイトをやっていた時に、一人の青年と出会った。

 七々瀬(ななせ)一哉(かずや)

 有名大学の医学部に通う高身長イケメン、頼れるバイトリーダーといった感じ。

 親は大病院を経営していて書店バイトなんてしなくてもいいご身分だろうに、コネを嫌いわざわざ社会経験を積むような意識高い好青年。

 俺とは住む世界の違う人種だ。

 こちらから関わらないよう極力振る舞っていたのに、なぜか休憩や退店時間が合って、いつの間にか仲良くなっていた。

 確証はないが、故意にシフトや休憩回しを合わせていたのかもしれない。


 話してみるとこちら側の人種で、見た目に反してかなり変なやつだった。

 普段は仮面を被っていて酒が入るとアニメや歴史のIFを際限なく語りだす。

 高スペックでコミュ力抜群、彼女がコロコロ変わるようなやつなのにかなり馬が合った。


 一哉は大きな影響を与えてくれた。

 俺にとっては人生で唯一と言っていい友達だ。

 高卒で大手医療器具メーカーに入社できたのもこいつの助言によるものが大きい。

 資格のアレコレや試験と面接対策を事細かに教えてくれた。

 だから、試験と面接は上手くいった。

 

 お察しの通り、入社後は持ち前のコミュ力でビジネスチャンスを逃しまくる永遠の平社員である。

 妄想の傍ら意識高い系な本を読み漁りつつ、それを全く生かすことのない毎日。

 まあ、俺みたいなのが正社員雇用されるだけでも及第点と言えよう。

 

 そんなわりと人生悪くないかな、と思い始めた矢先の余命宣告である。

 電話で相談してからというもの一哉には頼りっきりだった。

 実家の伝手でさまざまな治療法を探してくれたし、延命治療しかやれることがないとわかれば贅沢(ぜいたく)な病室まで用意してくれた。


 俺が特別扱いを気兼ねすると、


「こういう時はいいんだよ。黙っていうこと聞いとけ」


 と凄まれたので素直に従った。

 もはや体を動かすこともままならんので、まるで超高級マンションの一室のような広々と豪華な(あつら)えの病室を楽しめないのが口惜しい。


 一哉は俺より必死に、俺が生きるための可能性を模索してくれていた。

 こっちからは何もしてやれてないのに。

 

 こんないいやつに出会えたのだ。

 やはり悪くない人生だった。


 今日は余命宣告受けてから何日目だっけか。

 一〇〇日目くらいか。

 

 日にちがわからなくなる位ボケてしまっているのに、俺はいつも一つの願望について考えている。


『異世界に転生してみたい』


 俺は生まれてから二十九年間、この在り来たりな願望を妄想し願い続けている。

 

 もとより転生なんてあり得ない。

 常識的に考えてそんなファンタジーはこの現実にあり得ないことはわかっている。

 だけどいつだって、ラノベや漫画でよくみられる都合のいい奇跡が起きたり、特定の行為や結果をトリガーに異世界転生するようなことを期待し、心の隅で大切にしてきたのだ。

 

 極力苦痛のない選択の余地が残されたトリガーがよかったとか贅沢は言わないし言えない。

 現実のファンタジー的奇跡はそんな甘いもんじゃないのだ。


 この病室に魔法の使えない不思議系ツンデレ魔法少女がひょっこり現れてくれるだけでもいい。

 いや、魔法少女は望みすぎというか女の子自体に縁がないからこれも現実的じゃないか。


 さすがに奇跡のために一度きりの博打(ばくち)を踏むほど人生に悲観していたわけじゃない。

 ここ最近はわりとエンジョイしてたしな。

 なのに現在、最大にして最悪のチャンスが到来している。

 

 死に至る病。

 二十九歳、半人前のおっさんから名実ともに一人前のおっさんになろうという時分。

 一〇〇日ほど闘病して友達に看取(みと)られながら、童貞のまま()くことになるとは。

 こんなことなら勇気だして高級風俗にでも行ってみるべきだったか。

 

 しかし、死ぬ覚悟と妄想力を高ぶらせて天寿を全うできたのは、抗う間もなく一瞬でチャレンジするよりはよかった。

 俺にとって好き勝手に妄想できなくなることは、転生モノにありがちな刹那的展開に巻き込まれたり、長期にわたって身体的苦痛と迫る死に(さいな)まれることよりも恐ろしい事なのだ。

 転生せず、他の人と同様『無』となるなら、たっぷり妄想してから逝きたいじゃない。


 覚悟はできている。

 ただ、折りよくファンタジー的奇跡が起きてくれるか一抹の不安はある。


「次の薬は今までのより強いぞ」

「うん」


 思い悩んでいたらその時が来た。

 一哉の表情と声色から、最期なんだなと悟った。


 投薬の直前、


「……怖くない?」

「ん、全然。それよりPCの中身を――」


 一哉は笑いながら、


「処分する時間たっぷりあっただろ」


 たっぷりあっても長年のコレクションを消すのは勇気いるもんなんですよ。


「――いろいろありがとな」


 見慣れない輸液が点滴とともに投与されていく。

 感謝を述べたあと一哉は泣いていたと思う。

 たぶん俺も泣いていた気がするが、よくわからない。

 

 次がありますように。

 あるならしっかりやりたいな。

 

 ゆっくりと(まぶた)を閉じる。


『おつかれさま』


 意識が落ちる寸前、透き通るような少女の声がした。

 聞いたことのないはずなのにどこかなつかしく聞きなれた声。

 何かとてつもなく大事なことを忘れている気がする。


 プツン。


 と、何もわからなくなった。

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