見つからない最初の一人
「この世界はどうしても、見つからないのよね」
「何がですか」
本日も色々なレポートを提出し、無事に二重丸をもらって学習したことを確認している際に、先輩が言い出した。
この先輩は解析班の一人で、結構重要な伝言を預かる立場。そのために本部局の中心地であるここと、解析班の仕事場を行ったり来たりしている。
これができるのは、この人間ならば情報を歪曲しない、という信頼がある人物だけなのだという。
確かに、この職場は報連相をとても大事にしているから、信用のできる人間でなかったら駄目だろう。
それを言えば、そうね、信用の方ね、と彼女は笑うのだけれども。
「最初の一人がどうしても見つからないのよ、ほかの人たちはじゃんじゃん見つかるんだけれども、最初の一人だけがどうしても、引っかからない。この世界の創造神の情報をもとに探っているのだけれども、ちっとも目的の人物に引っかからないのよ」
言いながら書類をまくった彼女が、ちらりと私のやった事が書かれている物を見る。
そして沈黙した。
「ねえあなた。たった数日で、難解な案件だった「恋華」の最初を見つけたの?」
「こいはな?」
「乙女ゲームの名前よ。恋する乙女は可憐に華開くっていうのがタイトルでね、これも結構長い間、探索班が見つけられなくて苛々していた案件よ。あなたが飛び込んで数日で、あなたを研修させていためちすばず班が発見、そして実行部隊と連携をとって見事、解決したって書いてあるわ」
「私はそれでめちゃくちゃ怒られましたよ。一人で行動するなって。どうやら体力の誤差があったようで、三人で追いかけている途中、彼等とはぐれてしまったんです」
「それはどうでもいいわ、大事なのはあなたが介入した事で。この案件が解決したという事よ。たまにあるの。新しい人間がへんな能力持ってて、解決早くなる事。あなた何もない大草原で、村を見つけるっていう千里眼持っているそうじゃない」
「そんな御大層な物じゃありませんよ、気配を探って探っていくんです。見えているわけじゃないので、結構外れも引くんですよ」
日本ではそれでしょっちゅうはずれを引いた。サバイバル大会の時に、親戚の煮炊きの後だけ見つけて、ご飯のおこぼれをもらえなかった事も多かったっけなあ。
たまに煮炊きに遭遇して、食料の分け合いをして、一緒に同じ鍋の中身を食べる事もあった。あれは結構おいしい鍋だった。色々突っ込まれていて、再現不能だけれども。
「外れも引くけど、あたりも引くんでしょう? あなたかなりの強運の持ち主じゃない」
「いいえ? ブラック企業に就職しちゃったり、セクハラで貞操の危機に陥ったり、色々大変な目に合っていますから、強運とはいいがたいと思います」
運がいいなら、最初からもっとましな企業に就職できたはずなのだ。
そうじゃないのだから、そんなに強運ではないだろう。
この世で一番敵に回したくないのは、運のいい相手だ。
運のいい相手は、その運の良さでこっちの有利性を覆してくるからな。
だから運のいい相手かどうか、見極めるのも大事なのだ。その嗅覚は修行中で、営業の中でこれから、繁栄していきそうなところと取引をする、という事で鍛えている真っ最中だった。
セクハラ上司からは、運の悪い匂いがよく漂ったので、近寄りたくなかった。しかし相手は近付いてきて、結局相手も身の破滅である。
多分男の急所が再起不能になったはずだ。
ヒール七センチ、それもピンヒールで的確に蹴り込んだのだから。
それで傷害罪にならなかっただけ、私の運はましなのだろう。首になったが。その後苦労しまくったが。
犯罪歴がないのは、非常にありがたいものである。世間様の眼が違うからな。
「でもここに見つけてもらえたんでしょう、結構な運の強さだと思うのだけれども」
言いながら彼女が、ふと思いついたように言う。
「確かあなたの指導者、めちすばずよね? 彼は今手が空いていたはず、そう……ちょっとあなたをつれてこの、「プリ学」に入ってもらおうかしら」
「え? まだ私、研修全部合格してませんよ」
「こっちも煮詰まりすぎて大変なのよ。どこまでがさ入れしても、見つからない最初の人間。どこから探しても尻尾すら掴ませないその、かくれんぼ上手を探さなきゃいけないの」
だから、と彼女は続けた。
「あなたみたいな、初心者の方が見つけられるかもしれない。申請通してくるわ、ちょっとごめんなさいね」
立ち上がった彼女の眼の際の色濃い隈、確かに煮詰まって煮詰まってどうしようもないのだろう。
早く新しい案件の方に行きたいに違いない。
解決できない案件が長引くのは、人間負担が大きいんだ。
まだ解決できない、そんな心理からすごいミスをしやすくなったりもするわけだし。
「忙しいんですね、このオトハタ」
こんな暢気に言っている状態じゃないのだが、私は心底そう思ってしまったのは、否めなかった。
だって一つ案件が片付いたと思えば、まだ片付いていないと解析班がピリピリするのだから。
どんだけたくさんの世界が、転生者によって破綻しかけているのやら。
まあ憧れるのはわかる、違う世界でワンチャンス。美人に、イケメンに、日本とかの進んだ技術でチートして、大成功して嫌な奴を見返す、そんな事をしたい人の心理が、分からないわけじゃないのだ。
だがオトハタでそれは許されないのだから、彼等の身勝手は世界が許さない事なのだろう。
私はあと少しになったマニュアルを開いたのだが。
すさまじい音で警告音が鳴り響き、また怒鳴り声。
「今度は誰だ!」
「プリ学、あおがみめうが負傷しました、転送します、カウント、10!」
「プリ学、とむかしぶ帰還します、あちらで異常事態が発生した模様、一度全員帰還を申請しています!」
「全員帰還を申請するって何事だ!」
「作中にない戦争の勃発と反乱、こちらの人間をその中に入れる事は危険だと判断したようです!」
局長の判断は一瞬だった。
「門を開け、全員帰還させる! 全員の命を優先しろ! かがやまち! お前は門の方で帰還する人間の保護を手伝いに行け!」
保護の手伝いって何するんだ!?
ぎょっとした物の、足は局長の指示通りに走り始めていた。




