帰りたい彼女
おじさんの品物は、お祭りで縁起がいいとされている、七種類の華をドライフラワーにしたものだった。
おじさんの腕前がいいのか、周りの店よりも仕上がりがきれいだと思うのは、きっと気のせいじゃないし、おじさんの所は行列まで出来上がっている。
軽いしたくさん積めるから、おじさんはドライフラワー売りをしているんだろう。
私はそこでお会計をした。日本育ちだと、軽い計算は余裕だし、値段は決まっているし、二倍三倍までだったら暗算ができる。
「頭がいいんだな、計算が早くて大助かりだ」
おじさんの言葉を聞きながら、午前中いっぱい、花を売りまくった私たちだった。
そして午後になると、巫女姫行列が始まるため、その席代をとりまくった。
するするともめる事無く決まるから、おじさんはほくほく顔だ。
「計算ができないで、去年は揉め事が多くて大変だったんだ」
計算が出来なくて、席の整理が出来なくてもめたのだろう。分かる気がした。
そしていよいよ目の前を、巫女姫が通る。うすいヴェールを被る巫女姫は……
「違和感?」
前回の違和感女子と同じ匂いがした。この世界に馴染み切っていない違和感だ。そしてヴェールの向こうの彼女は、何を感じたのかこちらを振り返った。
そして何事もないように、周りにする事と同じように手を振り、客席の人たちがきゃあきゃあと言っていた。
「たぶん黒髪が珍しかったんだろうよ」
隣のおじさんが、言う。たしかに私以外に黒髪の人間は、この街で一人も見かけなかったから、きっとそうなんだろう。
そして、違和感女子という事はたぶん、転生者っぽそうだ。
本部と連絡が取れれば、報告ができるのにできない。
悔しい……なんて心のうちで考えながら、出店を片付ける夕方。
二人ほどの神官ふうの衣装の人が現れて、私たちに声をかけてきた。
「黒髪の娘よ、巫女姫が異国の話を聞きたがっているがゆえにお呼びだ」
「黒髪だからですか?」
「この地方に黒髪の人間は暮らしていない、となれば旅人、外に出られない巫女姫はそう言った、外の話が大好きなんだ」
これは接触できるチャンス?
チャンスは逃さない主義の私は、頷いてから、おじさんに行ってもいいかを確認し、神官たちと神殿に向かった。
神殿はお祭りの気配が濃厚で、このお祭りが神殿と一体になって行われる事を雄弁に語っていた。
そこで奥まった一つの部屋があり、巫女姫はそこで休憩しているらしい。
「巫女姫、くだんの黒髪の娘を連れてきました」
「おはいりなさい」
物柔らかな声の後、私は中に入った。神官たちを見て、ヴェールの向こうの彼女が言う。
「二人きりで話がしたいわ。おさがりなさい」
「はい」
巫女姫の命令は、強制力がありそうだ。神官たちは頭を下げて退室する。
そこまで言ってから、彼女はこちらを向いた。
「日本人でしょう?」
開口一番のそれに、ぎくりとした私だった。
「あの?」
「あなたがここに来れたのならば、ここから帰る方法もあるのよね?」
「お話が見えないんですが」
「……わたくしは、結婚式の数日前に、小さな女の子をかばって交通事故で死んだらしいの。で、目が覚めたらここで、巫女姫だったの。わたくしは、日本に帰って、彼に会いたいの!」
話している間に、興奮してきたのだろう。彼女が私に縋りつく。
「ねえ、ここから帰る方法があるんでしょう!? 帰りたいの、彼にごめんなさいと謝りたいの! 結婚式の前に、酷い喧嘩をしてしまって、後悔して後悔して後悔して、帰りたいの! 彼がわたくしだとわからなくてもいいの! ねえ、帰れるんでしょう! ここに来られたのならば!!」
手が震えている。泣きそうだった。
私が歯噛みして、私自身も帰り方が分からない、と言いそうになったその時だった。
「かがやまち!」
彼女の部屋の鏡から、私を呼ぶ声が聞こえてきたのは。
「はい、かがやまちです! めちす先輩でしょうか!?」
「なんで現場から二十年前に飛ばされているんだお前は!?」
二十年前。そこでピンときた。
「先輩、最初の一人がここにいます! 彼女、日本に帰りたがっています! 実行部隊を回せませんか!」
「何だって!?」
二十年前に最初の一人がいるともなれば、誰も最初の一人なんて見つけられないだろう。
私は運よく、最初の一人の時代に接触できたんだ。
ゲームが始まる、うんと前に。
「お前、お守りは持っているか」
「はい!」
エプロンバッグから引っ張り出せば、めちす先輩が言う。
「それを鏡に押し当てていてくれ。それで実行部隊をそちらに送る!」
「はい!」
巫女姫は私たちのやり取りが分からなかったらしい。
だが鏡が、日本につながるのは感じたようだ
「そこは日本につながっているの? ここから帰れるの!?」
「いいえ、これから、あなたの魂をその体の持ち主から引きはがして、日本に帰してくれることができる人たちが来るんです」
「ありがとう!」
彼女が泣きじゃくりながら、私に抱きついた。お守りだけは鏡に押し当てながら、私は実行部隊を待っていた。
そうすると、物音が消えた途端に、前回と同じ面子が現れる。
「帰りたい人か、今回は争いごとにならなさそうだ」
「それにしても運が強いというべきか変な運というべきか、悩むね、かがやまちさん」
狐お面も狼お面も肩をすくめ、猫お面が笑う。
「さて、ではあなたをその体から、この鏡にいったん映します。そして日本に連れて行きます。おそらくあなたはまだ、日本で体が生きている。帰郷の思いが強い人は、そう言ったパターンが多いので」
「ええ、やっと彼に謝れる……」
彼女は狐お面の鏡に吸い込まれ、彼等が私を見る。
「さて、今回も一緒に帰ろうか、かがやまちさん」
「はい」
頷いたとたん、足元が無くなり、二度目なのであるが……
「やっぱり落ちるの慣れない、なれないいいいいいい!」
叫びつつ、私はオトハタに落ちて行った。




