一章結 始末書と自炊の関係性
落ちてからまた説教だった。何しろ勝手に行動しすぎだと怒られたわけである。
新人なのだから、あまりにも無謀な事をするなというわけだ。
私だってそう思うんだけれど。
あの時扉から引っ張り出そうとしなければ、あの重傷な人は向こう側に取り残されていた。
それを考えれば、私みたいなサバイバルができる人間が入った方がましだったような。
と思うわけ。
しかしながら言っちゃいけない事の区別はつくので、言わない。
言えばたぶんめちす先輩が、説教を一時間は伸ばしてくるのだ。
これはわかる。肌で感じる物があるのだもの。
そしてまた始末書の山。というか今回は不可抗力だったと大声で言いたいのだけれど、そこのところはどうなんだろう……
「先輩、書き方が分かりません、この場合の最善の策は何だったのでしょうか」
私はいくら考えても、この場合の始末書の書き方が分からなさ過ぎて音を上げた。
「この場合、お前はどうしてああいった行動をとったのか、最善と思われるのはどんな事か、自分の頭で考えて俺たちに見せるんだ。ダメだったら俺たちがそこに訂正をいれたり、正しい対処の仕方を教えられる。考え方の違いはどうしたって出て来るものだからな」
助けてはくれないらしい。今日も定時上りは期待できない。
しかし。
何とか思いついた事や反省点などをまとめ、ようやく始末書をかき上げたのは夜の八時。
残業手当はつくらしいから、まだましな時間だ。
普通だったらこういう時、夜の飲み屋に繰り出すのだろうけれども。
しかし地球に帰還してからすぐに、始末書に取り掛かった私は疲れすぎていた……
心底疲れたよ、だって考えてみてほしい、ずっと仕事だったり異世界だったりにいるわけなのだから。
くたばるような気分で机に突っ伏し、きちんと始末書のデータもパソコンに保管し、携帯できるメモリにもバックアップし、終わってほっとした。
「何か食べたい……」
ほっとしてしばらくすれば、何か食べたくなるのも当たり前。私はすごくお腹が空いた自分に気付いた。
確か食堂に行けば、何か食べるものにありつけるんだったよな。少なくとも調理可能な食材はあるはずなのだ。
何かで作ろう、と考えて、よろよろしながら局から移動する。
窓の外から見える風景は都会って感じの明るさやイルミネーションなんだけれども、異世界の暗闇ばかり見ていたせいか、新鮮な気持ち。
というか電気使い過ぎだ、と普段は思わない事を思う。
よろよろしたまま食堂に入れば。
激務の結果こんな時間まで、食事の時間がずれ込んだ人たちがカップ麺をすすっていたりしている。
「すみません、探索班の新人です、ここって名前の書かれていない食材だったら使ってよかったんでしたっけ」
一人に声をかければ、レトルトカレーを見切品らしき食パンに浸していた人が、頷いた。
「まあいいんだよ、というか今から作る体力があるの、すごいね」
「あ、あなた探索班のタフネスな新人さんでしょ。局長がどこに配置した方が効率がいいか、って頭悩ませているという」
一人に話しかければ、ほかの人も話しかけてくる。
この職場って結構フレンドリーなのかな。
わからない。
だが使っていい材料の事は聞けたわけで。
これは非常にありがたい。
私はさっそく食堂の調理器具を確認する。あ、早だきで知られた炊飯器がある。ラッキー。おかず作ってる間にご飯が炊ける。
私はさっそく、ご飯を炊く事にした。お米を洗うのが面倒だから、無洗米一択で。
きちんと同じカップで、米も水も計量すると、味がよくなるのだ。
水加減を間違えないっていうのは、炊飯器で非常に重要なわけだとか。
実際にべちゃべちゃのご飯を食べて、これはおかゆなのだろうか、と考えるのは空しいのだ、何しろ炊飯器という文明の利器に頼ったのに失敗すれば。
何処か外れた鼻歌を歌いながら、お米と水を入れる。面倒くさいから明日の分まで冷凍しておこうと決めて、置いたのだけれど。
何とここの炊飯器、でっかい一升炊きなのだ。
笑うしかない。ここはどこの学生食堂なのか。
心の中で引きつって予定を変える。一合炊くだけじゃ美味しく炊けない!
炊飯器にも対流の都合があるから、その配分を間違えるわけにはいかないのだ。
一升の炊飯器で、一合を炊くなんて色々無駄だし。
良し、五合たこう。お腹空いているから、きっと一合半は食べられる……。
手早く早だきのスイッチを押して、みそ汁のための準備。何故かある昆布と鰹節をけちらないで鍋に細かくして水と一緒に突っ込んで置く。
そしてその間に具材の下ごしらえをすれば、出汁が多少は出て来るのだ。
鰹節も細切れの昆布も、食べれるのだから私は漉したりしないけれど。
多分日本食の専門家とかからすれば、言語道断な事だが、もったいない精神の結果だと言い訳をしておく。
「え、これからご飯とお味噌汁ができるの!?」
誰かが大声で言った。そうすると、わらわらと何故か私の方に人が集まって来る。
「いいなあ、分けて分けて」
「いったい何人ですか……?」
わらわらしてきた人たちの人数を数えれば、まあ中型の鍋で足りそう。
出汁の素は大目に鍋に水と一緒に突っ込んだから、水を増やしても不味くはならない。
ここで取り出されるのは豚肉。豚小間ちゃんだ。
私は豚小間とささがきのごぼうを、そこらへんに放置されていたフライパンで炒める。
フッ素加工は洗うのが面倒だから、鉄を選択した。
しかしここのフライパン、使い勝手のいいフライパンだね!? 柄の長さが女性でも持ちやすくできているなんて、すごい感心してしまう。
豚肉、ごぼう、それから共有ストックに入っていたカレーの具なるジャガイモやニンジンや玉ねぎの茹でたパウチ。
そう、豚汁を作っちゃうのだ。
私面倒くさいといつも、豚汁なんだよな……それもおいしくなるから昆布入りの。
沖縄は昆布と豚のアミノ酸の複合で、よりおいしい料理なのだと昔テレビでやって以来、私は豚系には昆布を使ったりするようになった。
実際美味しいし。
十五分くらい置いておいた水の中に、具を全部突っ込んで火にかける。カレーの具なる物は火が通っているし、ごぼうも豚肉も炒めたから、煮込む必要はなし。
あ、ネギまである、本と色々そろってんな!
ちょっと奮発して、ネギも適当な長さに切って、まだ洗っていないフライパンで表面が焦げるまで炒める。
これも豚汁の中にドボン。
沸騰して味噌を入れてとかして、後はにえばなを目指せば出来上がりだ。
「何だろう、まともに料理している仲間を見るの久しぶりだ……」
「これ食べてもいいって何の贅沢……」
「お前ら泣くのはまだ早い! 食べてから彼女に感謝して泣くんだ!」
私はこの会話を聞いて、彼等が激務過ぎて、自炊できない事実を察した。
どこの班なんだろう……
「皆さんそんなに、自炊しないんですか」
「しない。生協のレンチンばっかり」
「後はレトルトとカップ麺と栄養サプリ」
「そんなに忙しいのはどこの班なんですか? 探索班もすごい激務ですけど」
「解析班よ。解析班は自炊しない奴ばっかりなの」
私の問いかけに答えたのは、自分も解析班だという女性だった。
彼女は身ぎれいにはしてあるけれども、化粧の余裕はないという顔をしていた。
「自炊の時間があったら、考える時間にしたいっていう考えこんじゃう奴が多いのよ、解析班ってね」
肩をすくめた男性も大変そうだ。
そんな風に思っていれば、ぴいぴいと炊飯器がご飯が炊けたと知らせてくる。
そこで豚汁を、欲しいと言った人の数のお椀に入れて、それから満を持して炊飯器を開けた。
ふんわり香る甘い蒸気。お米ッて一瞬でわかるその、芳醇な匂い。よだれが出て来るおいしいものと、本能にインプットされた匂いが漂う。
私は一番に自分の分を確保し、言った。
「お米はセルフで!」
その後の大騒ぎは、あれこれ、一升炊いた方がよかったかな、と思う位だった。




