下手な加護より効果がある
「……しっかしこれ強すぎやしないか」
私は耳たぶにつけられた飾りをいじくった。それはこの世界の創造神が天から落とした方じゃない耳飾りで、豪華な飾りのついたピアスである。
個人的にピアスがあまり好きでは無かった身の上なので、現代日本でもピアスの穴は開けていなかったのだが……物の見事に開けられた。
誰にと言われたら、あのキャプテン・シンだ。
あいつ、パールレディに到着するって言う前日の夜中に、船室で今後の事を考えていた私の耳たぶをつまんで、何が起きているかわからない状態だってのに、いきなり耳たぶに穴を開けて、このピアスを押し込んで来やがったのだ。
「痛い! 何するんだ!」
これくらいはさすがに言わせてもらおうと、怒鳴ると、彼はにやりと笑ってこう言った。
「パールレディで一番効果のあるお守りだぜ? 持っておいて損はしない」
「そんな嘘八百を」
「そう思うなら港に着いてから効力を確認すればいい。さて千里眼、お前の行く当てはあるのか?」
「今のところ目的地がパールレディだっただけで、ないっちゃない」
「ほう?」
行く当てとか今後の事とかを素直に言うと、彼は目の色を変えてきた。
「なら……都合がいいな」
何の都合か全くわからなかったわけだが、翌日に港に到着して、船番の人以外が意気揚々と港に降りていく中でキャプテン・シンは私の腕をつかんで、ほぼ引きずる形で、いかにも男の人御用達って感じのする、夜のお店の建物に連れて行かされたのだ。
そこで。
「なあオーナー。こいつをここの隅の部屋に入れておいてくれないか?」
夜のお店の表から入ってオーナーを呼んで、私を示してオーナーの女性にそう言ったのだ。
「下働きでも何でもいいだろうが、俺が来たらこいつを呼んで欲しい」
「……驚いた、あんた専属を雇えって?」
「それくらい都合出来る程度には、金を落としているだろう?」
「こんな坊主に入れ込むなんて重症だね、シンの旦那」
私の意思を一切合切無視したやりとりが行われて、オーナーは私の耳の片方につけられている彼の耳飾りをちらっと見てから諦めたようにこう言った。
「やれやれ、それを渡すだけ夢中な坊主か。確かにうちで預かった方が色々都合が良さそうだ」
「だろう?」
私はやりとりの間にそっとその場を離れようともしたが、腰の布をがっちりと彼に掴まれていた状態であった結果、逃走は叶わなかった。
こういう事情の結果、私はキャプテン・シンのお気に入りのお店の一番小さい部屋を借りる事になり、下働きとして走り回る生活が始まったのだが、ここから私は耳飾りの真価を思い知る事になった。
何しろ港の人間達が、とても友好的に会話をしてくれるのだ。基本よそ者は、よっぽどおカネを落とす上客で無ければ友好的ではなさそうな人々が、かなり親切にしてくれる。
その時に必ず、私の耳の、シンの飾りを確認するわけで、私はお守りがいかにお守りかを体感した。これはやべえ。
そういった友好的な皆さんなので、探知機で怪しそうな品物をスキャンする際に
「死んだ師匠の遺言で、面白い物はこれにかざしてくれ、天国からそれを見ているよ、と言われたのですみません」
なんてべらべらと嘘八百、口から出任せを言っても、誰も嫌な顔をしなかった。
……お守りの効果絶大じゃねえかよ。もらっておいて良かった。
そうして、日付を数えるのも忘れる位に、下働きと異世界スキャンを行っていた私は、どうやら着々と解析班に、有力な情報を送信し続けていたらしい。
「色々情報が回ってきた。この保存の知識が足りないはずの世界で、魔法式とはいえ冷蔵庫があるのはかなり怪しいが、その出所がパールレディってのは大事な情報だ」
「手動式で洗濯機があるのも重要な情報だ」
「新しい道具が次々パールレディで開発されているのは、転生者がそこで暴れている証拠に違いない」
そう言って解析班の皆さんは喜んでいた。と言うのも、世界中の品物が集まるとさえ言われているパールレディで、よその国や地方から、変わった物、流行の物がどれだけ集まってきていても、地球式あれこれは入ってこなくて、代わりにパールレディで斬新な物が披露されるからである。
かなり絞られたという事なのだろう。
私はこの間にも、十人ほどの転生者と遭遇したが、最初の一人では無いため、いくら彼等彼女らを地球に送還しても、いたちごっこと言うわけだ。
彼等彼女らを送還しても、魂が本物の彼等から剥がされて地球に送られていくわけなので、存在の抹消その他は起きない。そういうパラドックスって奴は起きないのだ。
私はじわじわと、最初の一人に近付いている手応えを感じていた。
しかしいかんともしがたいのは、行動できるのが私単独で、情報を集めるのも私だけと言う圧倒的人手不足である。
ほかの人達も応援として来る予定だったのだが、全員転移を扉に拒絶されたらしい。
何かがそれを意味しているらしいが、本部局の方もこれまた前代未聞の珍事に、頭を抱えているらしかった。
そして私はその日も、外にお使いがてら、有力な情報が無いかを聞き回ったり、探知機スキャンをしたりして過ごしたり、力の要る雑用をあれこれこなしたりして時間が過ぎていった。
「……という状況です。そういった斬新な物を発表するのは、どうやらパールレディの女性富豪、アルヴィダという人だとか。怪しいので接触できないか探ります」
「了解した。命大事に。無茶をしない、無理をしない、暴れすぎない、お前はいくら言っても足りないくらいにそれをするからな」
「まずはアルヴィダの性格改変が起きていないかを探ります。それから潜り込めないかも調べます。……早く地球に帰りたいです。大浴場が恋しいです」
「お前もそこに落ち着くか。乙ハタの探索班の八割は大浴場が恋しくなる」
私はその日の夜も、探知機の通信機能を作動させて、経過報告を行っていた。誰かに中身を聞かれるわけにはいかないので、あの創造神の耳飾りを外した状態だ。これで喋っても、中身を知られる事はなくなる。
「……で、お前個人はどうなっている」
「諸事情でキャプテン・シンと夜をともにせざるを得ない状況が多発しております。異世界では妊娠も病気もありませんよね」
「……聞いて申し訳なく思ってきた。だが安心しろ、そういう問題は起きない。遺伝子が違うからな。見た目は同じような感じでも、根っこが違うからそれらは起きない」
「安心しました。……早くこの世界を修正して、時を逆転させて、日本に戻っておいしいご飯が食べたいです。こっちのご飯は日本のご飯と違うのでちょっとつらいです。……そういえば噂ですが、アルヴィダの屋敷の食事は珍しい事も多く、そしておいしいとか」
「いよいよ灰色が黒くなってきたな。……無理だけはするな」
「了解、副局長」
そこで通信を切る。探知機は慎重に服の中に隠して、ついたての向こうに戻ると、そこではキャプテン・シンがあられも無い姿で寝入っている。
この男は、この日も、儲けが出たのかこの港に戻ってきてすぐに、この娼館にやってきて私を指名し、あれやこれやを行ったのだ。
最初の時は男の子だと思ってひん剥かれたが、ついてる物がついていないとなったら、この男はこちらが動けなくなる程のあれやこれやをおっぱじめやがったのだ。
それ以降、私はこの男が港に戻るたびにそういう扱いを受けている。
下手に機嫌を損ねた方が、任務全うできないとよくわかるため、私はその扱いに甘んじている。
こいつが無駄に格好いいのも悪い。ちょっとこいつならいいかも、と思わせる顔面と肉体なのが悪い。
私は日本で気持ち悪いセクハラを受けまくっていたせいか、そういう精神面がおかしくなっていると思うが、どうせ捨てる事になるなら、後腐れ無く、いい男でそう言った物を捨てたいと、最初に押し倒された時に真面目に考えてしまったのだ。
恋愛なんて縁が遠すぎる身の上でいた時間が長すぎて、かなりこじらせているとは思う。
……最初嘘偽り無く真面目に初めてだったんだけどな! 最初が異世界で海賊とか本当に人生としてどうなんだと思われるだろうが、ここまで身を張っているんだから、創造神には是非色々と、解決のために都合してもらいたいわけだった。




