巻き込まれて単独
「出てきた人間を皆、担架に乗せて行って!」
門の方に走って行けば、悲鳴のような声でそう言われた。
つまりそれが保護の方法なのだろう。
担架はニ十個くらいあって、二十人もその、“プリ学”に入っていたのだと知れる。
それだけ入っていて見つけられないって、本当に、そこの世界の最初の一人は何者なのだろう。
そんな疑問を胸に抱きながらも、私も待ち構える。
帰還してきた人たちは、門から倒れ込んだり、そのまま駆け出して担架に乗ったり、と反応が様々だ。
ただわかるのは、彼等が皆命からがら逃げてきた、という事だけ。
酷い人になると全身血まみれで、動いちゃいけないんじゃないかって位負傷していたりする。
そんな人たちを担架に乗せたり、抱えていったりしていけば、私の体も血まみれだ。
ほかの人達も似たような姿だし、悪目立ちはしていない。
そしてあと数人になった時だったのだ。
「異常事態発生、異常事態発生、門が強制的に閉まります!」
「まだ三人帰還していないんだぞ!」
怒号と悲鳴のような叫びが飛び交う。
「駄目です、門が向こう側から閉められています! 神々の介入とは違うようです! 閉門までカウント、60!」
その六十秒の間に、あと三人が帰ってこなければいけないのだ。
私はそれをほかの人たちと同じくらいに、近くで待ち構えていた。一人が40あたりで倒れ込んできた、二人目が20で。後一人! と思った矢先、本当に扉が閉まり始めた。
そして向こう側では、足を血まみれにして引きずりながら、こっちに来る誰か。
閉まってしまう、門が!
その時の私は、居ても立っても居られないから、ほかの人が絶望的に動けない中、その門に手をかけて力いっぱい、その門を引っ張った。
人間の力だからきりが知れている、でもそれは正しかった。
最後の一人がこちらに這いずって来る、それを引きずってこちらに連れ出す人、私も門から手を放そうとした時。
向こうからすごい力で引きずられて、
「かがやまち!」
めちすばず先輩の怒鳴り声を聞きながら、私は向こうに引きずられていった。
いってえ……というのが最初だった、えらい痛い。
多分引きずられていく際に、あちこちぶつけたのだろう。
時空の狭間的な奴に……
なんとも言えない気持ちで起き上がり、そして連絡手段が何もない事に頭を抱え、私は辺りを見回した。
前回同様くさっぱらである。くさっぱらだからこそ、いきなり人間が出現しても、大騒ぎにならない。
そこはいいんだ、大騒ぎにならない方がやりやすい。
だが今回は、頼りになるめちすばず先輩やヤカブ先輩がいない。
何もない状態、でサバイバルなのである。
私はポケットの中身を確認した。
それから常に腰にぶら下げていた、エプロンバッグを確認した。
折り畳みナイフ、マッチ、非常食、方位磁石、それから紙とペンとお守りである。
このお守りは、オトハタで最初に渡されたもので、これがあると異世界の神々の加護を受けやすくなるのだとか。
確かに加護は働いているだろう、人目につかないくさっぱらに放り出されたのだから。
さてこれからどうしよう。また前みたいに街でも何でも探すか。
と、思った矢先の事だった。
がらがらと荷車らしき物が近付く音がしてきたため、これ幸いと立ち上がって手を振った。
「すみませーん、乗せてくださーい!」
荷車は馬の様な生き物が引いており、それを操っていたおじさんが私を見て、声をかけてくる。
「どうしたんだい、こんな道の中で一人で」
「おじさん何処を目指しているんですか?」
「この近くの町さ、これからお祭りなんだ。お祭りで出店をするのが、俺の一年で一番楽しい稼ぎなのさ」
「あ、私もお祭りの噂を聞いてここまで来たんです、でもさっき獣に追われて道を外れたら……どこがどうなのか分からなくなってしまって」
「獣に追われた? ああ、このあたりは獣が出るからな。可愛そうに、それで荷物も置いてきちゃったんだろう。取りに戻ろうなんて思ってはいけないぞ、獣は自分の匂いのついたものを自分の物、と思って、取りに戻った人間を襲うからな」
「はい」
熊みたいなものか。私はこのおじさんに出会えた幸運に喜びながら、心優しいおじさんに、荷車の端っこに乗せてもらった。
「乗せてもらうんだから、出店のお手伝いをしましょうか?」
「それはちょうどいいな、出店はいつでも人が足りないんだ、でもうちのかみさんは家を守ってるし、うちのちびどもはまだ餓鬼だしな」
私は嘘をつきまくりながら、取りあえず不信感を抱かせないで街に入る事に、成功した。
街は確かに浮足立っており、間違いなく祭りが明日だと知らせてくる。
「噂ではきいていたけれど、こんな盛大なお祭りなんですね」
「このあたりで一番大きな、神様に感謝をする祭りだからな! 今年の巫女姫は歴代でも一番美女って事で余計に、噂が流れているのさ」
歴代で一番美女。……なんかオトハタの案件にかかわっていそうな感じがする。
ちょっと調べてみよう、お迎えが来るまで単独で。
私はそして、おじさんと一部屋の宿を借り、衝立で寝場所を分けて、一泊した。
その前に、おじさんの売り物とかを、しっかり聞いておいたので、明日の出店ではきっと、へまはしないだろう。
あくる朝、ぼやけた思考で朝ご飯を食べる。机に乗せられたのは共有の鍋物であり、朝からがっつりたっぷりである。
私も自分用のスプーンでそれを取り皿に分けて、おじさんとその他知らない人たちと鍋をつつく。
朝から香辛料の濃い味だ。スパイスの自己主張が強い。そして塩気はそんなになくて、なんだか味がぼけている気がした。
肉は延々と煮られていたからか、ほろりと骨から外れるほど柔らかい。筋肉の癖にやるな……髄まですすっていたら、おじさんが言う。
「肉なんてあんまり食べてこなかったんだろう、そのがっつきかたは」
「こんな風に食べるのは初めてです」
日本でスペアリブなんて、滅多に買う物じゃなかったし。
その後鍋の中の芋を食べているときにようやく、固いパンが渡された。
「これは汁に浸して食べるんだ、鍋を最後まで味わえるし、汁が染みたパンもうまい」
「なるほど」
外側に糖蜜が塗られた、少し変わったパンは汁に浸せば、甘しょっぱい感じで、いくらでも食べられちゃいそうな感じだった。
この鍋物は、パンに煮汁を浸すことを計算してあるのか、と感動するものもあった。
そして朝ごはんの後は、おじさんと荷物を確認し、値札も確認し、いざ、出店である。
気合いを入れて仕事に取り掛かるために、出店の出るところを見回せば、おじさんが言う。
「ここは巫女姫の通り道だからな、ここを巫女姫が通るんだ。毎年そうだから、出店は途中で終わって、観覧席の一種になる。観覧席としての場所代も、結構稼げるいい物なんだ」
「お祭りっていろいろ便乗するものなんですね」
「便乗してこそかせぎどきってやつだからな」
頼りになるおじさんは、そう言ってにやりと笑った。




