1/4
プロローグ(楓花side)
私、毛馬 楓花は平穏と呼ぶに相応しい日々を過ごしていた。
いつものように長く伸びた黒髪を2つに結び、嗅ぎなれた柔軟剤の香りがするジャージに袖を通す。
ポケットにスマートフォンを入れ、パソコンの画面を愛おしく眺める。
誰もいない学校の教室で息を大きく吸って、徹夜明けの身体に鞭を打つ。
…そんな代わり映えのない毎日に朝から嫌気がさしていた。
今、画面の向こうの愛しの「嫁」とずっとイチャイチャ出来たら…なんて思ってしまう程に私の心は荒んでいた。
でも…そんな平穏な日々が何時までも続いてくれたら……とも思えた。
ガラララララッ
ドアの開く音がした。
「…………………」「…………………」
沈黙が続く。
いつもなら、自身の友人である橋本が入ってきて挨拶の一つや二つしているところなのだ。
この状況は私にとって致命的な状態であった。
…覚悟を決めて振り向く。
すると…そこには私の苦手なタイプの人間……遊び人と噂される『井上 海』…彼女が立っていたのだ。