創造神の手のひらの中
今回の問題がどうしてそうなったのかの話をしよう。
私が創造神により引っ張り込まれた世界”パイ恋”風異世界で、とても大事な物があったのだ。
それがゲーム中でもキーアイテムとされていた、攻略対象から与えられる”だいじなもの”だった。
これはゲームを始めた段階、つまり初期では一番はじめに出会うのがキャプテン・シンである事から、一番はじめはキャプテン・シンからもらうアイテムである。
ゲーム中では、だいじなもの枠があって、プレイヤーは初期で装備するのが”キャプテン・シンのおまもり”だったのだ。
これはゲームの途中で変更可能な物で、”だいじなもの”によって攻略対象とのイベント変更が有ると言う。
攻略には欠かせないキーアイテムというわけだ。
ゲームの中では、パールレディである海賊の楽園の港で、ゲームプレイヤーがゲームを進めるためにはこの、”だいじなもの”が必要不可欠だった。
海賊達の港では、こう言った物を所持しているかしていないかで、人々の対応に雲泥の差があったのだ。
鬼畜難易度を選択すると、それなしでゲーム進行が出来るそうだが、ものすごい難易度の高さになるから、過半数はそれを選択しないくらいだったそうだ。
この世界はゲームの世界では無いのだが、そういう暗黙の了解は存在していて、攻略対象に該当する人間から与えられる”だいじなもの”が無ければ、探索班の仕事は出来ずに終わる可能性が、異常なまでに高かったのだ。
つまり、この世界を救うためには”だいじなもの”を手に入れなければならない。
”だいじなもの”を手に入れるためにはどうするか。そう簡単にはこれらは手に入らない物だから、攻略対象に該当する人物とそれなりの接触をしなければならない。
……そこで選ばれたのが、ゲームではあり得ない流れであるが、仲間達に裏切られて船から降ろされて、島流しの刑に処されたキャプテン・シンと出会うと言う流れだった。
そこでキャプテン・シンを助ければ、八割以上の確率で”だいじなもの”に当たる”キャプテン・シンのおまもり”をもらえる。
そのために、創造神は、探索班の人員を船に乗る前の段階に到着させて、船から落としたり船を沈めたりして、キャプテン・シンと出会うように仕向け続けていたのだ。
だが残念な事に、サバイバル技術やその時の運命の流れがうまくいかなかった事などが重なり、キャプテン・シンと遭遇し、それなりの接触をし、”キャプテン・シンのおまもり”をもらってパールレディに到着できた探索班が居なかったというわけなのだ。
どの神様も、頭から指示を出す事を乙ハタの構成員にしないので、皆必死になっても、その流れにならないままだったわけなのだ。
しかし、私だけが。
創造神に引っ張り込まれた私だけが、サバイバル生き残り技術に精通していて、到着時点で脱水症状で死にかけていたキャプテン・シンを救助し、それなりの接触を可能にし、”キャプテン・シンのおまもり”を手に入れる事に成功したのだ。
その後どうしてほかの応援になる探索班の人員が、この世界に転移出来なかったのかというと、居る方が世界を救うのに都合が悪かったからだ。
アルヴィダの所には、色々な人間が出入りしていて、妙な真似をする人間が三人も四人もパールレディに居たら、彼女の耳に入り、何かしらの妨害工作が行われた可能性が有るのだという。
なんていったって明らかにみょうちきりんなもの、スマホもどきだったり普通の飾りに見えたり卵形物体だったりを、アルヴィダが開発した物にかざす連中がいたら、それは下手すりゃ商売敵に見えてくる。
そうなったらアルヴィダ側の人間が探索班に妨害工作を行う。金が絡むと人間は厄介だ。
そう言うわけで、”パイ恋”の神様は私以外の人間が転移してこないようにあれこれ阻害したのだ。
そして私が戻れなかったのは、帰還した場合の三十分問題のせいだとか。
キャプテン・シンと接触が多く、彼がいつ私の所に来るかの未来予知など乙ハタの解析班達には出来ないわけで、私が”パイ恋”風異世界の中で休みを取ったその日に、キャプテン・シンがやってきて、強引に客として私の所に来る事はそれなりの回数あった。
その時に、私が部屋にいるはずなのにどこにも居ない、三十分も戻ってこないとなったら、大騒動に発展する。
キャプテン・シンは私に対しての不信感を強めるだろうし、店の人達も私の行動に制限をかける可能性が出てくる。
そういう総合的な視線の結果、私は世界を救うために戻れなかったのだ。
……と解析班の人の中で、唯一目の下に隈を作っていなかったじょなさとから、にこやかに聞かされた私は、実になんとも言えない気分にさせられた。
手の傷はあっという間に治してもらったのに、何故か傷跡は消えてくれなくて、治療班の人達が頭を抱えていた。異世界で塞がった傷の場合は、傷跡が残ったりもするらしいが、こちらに戻ってきて治療した傷は、跡形も無く治るのが普通なのだという。
それが治らないものだから、治療班からすると大問題で、結構調べる必要があるそうだ。
そう言うわけで、私はしばらく異世界に行く作業から離れる事になった。
じょなさとがくみ上げた探知機も見事に真ん中にナイフが突き刺さって貫通して、稼働不可能な状態で、それを直す時間も必要だったわけだしね。
「……私だったから、キャプテン・シンは助かった。私じゃなかったら、創造神の考える条件に引っかかれなかった」
私は自室でごろりと寝転がって、ぼんやりと梁天井を眺めながら呟いた。
一体どこまで神様が可能性を転がしていたかは知らないが、相当な低確率な条件の人間を、創造神は欲しがったのだろう。
キャプテン・シンを助けられる知識があって、キャプテン・シンが気に入る能力を持っていて、一見すると何の変哲も無い人間。
「なんだかな……」
キャプテン・シンは時の巻き戻った世界で、きっと海賊家業で世界を荒らし回って楽しく暮らしているだろう。
私を思い出す事なんてありえない。だって私がいた時間は無かった事にされているのだから。
だからキャプテン・シンとのあれこれを思い出すのは、私一人だけなのだ。ほかに誰も思い出を持っていない。
「下手に体を許すんじゃ無かった。情が移ってしょうがない」
人間、人を好きになるのって意外と簡単だ。私は初手で笑顔に心をやられた。だから体の伴うあれこれの流れになった時に、強く拒絶しきれなかった。
「千里眼」
目を閉じれば、私がほとんどの人に名乗らなかったから、そう彼だけが呼びかける響きを思い出す事が出来てしまう。
「お前女だったのか。ははっ一層ちょうどよくなった」
手練手管で服を脱がされた時に、見えた裸の姿を見て、舌なめずりして思い切りにやりと笑って、そう言ってきた時の、心底うれしそうだと薄暗がりでもわかる表情を思い出してしまう。
「……こっちで誰かいい人居ないかな」
恋の問題は新たな恋で解決すると言うのが、先達達の意見だと思う。
でも、はたして私は、あれほどの男を上書きできる人間を、日本で見つけ出す事が出来るだろうか。
私は日本ではあまり人気のある容姿をしていないし。女子力も低いのだから。
「合コンは……乙ハタってだけで不可能だしなあ」
合コンする時間があったら皆、自分の回復の時間に充てるのが乙ハタ流だ。それに仕事内容がこんな感じだから、一般男性との恋愛には不向きだ。
「……君が最悪の事態になってなきゃいいよ。君があの傷を負う事も無く、生きてくれてさえいれば」
海賊家業は過酷な世界だ。海軍とかに掴まったらあっという間に縛り首になる事もよくある。
それを知ってしまっているから、私はキャプテン・シンがそういう終わり方を迎える事無く、穏やかに人生を終わらせる、そんな未来に進んで欲しいと願ったのだった。




