着実に進む探索
「アルヴィダの館で、厳選した招待客を招くらしい」
「へえ」
「聞けばその厳選した招待客は、皆見目の麗しい海の男だそうだ」
「はあ」
「あんたの男も招待されてそうじゃないか、うかうかしてられないね、カガヤ」
「私の男はおりません」
「……あんたそういう情緒どこに置き忘れてきたんだろうね」
「多分母親の腹の中」
最初の一人への核心に近付いてきたある日、オーナーから呼び出されての会話で聞かされたのはそんな中身だった。
その招待に是非参加したいが、一介の占い師の女に、そんな招待が来るわけが無い。
それにアルヴィダが女性で、最初の一人で、攻略キャラその他を手に入れたいと思っているなら、余計な招待客は招かないだろう。そう考えると、潜入が難しくも思われる。
臨時の人員補給とか無いかな……求人有るだろうか。
そういう時だけ、見栄のために人を余計に雇う世界が有るのを、私はもう知っていた。
「あんたの男はあんなにあんたに夢中だってのに。聞けば何にもほしがらないって話じゃないか。どんどん貢がせなさいよ」
「えー、売れっ子になる予定ないんで。占いで細々と生活できれば」
「あんたの占い無駄に当たるんだけどね。一体どういう了見で、相手の浮気だの猫の居場所だのを、座った状態で見抜くんだか」
「それは企業秘密です」
「違いない」
オーナーはそう言って、私に今日も、占い師として店に出るように指示を出し、己の仕事に戻っていった。
私は見た目からして怪しい占い師という感じになるべく、そういう格好に身を包み、占い師としての道具一式が置かれている部屋の片隅に座る。
下働きで占い師。そしてキャプテン・シン専属。
それが今の立ち位置だ。占い師としての日数は下働きの三分の一。それに見合ったお給金が出るので、生活には困らない。
私は今日も、悩める人々の声を聞き、気配を探って、いかにも当たりそうな風に口から出任せを唱えるばかりだった。
……これが当たるってのがなんとも言えないんだがな。
「おい、千里眼。お前はうまい飯が食べたいと常々言っていたな」
「腐って無くて食中毒にならない食事なら何だって大歓迎だけど」
「お前そう言うところがかわいくないよな。で、こいつに着いてこい」
「こいつって」
「アルヴィダの招待だ。あれは女性大富豪だからな。世界中の珍味から美味からが集まる」
「へえ、本当にあんたも招待されていたんだ」
「なんだその言い回しは」
「オーナーが、海のいい男をアルヴィダが招待して、特別な宴を開くって言ってたから」
「さすがオーナー、情報が早いな」
「でもおまけがついてきていいわけ?」
「この招待はこれで十度目だ。アルヴィダは名の知られた海賊達を集めての宴が好きな女でな。見目のいい奴を侍らせているのがお好みだ。だが海賊も馬鹿でもないからな、そこに今の一番のお気に入りを同伴させるのさ」
「おきにいりねえ」
私はうろんな顔で招待状を振った。お気に入り。海賊達のお気に入り。見目のいい男を侍らせたいアルヴィダが、お気に入り達に不快な思いを抱くのは明白そうだった。
でも海賊達も、あれこれ矜持があるから、ただ女の人にこびを売るわけも無いのだろう。
「俺はお前を連れて行く。お前はどうせ飾られるのが嫌いだのというだろうからな、そのままのお前を連れて行く」
「言っておくけど、綺麗でもかわいくも可憐でも華奢でもない人間連れ回して、笑われるのはあんただと思う」
「その見た目をひっくり返すのがお前だ、千里眼」
「千里眼じゃない。千里を遙か見通す異常能力者じゃ無い」
「言ってろ言ってろ」
キャプテン・シンはそう言って、私の頭をなでた。なでて頬をなでて、背中を丸めて顔を近寄せる。
……この仕草にも慣れてしまって本当に嫌になる。全てが終わればこの男は私を忘れるのに、居なかった事になる女が私だというのに、男から与えられた癖を抱えるのはしんどそうだった。
それでも、おとなしく目を閉じた私に、ご機嫌そうに喉を鳴らして、キャプテン・シンは私に唇を落としたのであった。
「以上、途中経過。潜入任務が可能になりました。当日、できる限り中を探っていきます」
「了解。世界は今ぎりぎり崩壊していないと言うデータの状態だ。このままアルヴィダが地球の物を改良し世界に流せば、一気に奴隷売買が膨張し、世界を巻き込む大戦になる」
「魔法を使える人間を、無差別に奴隷として捕まえて売買するのが、今回の崩壊のネタですか」
「そうだ。お前からもらった数多のデータのおかげで、そういう統計がとれてきた。……怪我をしないように気をつけろ。緊急時の合い言葉をここで決める」
「合い言葉?」
「探知機を前もお前は強奪されただろう。そういう状況下に陥った時の必殺技だ」
「わかりました。どうしますか」
「滅多に言わない言葉がいい。何か無いか」
「うーん……今回限りの合い言葉としてですが”私は君を心から愛している!”でどうでしょう」
「それが合い言葉になる現状が相当だが……よし、記録した。十分に気をつけて行動するようにな、かがやまち」
「はい」
私はアルヴィダの館に行く当日の朝方に、局長達、日本の彼等と最終連絡になるかもしれない報告をとった。
これで一気に片がつけばいい。アルヴィダの館に、最初の一人がいれば、もうこの世界とおさらばできる。
どれくらいの長期間、私がこの世界に居るのか、日数を数えていないけれども、結構な日数だ。特別手当がぼーんと出そうな位だ。
それが出たら何を買おう、何を食べよう、そんな事ばっかり考えたくなる。
この世界が嫌という以上に、地球の日本の生活が恋しくなって仕方が無いというやつなのだ。
便利になれた人間は、不便に甘んじられなくなると言うのが基本であるからして。
「カガヤ、迎えの旦那が来たよ」
「うらやましいわ、キャプテン・シンがお迎えに来てくれるんだから」
「本当に特別待遇よね」
「どこがいいのかしらね」
娼館の女性達が口々に言っているけれども、私に見た目や性格以上の付加価値を見いだしているのがキャプテン・シンという物好きなので、どうしようも無い話だ。
私はこの世界に来た時に身につけていた衣装を着用し、キャプテン・シンの所に向かった。
「その格好は、懐かしいな、最初の時の服じゃねえか」
「ビシッと決めたいから」
「それがビシッとになるのか」
「気合いが入る」
「ふうん。まあ、ひらひらしたの着てるより面構えが違って見えていいだろうな」
そう言って、私はキャプテン・シンと道を歩く。夜に来る男と、真っ昼間に歩いた事はない。
だからこれも最初で最後の経験になって欲しい。
覚えているのは私だけになる、それがこの世界を救うための手段なのだ。
前だけを見る。
豪華絢爛な、アルヴィダの館がもう目の前だった。




